AKB48はなぜ卒業メンバーを招聘するのか 年末年始の動きと43rdシングルの座組みを考察

 そう考えるとき、3月発売の43枚目シングルにはどのような意味が託せるのだろうか。前田敦子、大島優子、板野友美、篠田麻里子、そして卒業メンバーとなった高橋みなみの参加がアナウンスされ、現役メンバー選抜の顔ぶれも前シングル『唇にBe My Baby』からの変化に乏しいという事前情報からは、世代交代の停滞、あるいはむしろ過去への「後退」というイメージすら描けてしまう。ただし、そもそも単一の時間軸で発想できるエンターテインメントではないのがAKB48なのだとすれば、かつての主要メンバーたちが中心に立つであろう次回シングルが、何をどう位置づけようとするものなのか、その意図が明らかになるのをもう少し待ちたい気もする。というよりこれは、卒業メンバーの招聘が単なる「後退」ではない見え方を提示するものであってほしいという、警戒含みの期待のような感慨でもある。

 昨年12月には、AKB48の歴史と時間軸を考えるうえで示唆的なテレビ番組がもうひとつ放送された。それが12月20日放送、指原莉乃・高橋みなみ・前田敦子が鼎談した『ボクらの時代』(フジテレビ系)である。1歳ほどしか違わないほぼ同世代の三者は、AKB48を介してそれぞれが異なるタイミングで異なる方向性の立場を確立した。世間に開かれたタレントとしての立場と、48グループ全体のトップの立場とを相乗的に足固めしてきた指原、あくまでAKB48に強くコミットすることそのものがタレントとしてのアイデンティティにもなってきた高橋、そして誰よりもAKB48の象徴を引き受けながら常に浮き上がったような空気をまとい、それが一女優としてのキャリアに好影響をもたらした前田。年齢的にはほとんど同世代、かつ中心メンバーとして同じ時を過ごしたこともありながら、AKB48メンバーとしてのスタンスや、グループの歴史への関わり方も大きく違っている。

 そこに見えるのは、AKB48という組織の持つ、エンターテインメントとしておよび時間軸の持ち方としての幅広さである。番組中、前田は「アイドルで始まったんだから、アイドルで終わるんだよ」と印象的に語った。続けて高橋が「“元AKB48”って、一生消えないんだよ」と補足したように、この番組中ではあくまで、AKB48の肩書を背負っていたという意味でこの言葉は発されている。しかし、「アイドル」という、何種類もの意味が混在したまま使用されるこの言葉は、そのつど受け手が自分の思考に引きつけて好きなように解釈するワードである。それだけに前田が語るこの言葉だけを取り出すとき、それは非常に強い。そしてまた、時間軸を混在させ、過去を容易に過去にさせず、未来を簡単に到来させないAKB48の直近の施策を考えるとき、前田の言葉にはさらに幾重にも深みが増してしまうのだ。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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