13thアルバム『迦陵頻伽』インタビュー

陰陽座が明かす、妖怪をコンセプトに掲げる理由「海外のバンドが竜や魔法や騎士なら、こっちは妖怪だ」

「曲作りよりも先にやることは曲名をつけること」

ーー作詞方法について、少しお話を聞かせてください。歌詞は曲からイメージして書いていくんでしょうか?

瞬火:そうですね。歌詞は完全にその楽曲単体に対して書きます。今作にはそのままズバリ「迦陵頻伽」という曲もありますけど、「迦陵頻伽」は迦陵頻伽についての曲なので、迦陵頻伽になぞらえた何かしらを歌っている。歌詞に関しては、基本的に曲ごとに名前をつけた時点でテーマが決まります。

ーー曲のタイトルを、ですか?

瞬火:ええ。これは歌詞を書かれる方によって千差万別だと思うんですけど、歌詞が書き上がってから「この歌詞で言ってることはこれだ」といってタイトルをつける方もいらっしゃると思いますが、僕は完全に逆で。まず曲作りよりも先にやることが、曲名をつけることなんです。つまり「こういう名前の曲を作りたい」という着想があって、それがある妖怪のことがテーマなら「こんな曲だろう」と曲を作り、曲ができたらその名前に従って歌詞を書くので、僕の場合は歌詞の根幹となる部分は名前が担っているんです。

ーー曲タイトルというのは、すんなり出てくるものなんですか?

瞬火:とにかくテーマにしたいと思うものがたくさんあるので、「曲のアイデアはいっぱいあるけど、名前を何にしようかな?」と悩むことはないです。この妖怪のことを、この伝承について次の曲にしたいとか、そういうリストもありますし。そこからアルバムにふさわしいテーマや題材を引っ張ってくるという感じですね。

ーーそれは面白い手法ですね。

瞬火:僕は自分の作り方しかわからないので……ただ、他のアーティストさんのインタビューで創作の話を目にすると、自分とは真逆のやり方なんだと知ることも多くて。そういう意味では……自分は変わってるんでしょうね(笑)。

ーーでも明確に曲にしたいものが自分の中にそれだけたくさんあるということですもんね。

瞬火:ええ。妖怪をはじめ、日本の伝承、伝説、それ以外にも歴史上のいろんなこと、あるいは人の感情や心の機微、そういうことはある意味際限がないというか。ひとつ作ったらまたもうひとつ、これを作ったら今度はこっちをやりたいと、題材には事欠かないですね。“妖怪ヘヴィメタル”と表現の幅を狭めているように感じられがちですけど、そのテーマは無数にあるわけで。逆に、何にも特化してないHR/HMバンドには無限にモチーフがあるぶん、選ぶのが大変なのではという気がします。

「迦陵頻伽は歌や音楽と直結した存在」

黒猫(歌唱)

ーー確かにそうですね。では、改めて新作『迦陵頻伽』の話題に戻りたいと思います。そもそもなぜ迦陵頻伽という想像上の生き物を、アルバムタイトルに選んでまで表現したかったんでしょう?

瞬火:迦陵頻伽というのは伝説上の、人頭鳥身で非常に美しい声で歌う生き物のこと。ものすごく美しい声で歌う、なんなら孵化する前に卵の中にいるときからとてつもなく美しい声で歌う生き物ということで、その存在自体が僕にとって、手前味噌ですけど自分のバンドのボーカルである黒猫の存在そのものと、昔から印象が被っていて。迦陵頻伽という名前や、こういう姿や存在感というのはずっと、このバンドがなくなるまでに絶対に題材にしたいと決めていて、少なくとも10年以上活動し、10作以上アルバムを出し、満を持してというところで作るということも決めていたんです。だから10枚目を作っているときにこの13枚目を作ることが決まってたと言いつつ、『迦陵頻伽』というアルバムを出すことだけでいえば、もう結成当時からいつかやると決めていました。

