2ndミニアルバム『ワイルド・サイドを行け』リリースインタビュー
GLIM SPANKYが見据える“普遍的な音楽”「要らないものは削ぎ落とし、何をしたいかをハッキリ言う」
GLIM SPANKYが、1月27日に2ndミニアルバム『ワイルド・サイドを行け』をリリースする。同作はストレートなロックサウンドにシンセサイザーを導入した表題曲や、ライブ向きともいえる壮大なスケールの「NEXT ONE」、“ロック×ストリングス”の融合を推し進めた「夜明けのフォーク」など、サウンドの幅を広げつつも、シンプルな楽曲の良さが際立つ5曲を収録。2人にとっても収穫の多かった2015年を経て、より「普遍的な音楽」を追求した同作が生まれた背景とは何か? 松尾レミと亀本寛貴の2人にインタビューを行ない、波乱の1年を通して音楽的に吸収したことや、今作に込めた工夫など、存分に語ってもらった。
「『人に伝わる歌詞を書く』という答えが少しずつ見えはじめた」(松尾)
――GLIM SPANKYにとって2015年は『FUJI ROCK FESTIVAL '15』出演やメジャー1stアルバムリリースなど、大きなイベントを経験した一年でした。改めて振り返ってみてどうでしょうか。
松尾レミ(以下、松尾):2015年は、とにかく3年分くらいの時間だったような気がするくらい濃密で。だからこそ自分の限界を越えられたし、「もっとやってやる」と「まだまだなんだ」という気持ちもありますが、いまはやり切ったという実感が強いです。
亀本寛貴(以下、亀本):2015年はメジャー2年目の年でもあったので、レコーディングやラジオ・テレビなどの出演を含め「2回目、3回目」になる出来事も多くて。夏フェスのような大きなイベントに出るのは初めてでしたが、刺激は強かったです。とくにフジロックは楽しかった。もっとこういうところで堂々としたステージングをしたいと思いましたし、ステージに立っていた時間は人生の中でも一番のハイライトでしたね。
――そのほか『朝霧JAM』出演もあったと思いますが、これらのフェスに出たことで受けた音楽的なフィードバックは?
松尾:フジロックも朝霧も、それぞれ海外のアーティストとコミュニケーションを取れたのは大きかったですね。あとは……フェスに来るような不特定多数の人へ向けてという意味では、歌詞の書き方が変わった。
――歌詞ですか。
松尾:インディーズ時代の楽曲では、あまりストレートな言葉を使わないようにしていましたが、いしわたり淳治さんとデビュー後に何度かお仕事をしていくなかで「ここまで言っちゃっていいんだよ」という思い切りの部分を学んで。どういう歌詞が世間に引っかかるかという境界線が理解できてきて、だんだん自分のなかで「人に伝わる歌詞を書く」という答えが少しずつ見えはじめた1年でした。
――松尾さんはその「人に伝わる歌詞」をどう解釈したのでしょう。
松尾:歌詞は歌にして届ける以上、自分だけのものではないし、自分の体験や日記じゃダメだと。その受け取り側が自分のことだと思えるような歌詞にしたほうが、より多くの人に伝わると感じました。たとえ自分の中にある物語的なものを歌詞にするとしても、そこに共感できるキーワードを入れたり、届けたい場所があるのであれば、そこに発信していることが分かるような明確な言葉選びをするように気を付けました。
――だからといって平易な言葉選びをするのではなく、自分にしかわからないような難しい表現を、一人でも多くの人が理解できるような状況にするということですよね。
松尾:そうです。この辺りは、2015年を通してすごく考え方が変わった部分ですね。
――では亀本さん、作編曲面で2015年の活動を通して受けたフィードバックは?
亀本:フェスに出演したり、自分たちのライブの動員も増えてきたなかで、お客さんからのリアクションが出てくるようになってきました。すべての曲ではないにしろ、そこからフィードバックは間違いなく受けていて、「ライブでこういうリアクションが起こったら楽しいだろうな」と想像したりして作ることも増えましたね。
――リアクションを想定するということで、『ワイルド・サイドを行け』だと「NEXT ONE」のようなダイナミックな曲において、少し隙間を開けているのかなと思える部分がありましたが、その辺りのことでしょうか。
亀本:はい。今回のミニアルバムもそうですし、現在作っている楽曲もそのあたりを想定していますね。ただ、ライブのリアクションを重視しすぎないようにはしています。
――あと、今作はシンセサイザーを導入したり、ストリングスアレンジがさらに豪華になったりしているのですが、聴いた時の第一印象としては、すごく削ぎ落されてシンプルになっていると感じて。
松尾:それはありがたいです。
――以前に出演していただいた対談【Drop’s・中野ミホ、GLIM SPANKY・松尾レミが語る理想の音楽「言葉とメロディがいっしょになったときに、すごい力を持つ」】で、松尾さんはルーツを大事にはするけど、懐古趣味に陥らず、新しいものをどんどん加えていくという話をしていましたね。このバランス感って、すごく難しいと思うのですが、2人の中で明確なボーダーラインはあるのでしょうか?
松尾:「古い」とも「新しい」とも感じないもの、でしょうか。それって非常にシンプルであり、良い意味で普遍的なものじゃないかと。私はGLIM SPANKYというものを世間にアピールするために、要らないものは削ぎ落として、何をしたいかをハッキリ言うのが自分のやり方や考えに合っていると感じました。だって、洋楽の王道なロックだって“どシンプル”な無駄のないものが世代を越えて残っているわけですから。それに対して、自分たちも真似ではないやり方で、ちゃんと後の時代に残る音を見つけ出して作っていきたいです。
亀本:自分としては音を広げすぎず、シンプルに完結するということを意識したんですけど、これは普遍的でもありトレンドだとも思っていて。先日サム・スミスのライブを見に行ったんですけど、たとえば「Stay With Me」って3コードだけどちゃんと言葉が残るし、大ヒットしたわけじゃないですか。もちろん他アーティストのヒット曲も同じで、複雑なアレンジでも、メロディーのコード進行を取り出してみると、意外とシンプルだったりしますよね。本来“繰り返し”はロックの強みだし、ポップミュージックと戦える武器でもありますから。対照的にJ-POPのヒット曲には1小節の中で3回ギターコードが変わるようなものが多いのですが、GLIM SPANKYとしては、レミさんが常々言っているように「世界に通用する音楽を作りたい」と思っているので、僕らはシンプルで普遍的なほうを選びました。
――コードや構成をシンプルにすることは、ワールドスタンダードを目指す二人としても必然的な試みだったんですね。で、そこにポップさをつけるという役割として表題曲「ワイルド・サイドを行け」ではシンセサイザーを使ったと。
亀本:4人組のギターロックバンドなどでは、サイドギターにフレーズを任せて、リードギターがシンセ的なシーケンサーを弾いたりもできるんですけど、GLIM SPANKYはギターでシンセみたいなことをする必要はないと考えていて。ギターはギターらしく存在して、リフやコード、ソロを弾くことに徹したほうが、絶対にいいサウンドになるという意識でした。