『第58回グラミー賞』は“ポップスの完成度”重視だった? 主要4部門の結果を考察
2016年2月16日(現地時間15日)、アメリカ・ロサンゼルスで『第58回グラミー賞』の授賞式が行なわれた。
主要4部門の結果は以下の通り。
年間最優秀アルバム:テイラー・スウィフト『1989』
年間最優秀レコード:マーク・ロンソン ft. ブルーノ・マーズ『Uptown Funk』
年間最優秀楽曲:エド・シーラン「Thinking Out Loud」
年間最優秀新人賞:メーガン・トレイナー
テイラー・スウィフトは「年間最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム」や「年間最優秀ミュージック・ビデオ」も含めた計3冠を獲得。なお、「年間最優秀アルバム」2度の受賞は女性アーティストとして史上初の快挙だ。これらの結果や授賞式全体の雰囲気について、音楽ジャーナリストの柴那典氏は次のように振り返る。
「今回の結果に関しては、全体を見渡してみると、批評家筋の評価や社会的な影響力よりも、ポップスとしての完成度の高さや、曲の浸透具合が重視されたように思えます。また、授賞式全体が例年より緊張感のある雰囲気になっており、これはデヴィッド・ボウイやグレン・フライ(イーグルス)、モーリス・ホワイト(アース・ウィンド・アンド・ファイアー)、レミー・キルミスター(モーターヘッド)ら、各ジャンルの大物が相次いで亡くなって、彼らを追悼するパフォーマンスが多かったことも影響しているのではないでしょうか」
また、今回11部門で最多ノミネートアーティストとなったケンドリック・ラマ―が「年間最優秀アルバム」を受賞に至らなかった背景として、同氏は「グラミーが持つ“ヒップホップの壁”はやはり厚かった」とし、こう述べた。
「ヒップホップが主要4部門で賞を獲得したのは、過去をさかのぼっても2004年のアウトキャストのみです。今回のケンドリック・ラマ―はその壁を超える存在として期待されており、実際に会場で披露したパフォーマンスも圧巻の一言でしたが、やはり受賞には至りませんでした。アメリカでは、カントリー系の音楽が土着的なものとして覇権を握っており、そのパワーバランスを改めて感じる結果でしたね」
そんなカントリー系の音楽を出自とし、今回「年間最優秀アルバム」を受賞したテイラー・スウィフトについて、柴氏は「彼女自身は『新たなモードがようやく評価された』と感じているのでは」と推察した。
「テイラーは『Fearless』で一度『年間最優秀アルバム』を受賞していますが、このときは、オールドスクール的だったカントリーの畑を革新する存在として、大きく注目されました。実際、彼女以降の若手アーティストには、テイラーを意識したポップス的なディレクションが目立ち、今回『最優秀カントリー・アルバム賞』を受賞したクリス・ステイプルトンもその系譜上にいる人物です。そんなテイラーは『Red』以降ポップス路線に転向し、一度は厳しい評価を受けましたが、『1989』の好調な売れ行きや世間の高評価で復権し、今回の受賞で再びポップ・スターとしての地位を確立したといえるでしょう」