カセットテープ、いまなぜ若者リスナーに人気? シーンの動きを検証する
“カチャカチャ”――地球上にカセットテープ復権の鐘がこだましている。書店に行くと、売り場をにぎわす関連本があとを絶たない。口火をきったのが2014年、一号限りの復刊となった『FMレコパル』(小学館)。95年の休刊からおよそ20年ぶりのお目覚めとなった。ハイレゾという昨今の流れに呼応したものでもあったといえるが、エアチェック文化を牽引してきた古株の復活におもわずニンマリした昭和人も多かっただろう。
昨年には本命ともいえる『日本カセットテープ大全〜愛すべき記録メディアの集大成!』(辰巳出版)が発売される。各メーカーの定番、名品が誌上を大行進する、カセットの百科事典。フォルムひとつをとってもここまでの存在感があったとは、感慨深い。
サイズもふくめカセットは、オーディオ品のなかでは脇役として見られがちだった。カセットデッキやラジカセというハードウェアがあって、そこに組み込まれる付属品としての地位に甘んじてきた。しかし音楽などが録音されれば、たちまち主役にまわる。
先般出版された『ラジカセ for フューチャー』(誠文堂新光社)は、そんなラジカセとカセットの関係を相対的に見せた本だ。監修したのは松崎順一氏。家電蒐集家として知られる氏は、この世界の水先案内人としてすでにメディアから引っぱりだこ。自身のコレクションを紹介した出版物も数多く上梓してきた。
この本でも取りあげられているが、今日のカセットリバイバルの端緒のひとつにカリフォルニアの〈バーガー・レコーズ〉があることを認めるひとは少なくない。創業は07年。校友同士だったふたりの若者がそれぞれ100ドルずつ出資しインディーミュージックの会社が立ち上がる。09年には同州フラートンに実店舗をオープン。そのころにはカセット再評価の波も本格化し、レーベルはいっきに急成長した。追ってアパレルラインを新設することになるが、これに着目した日本のアパレルメーカーが彼らと手を組み原宿や中目黒にポップアップストアまで出店する。
昨夏、中目黒にはカセット専門店『Waltz』がオープンしている。CDショップなど無縁の地にいきなりカセットの店、それもメインストリートから外れた場所にあるため気軽に立ち寄れるとはいいがたい。ところが、ファッション誌を中心に取材のオファーが店の電話を鳴らしつづけている。中古のラジカセ、ウォークマンも販売しているが、ここで購入したとよろこぶ若者の声がネットにもあがっていた。
若者を夢中にさせる
若い世代にとってカセットとはどういうものなのか。原宿渋谷などを歩いていると、Tシャツやトートバックにプリントされた巨大なカセットが視界に飛び込んでくる。リアル世代ならここでほくそ笑むところだが、彼らはファッションの一部としてあの手のひらサイズの磁気記録に首ったけらしい。細長いテープに音が刷り込まれ、それがくるくるに巻かれている。ダウンロード世代にとってのミステリーサークルなのだ。そのミステリーに対価を払い、付属のダウンロードコードからいつものように音源を引っぱってくる。(音楽を)“カセットで所持する”ことは“カセットで聴く”こと以上に重要であることを彼らは暗に認めている。
いっぽうで、“カセットを聴く”という行為に彼らは無関心でいるわけではない。“カセット”というコンセンサスがあるだけで、それをひとつのイベントにまで発展させてきた。東京下町、浅草橋天才算数塾で催されていた〈カセット&ラジカセ普及企画〉には、ビギナーから長年の愛好家までカセット文化を謳歌する顔がそろう。ここからは新旧世代のアーティストが参加したオムニバス『Cassette Revolution』もリリースされている(14年。同年続編も発売)。