森朋之の「本日、フラゲ日!」vol.14

クリープハイプは最新作で衝動を取り戻したーー9月7日発売の注目新譜5選

奥田民生『奥田民生 生誕50周年伝説“となりのベートーベン”』(AL)

 50歳を記念したスペシャルライブ「奥田民生 生誕50周年伝説“となりのベートーベン”」を収録したライブ盤。DISC1は初期の奥田民生を支えた古田たかし(Dr)、根岸孝旨(Ba)、長田進(G)、斎藤有太(Key)によるバンド、現在活動を共にしている小原礼(Ba)、湊雅史(Dr)、斎藤有太(Key)によるバンドが参加し、岸田繁、吉井和哉、和田唱、草野マサムネ、トータス松本、仲井戸麗市、Charといった豪華すぎるゲストとともに貴重なセッションを披露(民生は歌わず、ギターだけ!)。DISC2は大編成のオーケストラをバックに「ライオンはトラより美しい」「手引きのようなもの」といった隠れた名曲から「さすらい」「すばらしい日々」とった代表曲を歌い上げている。どちらも普段のライブとはまったく違う構成、演出だが、すべての演奏、すべてのフレーズから民生節としか言いようのないグルーヴとメロディが渦巻いている。たとえ自分で歌わなくても、どうしようもなく、とんでもなく民生……って、そんな人は他に絶対いない。どこまでも自由な活動を続け、やりたいことだけを緩やかなに追求し、音楽シーン最大のリスペクトを得ている彼の存在はすべてのアーティストの理想と言っても過言ではないだろう。先日、音楽プロデューサーの松尾潔氏にインタビューした際「とにかく“奥田民生のようになりたい”という男の子のミュージシャンが多い」という話をしていたが、このライブ盤を聴けば誰もが「こんな生き方がしたい」と実感するだろう。

奥田民生 生誕50周年伝説"となりのベートーベン"トレーラー映像

TK from 凛として時雨『Signal』(SG)

 音楽は時間芸術であると同時に、建築物の設計にも似た構築の芸術でもある。ということをTK from 凛と時雨の楽曲を聴くといつも思い知らされるわけだが、「unravel」(2014年)以来、約2年ぶりのソロシングル曲「Signal」は彼の構築美がさらに壮大なスケールで実現されたナンバーと言えるだろう。メランコリアと激情を行き来するようなギターアンサンブル、緻密に組み立てられたストリングスアレンジ、転調を効果的に活かしたコード構成、シンプルに徹しながら楽曲のボトムを支えるリズムセクション、そして、まるで一大抒情詩のような展開を見せるメロディライン。すべての要素を正しい場所に配置するミックスのセンスもさらに向上している。みんなと一緒に盛り上がる、前向きなメッセージを与えるみたいなことではなく、芸術としての音楽を追求し続けるTKの姿勢は本当に真っ当だと思う。楽曲に向き合い、集中して聴くことで得られる快楽をぜひ味わってほしい。

TK from 凛として時雨「Signal」

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

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