秦 基博楽曲の核心は“浮遊感”にあり? 初期〜最新曲までを分析してみた
ところで秦は、これまでに一青窈の「空中ブランコ」や南波志帆の「髪を切る8の理由。」、V6の「Beautiful World」など他アーティストへの楽曲提供も行なっている。11月30日リリース予定の、花澤香菜のシングル曲「ざらざら」も秦が作曲を手がけているが、これはまごう事なき“秦節メロディ”でありながら、花澤が歌うことを想定したキュートな仕上がりだ。キーはDで、Aメロは<D/D♭m7(-5)・F# - Bm/Am7・D7 - G/F#m - Em/Asus4・A>。ここでもセカンダリードミナントコード(F#)やドミナントマイナー(Am)が効いている。メロディも、下降すると思いきや上昇したり、その逆だったり、ふわふわと舞うような譜割にグッとくる。特にEmの部分、<おかしくて>の「て」や、<他の誰に>の「に」が肝だ。
そして、最新シングルから表題曲「70億のピース」。キーはAで、Aメロは<A・EonG# /F#m - D /E>の繰り返し。Bメロは、<D - C#m7 - Dm - E /E7onD - C#m7 /Bm7>。後半はベースが<ミ-レ-ド#-シ>と下降していくのがポイントで、そこに絡むオルガンに、プロコル・ハルムの「青い影」や荒井由美の「ひこうき雲」が一瞬頭をよぎる。サビは、前半が<A /B7sus4 - E /Fdim - F#m7 /BonD# - DMaj7 ・AonC# /Bm7 ・E>で、後半が<A /B7sus4 - E /Fdim - F#m7 /BonD# - E /A - D - Dm>。どちらも1小節目のB7sus4が、長調なのか短調なのか曖昧にしているところがポイント。この、サビの後半(BonD# - E /A - D - Dm)も、やはりプロコル・ハルムや荒井由美を彷彿とさせる。
「音楽を長くやっていると、思い通りにいかなくて悔しい思いをすることも一度や二度じゃないですし、そこで『いい曲を書きたい』『いい演奏をしたい』と発奮することの繰り返しで、ここまで来られたんです。とにかく、曲を書き続けるということが大切なんじゃないかと思います。 」(参考:「トレンドニュース」)
不断の努力により確立した「秦節」は、これからも我々の琴線を揺さぶり続けることだろう。
■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。
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