『岩里祐穂 presents Ms.リリシスト〜トークセッション vol.2』

岩里祐穂 × 松井五郎が語り合う、作詞の極意 「女性が書く詞には“強さ”がある」

テーマ:恋

今井美樹「半袖」(1990年)

岩里:お次のテーマは恋です。恋といっても色々ありますが、私の作品からは「半袖」という今井美樹さんの歌をご紹介します。

松井:僕はこの曲がものすごい好きで。何が素晴らしいって、僕は詞を書く時に先ほどの音で考える方法と、それと五感で書くという方法があるんです。この詞には五感が多く入っている。まず<その人を見た>は視覚。<子供と遊ぶ笑い声が>、ここで聴覚。次に<初夏の匂い>で嗅覚が入ってきて、<駅に降り立ち木立揺れる>は体感ですよね、皮膚感みたいな。その五感の感じが頭の2ブロックの間にあって。……考えてなかったですよね?

岩里:すごい、初めて気がつきました!(笑)

松井:ストーリーを書く時や情景描写を書く時、僕もそうなんですけど、まず目から飛び込んできたもの。視覚的な手法ですよね。詞が退屈にならないようにする方法とも言えます。一方、もちろんずっとひとつの視点というのもよくて、例えばこの2行もいいじゃないですか。<まぶしい陽を浴びて 細く美しい腕が/白い半袖からのぞいていた>、ここのところ、ここは視覚だけだけど、このフレーズでこの歌のシチュエーションを決定づけていますよね。1行目の<その人を見た>は、僕から見るとその人が男性と女性、どっちなのかわからないんですよ。

岩里:そうなんです、みなさんに間違われますね。松井さんはどっちだと思いました?

松井:このBメロを考えると、女性かなと。

岩里:よかった、当たりです。

松井:そこに行くまでは男性の視点で見てしまうというか。でもそこが素晴らしい。

岩里:そう言っていただけると嬉しいですね。この曲は2コーラスめの<あなたは 愛してはいけない人じゃなく/決して愛してはくれない人>というフレーズが最初に出てきて。これで不倫、道ならぬ恋をテーマにしようと決めました。

松井:最後の<愛し続ける勇気を>ってところが、以前から僕たちの間でテーマになっていた、男らしさ・女らしさみたいなことにつながっていると思って。僕がもしここまで書いてきたら、最後の2行をどうするかなと考えましたね。

岩里:私は曖昧にはいきませんよ。女はガツンと。

松井:曲のテーマ的に僕だったら<愛し続ける勇気を/私はそれでも捨てない>って女の人に歌わせていいのかはすごく迷うところですが、言葉としてはこの2行もすごくいいです。

岩里:あくまで“心の中で思っていること”なので安心してください(笑)。

 

氷室京介「KISS ME」(1992年)

松井:次の僕の歌は氷室京介さんの「KISS ME」です。「半袖」に対抗して僕も中森明菜さんとかの曲かなと思っていたんですけど。

岩里:「『KISS ME』にしてください」と私がお願いしちゃいました。この歌の設定として、どれくらいの恋愛なんですか? 関係が始まった頃のお話かしら?

松井:そういう意味では、時間的な設定はないですね。

岩里:そうなんですね。私は<KISS ME>の後の<逃さない><許せない>、自分のMAXの表現、最上級の気持ちを表す時に否定で言い切る、この書き方がかっこいいなと。あと、恋の話を松井さんとしていた時に、松井さんは「始まりでも終わりが見えてしまう」とおっしゃってました。だから「始まったばかりの関係でも、『思い出まで捨てたら許せない』と書くんだ」と思ったんですけど、その辺はどうでしょう?

松井:当時は80年代、90年代ぐらいのバブルが終わる頃ですかね。あの頃の時代感・空気感みたいなものの中で、氷室京介というキャラクターがどういう位置付けにあったのか。当時『ブレードランナー』などのSF映画が流行っていて、例えば<メビウスのHIGHWAY>みたいな言葉もそうですけど、シーンの中で刹那的な感じを出したかった。まだ僕も彼も若くて、ある意味若くして色んなものを見たり聞いたり体験することができた時に、ここから先どこまで振り切っていくんだろうという、ある種刹那的な生き方というか、そういう感じは彼も持っていたと思いますね。

岩里:なるほど。あと<思い出まで/捨てたら 許せない>は、“許さない”にしていない。この“せ”と“さ”の違いってあります?

松井:受動展開、能動展開ですよね。“許さない”にすると意思が入る感じがする。

岩里:でも“許せない”んですね、この人は。

松井:そう。許せないというのは、自分でもどうすることもできないということです。

岩里:男の人の女々しさが表現されていて、そこがまたすごくかっこいいなと思いました。「詞に意思をあまり入れたくない」って松井さんはよくおっしゃるんですけど、さっきの私の「半袖」なんて、最後に意思表明しているような歌ですからね(笑)。やっぱり男と女で違いますね。今回恋の歌を取り上げることになって「私はいつも何を考えながら恋愛の歌を書いているんだろう」と思った時、松井さんが「始まりを書いても終わりが見える」とおっしゃっていたのがすごく頭に残っていて。それでいろいろ考えた結果、いつも私の歌の中には「終わってしまうかもしれない、だからこそ終わらないでほしい」という願いがあるということに気づきました。これも女性と男性の違いかもしれない。「この恋を終わりにしないためにはどうしたらいいか」とか「この恋が愛に変わる入り口となる恋だったらいいな」と願う気持ちが自分の中にいつもある。その願いを書いているのかなってすごく思ったんです。それは発見でしたね。

松井:何かを手にした瞬間、それを失いたくないっていう気持ちが働きますよね。何か強い光があるところには濃い影ができる状態といいますか。人間の感情ってそういったところがある。ですから、僕は当時もそうですけどやっぱり何か書く時にコントラストというか、幸せな場面なのにすごく悲しいとか、悲しい場面にも関わらず元気になるとか、そういった書き方をしてると思います。だから、ひとつの感情だけを頭からずっと書くということはあんまりしないかもしれない。

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