赤い公園 津野米咲、モー娘。「泡沫」でポップセンス発揮 バンド活動にも表れた“音楽深化”

『純情ランドセル』で魅せつけた音楽深化

 『純情ランドセル』は『猛烈リトミック』で得たものを更に深化させた赤い公園の姿が詰まっている。ロックバンド然としたビートの「KOIKI」、きらめきある美しいメロディの「Canvas」、はたしてこういうタイプの曲までやる必要性があるのだろうか……、と思ってしまった時点で完全に負け、良い意味で裏切られた「黄色い花」、といったまったく異なるベクトルを向いた3曲のシングルから、限界のない音楽の振り幅にただならぬ予感を感じさせていたが、その期待を裏切らない内容である。

赤い公園アルバム「純情ランドセル」全曲試聴映像

 十八番の赤い公園節でありながら、サウンドはサイケデリックで新たな息吹を感じる「ボール」の幕開けから、綿密な音の構築がより細やかに行き届いているのは一聴瞭然。アーバン・ソウルな「ショートホープ」、ノスタルジックでマジカルな音に包まれる「デイドリーム」など、これまで以上に懐の広さ。なにより彼女たちの自信が溢れており、生き生きとした音に表れていることだ。「KOIKI」で既に感じられた、暴れているんだけどうるさくならない腰が据えたドラミングの歌川菜穂(Dr)、妙に色気のあるグルーヴを弾き出す藤本ひかり(Ba)、いつになくギタリストしている津野、そこに乗る格段に表現力が増した佐藤千明(Vo)の歌、演奏面での成熟度も増している。そして、スターリング・サウンドのシニアエンジニア、トム・コイン氏によるマスタリングのクリアで立体感のある音像が、赤い公園の創りだす優美な音空間を引き立たせている。

 そうした大人びた雰囲気の反面で、ユニークな側面を見せるのが「東京」と「西東京」だ。東京都立川市出身ならではの彼女たちにしか成し得ない説得力で攻めていく。同じ東京都といえど、23区とそれ以外の地域ではまったく違う感覚だったりもするわけで。かといって地方出身者ほどの憧れも怖さもない東京観、そんな微妙な距離感から見た、野暮ったさを感じさせる曲調の洗練されたいない「東京」と、多摩地区・西東京ならではのオラオラのヤンキーノリが凄まじくも微笑ましいパンキッシュな「西東京」の対比。「ああ、田無タワーって天気によって照明の色が変わるんだよなぁ、」なんて思い出した西東京出身者は、だいたい友達 ……なんてことを考える、上京者とはまた違った解る人にしか解らない絶妙な郷愁である。

 ほぼ全曲2分前後〜4分弱、最長でも4分強、全14曲約48分という相変わらずのコンパクトさだが、短さを感じさせない凄まじい情報量であり、飽きさせない短さでもある。攻撃性を持ちながらも、実に女性らしく官能的。聴きやすさとクセになる気持ち悪さを共存させるバランス感覚はさすが。こんなバンド名で白装束に身を包み、毒々しく狂気に満ちた音楽を轟かせていたバンドが、マニアックさ一辺倒な音楽に偏るわけでなく、貪欲にポップ性を追求した音楽探究をし続け、明確に打ち出しているという事実にあらためて驚愕する。

 先日行われた『J-WAVE & Roppongi Hills present TOKYO M.A.P.S』において、イベント・オーガナイザーの亀田誠治が「軽音楽部の女子のノリなんで、レコーディング現場はとにかくうるさいっ!!」と言っていたが……。ディープな音楽とは裏腹にドキュメンタリー映像『情熱公園』やラジオ『オールナイトニッポン0 [ZERO]』などで知る彼女たちの素の姿は、まぎれもなくただの愛すべきおバカな女子たちである。複雑な音楽を造り、それを我々ファンがこうして勝手な解釈で小難しく深読みしている様子を本人たちはニヤニヤ眺めているかのような……もう、赤い公園の思う壷なのだ。

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログtwitter

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