大森靖子が『ピンクメトセラ/勹″ッと<るSUMMER』で開花させた“女の子”プロデュース力
大森靖子が3カ月連続でシングルリリースというインフォメーションを受け取った時、平たく言えばさらに広大なフィールドに打って出る意志を感じた。しかも第一弾シングル『ピンクメトセラ/勹″ッと<るSUMMER』のリリースと時を同じくして、大森憧れの存在、小室哲哉の楽曲で高田賢三の新ブランド「SEPT PREMIÉRS」CMイメージソング(曲名は「rever(レーヴ)」)を歌うというニュースも飛び込んできた。ここ数年、”KENZO”はセレクトショップ「OPENING CEREMONY」での展開によって、ともすれば過去の重鎮デザイナーから、一気に青文字系モデルら若い世代に再認識されたという意味では、大森にとってもキッシュでポップに”華やかな女性“としてのイメージも付与されたのではないだろうか。
今回のシングルが耳目を集める点は大きく二つある。「ピンクメトセラ」がt.o.LのWEBアニメ『逃猫ジュレ』のテーマソングであると同時に彼女自身がジュレ役で声優にチャレンジすることが一つ。そして歌詞はこのアニメありきで書かれたもので、現実逃避しがちなジュレの心情、ある日目覚めると見知らぬ森(リンシノモリ)にいて、愛用の木馬”ピンクメトセラ”はタイトルにもなっているこの曲のキーワードだ。お題ありきで作詞していながらも、今を生きる少女たちのある種の息苦しさが前面に浮かび上がる構造は大森らしい。
そして、めくるめく展開を見せるこの曲のプロデュースを手掛けたのは、彼女の最新アルバム『TOKYO BLACK HOLE』収録曲「SHINPIN」で参加しているサクライケンタ。あのアルバムの中では幾何学的なリフとタイトなリズム、映像喚起力抜群のピアノを挟み、大森の楽曲の中では体温低めなモノローグをユニークなアレンジで着地させていた。今回はキャッチーなガールポップだが、そこはさすがにブクガことMaison book girlでの変拍子と映像的な世界観、プログレやニューウェーブも真っ青な音楽による狂気性をアイドル楽曲の世界に持ち込んだサクライ節が炸裂する。大森とは吉川友の「歯を食いしばれっ!」で作家としてアイドル楽曲も手掛けている両者のタッグ。そのことはこの連続シングル・リリースの大きな柱であり、ある取材「My Sound」内インタビューでも大森本人が「これまで出会ってきたクリエイターとともに、アイドルソングの大幅なブラッシュアップと、作詞作曲者である大森とアレンジ・プロデューサーのブランディングを図りたい」という趣旨のことを口にしていた。そういう側面を打ち出していることが、このシングルの二つ目のテーマだ。歌い手としてのスキルの高い大森が自身のオリジナル楽曲でそのことをプレゼンしているというわけだ。
そして一方の「勹″ッと<るSUMMER」には「さっちゃんのセクシーカレー」や「きゅるきゅる」のアレンジ、サウンドプロデュースでおなじみの出羽良彰が参加。このやさぐれJKな歌謡ロックをドールライクな甘い声と抜群のスキルのセリフ・ボーカルで破壊力を加えているのがゆるめるモ!のあのだ。あのは通常盤のジャケットでも大森と2ショットで登場している。これまでもナンバタウンやアップアップガールズ(仮)への作詞提供や、ずんね from JC-WCのプロデュースなど、アイドルというか突き抜けた存在の少女たちの作品に関わってきた大森。今回のシングルはさらにダイレクトに彼女たちをフックアップし、女性アーティスト作品の“今日的”な作家としての堂々たる宣言を含んでいるのだ。