矢野利裕『SMAPは終わらない 国民的グループが乗り越える「社会のしがらみ」』発売記念

SMAPは「シブトクつよい」ーーメロウでアーバンな名作『SMAP 009』を振り返る

 ジャニーズ文化の根源に迫った『ジャニ研!』(原書房)の著者の一人である、批評家・矢野利裕による書籍『SMAPは終わらない 国民的グループが乗り越える「社会のしがらみ」 』が8月9日に発売される。

 2016年1月、日本全体を揺るがしたSMAP解散騒動。『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)でのメンバー謝罪会見を端に、矢野氏が執筆したコラム「SMAPは音楽で“社会のしがらみ”を越えるか? ジャニーズが貫徹すべき “芸能の本義”」の反響を受け、この度緊急出版。世界にひとつだけの「SMAP」の存在と今後を、音楽と芸能から紐解いた“SMAP論”の決定版となっている。

 当サイトでは、本書の発売に先駆けて、第三章「SMAPがたどった音楽的変遷〜触れておくべき8タイトル〜」より1996年に発売された9枚目のオリジナルアルバム『SMAP 009』のディスクレビューを抜粋して掲載する。(編集部)

『SMAP 009』

(第三章 SMAPがたどった音楽的変遷〜触れておくべき8タイトル〜より抜粋)

 数あるSMAPのなかでも、非常に重要な作品のひとつである。マイケル・ブレッカーその他の海外ミュージシャンを招聘した最後のアルバムという意味で、フリー・ソウル期のひとつの到達点と位置づけることができるし、実際、楽曲のクオリティも高い。とくに2曲目の「マラソン」は、シングル曲ではないものの、個人的にはSMAPの楽曲のなかでフェイヴァリットである。

 「マラソン」は全体としては、コン・ファンク・シャン「トゥー・タイト」や、あるいはエモーションズ「ベスト・オブ・マイ・ラヴ」に似た雰囲気のディスコティックなナンバーである。「トゥー・タイト」や「ベスト・オブ・マイ・ラヴ」と言えば、ダンス・クラシックとして人気の曲なのだが、とは言え「マラソン」は、いわゆるダンクラと言うほどの野暮ったい印象はない。そもそも、「トゥー・タイト」「ベスト・オブ・マイ・ラヴ」自体が、安直なディスコ曲ではなく、レア・グルーヴに近い響きをもっていた。「マラソン」もそのような、ディスコ~レア・グルーヴのあいだの幸福感いっぱいの雰囲気が目指されている。

 この幸福感は、イントロの時点ですぐに示される。ドラムのブレイクから始まって、次いで厚みのあるホーンがメリハリをもって鳴らされると同時に、右方向からワウワウが聞こえる。ほんの一瞬、控えめなカッティングギターが鳴ったと思ったら、ストリングスと一緒にコーラスが始まる――ここまで20秒弱。あとはもう、歌と演奏に身をゆだねているだけで最高である。ひとつ加えるとすれば、サビにおけるメンバーのファルセットも聴きどころのひとつだ。素晴らしく気持ちいい。この「マラソン」が収録されているだけで、すでに意義深い作品なのだが、その他もほとんど捨て曲がない。

 「マラソン」とほぼ同方向のサウンドである「Relax」は、やはりホーンが印象深い曲だが、洗練された演奏の背後で薄く鳴っているシンセサイザーもユニークだ。シンセサイザーと言えば、Pファンク的な要素が強い「シャンプー3つ」も面白い。ヴォコーダーも駆使しており、SMAPにしては珍しく土臭いファンク・サウンドなのだが、SMAPが歌うと結果的に軽やかになる。マイケル・ブレッカーのサックスも良い具合にアーバンである。

 「シャンプー3つ」をもっとアーバンにしたのが、木村拓哉のソロ曲「電話しようかな」である。「シャンプー3つ」と同様、シンセサイザーもヴォコーダーも使用されているが、同曲よりもメロウでアーバンな曲として存在感を放っている。このようなメロウさとアーバンさが、おそらくこの時期のSMAPにおける最大の魅力だ。キラキラと装飾されたジャニーズにメロウという魅力を持ち込んだ点で、90年代なかばのSMAPの功績ははかり知れない。

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