ニュー・アルバム『CHAOSMOSIS』インタビュー

ボビー・ギレスピーが語り尽くす、プライマル・スクリームのエネルギーの背景 「冒険に満ちた人生を送りたい」

 

「痛みを避けるのは、人生のチャンスを避けること」

ーー(笑)わかりました。では先行シングル「Where the light gets in」についてです。スカイ・フェレイラはプライマルと親交が深い人ですが、この曲に起用した狙いを教えてください。

Primal Scream, Sky Ferreira - Where The Light Gets In

ボビー:これはデュエットを想定して書いた曲で、スカイのことは最初から頭にあった。僕たちは全員スカイの大ファンだからね。スカイの「Everything is Embarrassing」にみんな夢中でさ。あのシングルは本当に素晴らしいよね。あのアルバム(『Night Time, My Time』)を聴いて彼女の写真を見た時、「うわぁ、この子と一緒にアルバムを作りたい」と思ったんだ。そこから発展して、参加してもらうことになった。

Sky Ferreira - Everything Is Embarrassing (Official Video)

ボビー:スカイはLAにいて、アンドリューと僕はロンドンにいたから、どっちもNYに飛んだんだ。NYで会って、そこでヴォーカルの部分を録音した。滞在時間は4時間くらいだったかな。録音が終わったら僕たちはロンドンに、彼女はLAに帰ったんだ。去年の4月のことだった。見事に歌ってくれたよ。全くの名演だね。

ーーですね。せつなく、そしてロマンチックに輝く、この時代のロックンロール版ゲンズブール&バーキンだと感じました。

ボビー:そう、それが狙いだったんだよ! 最高の褒め言葉だよ。この曲のビデオを見てもらえばわかるけど、それがアイディアであり、インスピレーションの一部だったんだ。歳食った男と若い美女が出てくるよ。ファッキンなくらい素晴らしいから。

Serge Gainsbourg & Jane Birkin - Je t'aime... moi non plus/Original videoclip (Fontana 1969)

ーーこの「Where the light gets in」という曲には、どんな思いが込められていますか? 僕はとくに〈The wound is a place where the light gets in〉(「この傷がついたのは 光が射しこむせい」の意)というフレーズが心に刺さったんですが……。

ボビー:あぁ、あの“wound(「傷」)”のところだね。ポエティックな言い方をしてみたんだ。傷ついた時というのは、知識というか、洞察を得るときなんだ。人生の教訓を学ぶんだよ。この曲の本当の意味はそういうところにある。苦しみは知識に繋がるものだからね。

ーーここで“the light”とはどんなものなんでしょう? “enlightenment(何かに開眼すること)”などにも繋がっているんでしょうか。

ボビー:そうだね。(きっぱりと)知識に開眼するんだ。ブルーなものとは付き合っていかなければならない。そうしてブルースが歌えるようになるんだからね。人生の中で、自分に学ばせてくれる唯一のものは経験なんだ。経験のない人間はナイーヴ(注:「うぶ」「分かっていない」等の意)で無知なんだ。世の中を渡っていく唯一の方法は、苦難を受けて立ってちゃんと傷つくことだと思う。そうしないといい兵士にはなれないんだ。愛の兵士にね!(笑)

ーーということは、“wound”というのは人生の中でのダークな経験や、世の中で起こっているダークなこと、そして“light”はそこからポジティヴな方向に導いてくれるものを意味するのでしょうか。

ボビー:うーん……まぁ、そうかな。多くの人はあまり学習しないけどね(笑)。大抵の人は傷ついたらイチからやり直しだ。人間ってのはそもそも中毒性を持ちやすい生き物だからね。恋愛中毒、人間関係中毒……これはアンチ・ラブソングなんだ。ロマンチックなアンチ・ラブソング。永遠のロマンチストが書いたアンチ・ラブソング……って、自分でもどういう意味か分からないけど(笑)。僕が言いたいのはそんなことだね。

ーーこれもまたコントラストがありますね。

ボビー:そうだね。僕は全面的にロマンチックだけど、僕はいつもアンチ・ラブなんだ。誰かが僕に「誰それが結婚するんだって」って言ってきても、僕は笑うだけなんだ。「何てこった!」と思うんだよ。僕自身結婚しているからね!(笑) 何て言うのかな……恋愛の話はしたくないんだよね。僕はロマンティックな男だけど、傷ついた男でもあるからさ……というか、アーティストになるには、傷つかないといけないと思う。何らかの形の戦争状態を潜り抜けた経験がないと。それが比喩的な意味の戦争だったとしてもね。何らかの形での苦闘を経験していないと、モノが書けないと思う。書く題材がないとね。

ーー確かにそれはありますよね。最も素晴らしいものが、最悪の経験から生まれることもあるかも知れませんし。

ボビー:そう、その通りだよ。時には痛みも素晴らしいものになり得るんだ。思うに、痛みを避けるのは、人生のチャンスを避けることを意味するんじゃないかな。苦しみそうなシチュエーションを避けたり、何かと向き合うことを避けてしまったら、アーティストには決してなれないし、愛される人物になれないと思う。愛するというのは、苦しみに耐えることだからね。それがファッキンな事実だよ。そうだろう?

 

ーーそう思います。ナイーヴな人たちはいいアーティストにはなれない、とも思いますね。

ボビー:僕もそう思うね。僕はいつも、冒険に満ちた人生を送りたいって言ってるんだ。居心地のいいところに安住している存在にはなりたくない。実際に現場に行って何が起こっているのか見て、それをレポートして返したいんだ。リアルな人間というのはそうやって生きていると思うからね。

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