長澤知之が語る、自分と他者に向けた“肯定”の視線 「汚点や恥も、見方によっては美しくなる」

長澤知之、自分と他者に向けた“肯定”の視線

「常に心の中に監視カメラがある」

ーー「ボトラー」の<これは俺の映画なんだから>ってフレーズもそこに呼応してますよね。

長澤:そう。自分で自分のことがわかっていれば、どんな生き方をしてたっていいんだって。それは自分のことだけじゃなくて、他人に対しても、そういう気持ちで見ることができるようになってきたのかもしれません。

ーーうん。綺麗事が綺麗事に聞こえなくなるところまで突き詰めて、そこで綺麗事を歌っている凄みがある。だって、この「ボトラー」って底辺生活者ってことですよね?

長澤:そうですね(笑)。

ーーでも、単なる自虐にはなってない。

長澤:どこかで自分でも喜んでいるんですよね。自分で自分のことを「ボトラー」と歌えちゃうことを。

ーーそうやってトイレで吐いてる時も、どこかで自分のことを客観視しちゃうっていうのは、もう癖みたいな感じなんですか?

長澤:家庭環境も大きいかもしれないです。子供の頃から、ずっとプロテスタント系の教会に通っていたから、神様からの視点というのをどこかでずって意識してきたんですよ。神様を信じているとか信じてないとか、それとは別の次元で。日本的に言うと、「お天道様が見てる」みたいな感覚ですね。常に心の中に監視カメラがあるような感じで、その監視カメラが、最近は自分だけじゃなくて他人にも向くようになった感じかもしれないです。

ーーそういう感覚って、自分にも覚えがあるんですけど、人生においてある種の足かせにもなりますよね。

長澤:はい。でも、最近はその足かせを、逆に利用してやろうかなって思ってるんですよ。

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ーー生きる上での規範みたいなものを、守るにしても、破るにしても、常に意識しているのは表現する上で強みだと思います。最近の日本人って、そういう「お天道様が見てる」みたいな感覚さえ失って、みんな動物的すぎるから。映画とかでも、みんな安易に「不条理な暴力」とかを描くけど、自分は「『不条理』だって『条理』があってこそだろ?」って思うんですよね。

長澤:あぁ。そういうのって、自分は最近の言葉づかいに感じます。「神ってる」とか、なんだよそれって(笑)。みんなゴリラが胸を叩くみたいに、大げさで暴力的な言葉をつかいたがる。

ーーわかります。言葉のインフレですね。「天才」とか「傑作」とか「革命」とか、音楽ジャーナリズムにおいてもずっとそういう言葉が氾濫してきた。

長澤:もうちょっと控えてほしいですよね(笑)。日本人って、もうちょっと言葉を大事にする民族だったんじゃないの? って。結局そういう言葉をつかうことで、深いところまで行けなくなってて、みんな浅瀬で話をしてる感じになっちゃうんですよね。今回の『GIFT』では、そういうことへの怒りとか鬱憤みたいなものは抑え気味になってますけど、それなりに溜まってきてますから、次の作品では出ちゃうかもしれない(笑)。

ーーそうなってくると、やっぱりまたギターをギュワンギュワン鳴らす感じ?

長澤:いや、そういうのはちょっと飽きちゃってるところはあるんですよね。バンド的なサウンドはALでもできるし、音楽的には、今はちょっと別のところに向かっていきたいと思ってます。

ーーさっきもちょっと名前を出しましたけど、長澤くん、ボン・イヴェールの新しいアルバムは聴いた?

長澤:いや、聴いてないです。そんなにいいの?

ーーうん。今回のはサウンドもすごいんだけど、歌詞の世界もすごくてね、ちょっと今の長澤くんに近いものを感じる。

長澤:いや、歌詞がすごいっていうのは、本当に大事ですよね。自分が最近またよく聴いてるのは、相変わらず全然新しい音楽じゃないけど、プリファブ・スプラウトとか、ティアーズ・フォー・フィアーズとか、プリンスとか、80年代の音楽で。そういう創造性の高い音楽に触れると、やっぱりすごく刺激されますね。

ーーおぉ! 今作もキャリアの上で非常に大きなステップとなる素晴らしい作品でしたけど、ますます今後のソロ・アーティストとしての長澤知之が楽しみになってきました!

長澤:はい、バンドもソロもがんばっていきます(笑)。

(取材・文=宇野維正/写真=杉田 真)

■リリース情報
『GIFT』
発売日:2016年12月7日(水)
価格:2100円+税

<収録曲>

01. 時雨

02. 舌

03. アーティスト

04. 君だけだ Acoustic Ver.

05. ボトラー

06. 風鈴の音色

07. 無題



■ツアー情報
『Nagasawa Tomoyuki Live 'Gifted' 2017』
1月21日(土)東京キネマ倶楽部 16:00/17:00
1月24日(火)umeda AKASO 18:00/19:00 
1月31日(火)福岡・照和 18:30/19:00
2月1日(水)福岡・照和 18:30/19:00

■関連リンク
長澤知之公式ウェブサイト
長澤知之Facebook

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