ーー陰陽座というバンドを始めた時点での、ひとつの目的でもあったと。

瞬火:はい。迦陵頻伽は歌や音楽と直結した存在なわけで。おそらくこのアルバムに関する取材で「なぜ迦陵頻伽というものをテーマにしたのか?」と毎回聞かれるんだろうなとは思っていましたが、逆に「歌い手がいるバンドのテーマとして他に何かあるのか?」と聞きたいぐらい、僕にとっては絶対に音楽として形にしたいモチーフだったんです。

ーーなるほど。そのアルバムはまず「迦陵頻伽」という、すごくしっとりとした雰囲気のタイトルトラックからスタートします。そのオープニングにまず驚かされましたし、そこから2曲目「鸞」へと続く流れもゾクゾクする構成でした。特に1曲目では黒猫さんの歌を軸に、全体的に妖艶さが明確に浮き立っている印象を受けました。

瞬火:迦陵頻伽たる黒猫および陰陽座というものが、この『迦陵頻伽』という作品を作るまでの17年、12作の間はまだ卵の中にいたのだと。そこからこの「迦陵頻伽」という1曲目で、今ようやく孵化して迦陵頻伽という存在として地上に降り立ったというイメージですね。だから、とにかく黒猫の声にフォーカスして、迦陵頻伽という存在が姿を現わす瞬間が感じられる雰囲気の楽曲にしようと思いました。で、そのあとは陰陽座の、ある意味ファンの方の多くが「待ってました!」と思うような、気持ちいい曲につながっていくという。そこは今回、絶対にそういう流れにすると最初から決めていた部分ですね。

ーー個人的な感想ですが、黒猫さんの歌が見せる表情からは今まで以上に成熟した感が伝わってきました。

瞬火:黒猫自身が歌い手としてまたひとつ進歩したというのは確実にあると思いますけど、僕が黒猫を迦陵頻伽たる存在だと見ているわけなので、それがバラードであろうとゴリゴリのヘヴィメタルであろうと、その歌を鮮やかに聴かせることが今作で達成できなければ「どこが迦陵頻伽なんだ」となってしまいます。アルバム自体は迦陵頻伽というテーマで縛っているわけではないんですけど、迦陵頻伽をタイトルに冠したアルバムとして、「今、彼女はこれぐらいの歌を歌うんだ、ここまで来ているんだ」ということを示せなくてはダメだと思っていたので、そこはもう意図的というか。彼女はもともと、いわゆるヘヴィメタルを専門に歌う歌い手ではなかったので、だからこそ黒猫とヘヴィメタルバンドをやろうと思ったわけなんです。いろんな曲をいろんな表情で歌う歌い手がいるからこそ、いろんな曲をひとつのバンドでできるし、今までそれを強みにやってきたので、今作はとにかくそれが何よりも明確に見えるようにというのが目標でした。

「自分は必要があれば歌うけど、いらんときは黙ってる」

ーーそういう作品の中で、瞬火さんが歌うパートやその割合、バランスはどう考えましたか?

瞬火:基本的にツインボーカルだからといって、バランスよく半分になるようにとはそもそも考えてなくて。例えば、この歌詞は登場人物が女性だから黒猫とか、男が出てきたから瞬火とか、男なんだけど黒猫の声でいきたいから黒猫とか、すべて楽曲の必然性でパートは決めているので。曲のラインナップによっては僕が歌うパートが増えることもありますけど、今回揃った楽曲に必要だったのは概ね黒猫の歌だったんです。ここはオッサンがギャーギャーいったほうがいいってときは自分が歌うってだけの話で(笑)。あまり自分のことを歌い手だとは思っていないので、必要があれば歌うけど、いらんときは黙っとけみたいな感じです。

ーー歌に関してはそういうスタンスなんですね。

瞬火:僕の力量では、少なくとも歌い手という観点では黒猫の足元にも及ばないので。単純に性別として男を感じさせたいという必要があるから僕の声がそこにあるだけで、純粋に歌のクオリティだけ追求したアルバムを作るなら、全部黒猫が歌ったほういいと思っています。そこはもう冷静に自分を評価しているし、何も悔しくないです。(『ドラゴンボール』における)ヤムチャが悟空に負けても悔しくもなんともないみたいな、そういうレベルの話なので(笑)。でもヤムチャであることに誇りは持っているという、そんな感じです。

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