【新春放談】曽我部恵一×豊田道倫が語る20年の交友、そして2016年の音楽

曽我部恵一 × 豊田道倫、新春放談

「音楽に批評性を持たせたものがすごくめんどくさくも感じる」(曽我部)

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曽我部:「24時間営業のとんかつ屋」もすごく良いですよ。今まででいちばん好きかも。

豊田:これはボツにしようかとも思ってたんだけど。大体、そんな店は存在しないしね。

ーーでも、そこも含めて豊田さんらしい、リアルとファンタジーが入り混じった表現だと感じました。今の時代、リアルさを表現するのはすごく難しくて、音楽はファンタジー的なもので良いという立場もあり得ると思います。おふたりは音楽におけるリアルって、どう捉えていますか。

曽我部:正直、自分の生き方とか、こういう辛いことがあったとか、心の動きみたいなものを歌で聞かされることに対して、もうあまり聴きたくないなっていうのはある。当人にとって、それはすごいリアルなことだと思うんだけど、聴かされるのがしんどいというか。音楽を利用して、ほんとの気持ちのぶつけ合いみたいになっちゃってる瞬間を感じることがあって。ただ、最近あるシンガーソングライターの作品に入っていた「父さん」っていうフォーキーな曲は、すごく響いたから、そういう表現の全てが嫌になったというわけではないのだけど。いまはもっと透明感があるBGMみたいな音楽を求めているところがあります。

豊田:2015年はやっぱり、日本が変わりつつあったと思っていて。僕はちょっと、社会運動をしている連中と接触する機会があったんですよ。でも、僕はそういうの大嫌いですから、ちょっとふっかけてやろうとも思っていた。だけど向こうは、一切そういう雰囲気を作らなくて、なにか、すーっと避けられる感じだった。それで、どうしていいかわからなくて。うまく言えないんだけど、人に言葉が届きづらくなっているなっていう実感はあった。

曽我部:批評的なものが、有効に感じない気はするよね。むしろ、音楽に批評性を持たせたものがすごくめんどくさくも感じる。歪んだギターだけでいいのにとか、最近はすごく思いますね。昔はもっと、時代に対する批評みたいなのが大切だと思っていたけれど、いまはあんまり聴きたくないとは思う。それがなにか生み出すって、あまり思えないんですよ。

豊田:みんなどこか自粛的な感じがするというか、個人に向かっているからね。それが普通の社会というか、世間になっていって、子供たちもそういう感じになっていくんじゃないかな。

曽我部:ただ、それもつまんないんよね。普遍的にみんながつながるような感覚というか、フィーリングこそがやっぱりロックだと思うから。それを生み出すのが言葉なのかはわかんないけど、絶対必要な感覚だと思う。たぶん、歌い手の内面のストーリーでは、そういう説得力を失いつつあるということなのかもしれない。

豊田:そういう意味でバンドというのは、ちゃんとじっくりとみんなのことをしゃべってはいないんだけど、でも集まって演奏することによって、どこかに向かっている感じはある。バンドと個人の表現の一番の違いは、そういうところかも。

曽我部:ビートも大事ですよね。バンドが出すビートというか。そこになんかあるんだろうな。僕もバンドでやりたいって思うのは、そういうところだと思う。バンドでやることのリアリティって、たぶんそこにしかないというか。

「Television Personalitiesがいちばん好き」(豊田)

ーーいろんな人を取材しても、自分で「今回のアルバムは失敗した」っていう人はあまりいません(笑)。曽我部さんは豊田さんのそういう姿勢をどう見ていますか。

曽我部:でも、大事な感覚ですよ。

豊田:前野健太くんには、「音程をハズして歌う意味がわからない」って言われたんだけど、自分ではどこをハズしているのかわからない。でも、ドミソ以外の音っていっぱいあるし、俺はたぶんそれを歌っているんだなって。

曽我部:いま、それを歌う人は増えてきましたよ。昔のJ-POPではNGだったんだけど、いまはOKな感じで。豊田くんのボーカルのフォロワーはいっぱいいますね。澤部渡くん(スカート)あたりもそうだと思うし、『テレクラキャノンボール』の主題歌をやっていたWeekday Sleepersも、しっかり歌わない感じがかっこいいし。20年ぐらいでそういう種子が芽生えるんだなぁと思って。ほんとここ数年だと思う、そういう流れは。

ーー曽我部さん自身もいろんなサウンドを模索してきたと思いますが。

曽我部:でも、僕は割と保守的に音楽をやってきたつもりで、それにしてはダメだったなと反省しています。スピッツみたいな音像になってないし。結果、それしかできなかったからしょうがないな、と思うんですけど。

豊田:『バカばっかり』(2013年発表)とかは、もっとポップスとして拡がってもよかったのにね。PTAで学校に行くたびにあの曲がかかっていて、すごく耳に残る。

曽我部:作った時は「これでイケる」と思ったんですけど、なにもなかったです(笑)。でも、豊田くんがそういってくれて良かったです。

ーー20年音楽を続けてきて、今後「こんなふうにやっていこう」というのはありますか。

曽我部:音楽性はもちろん、金銭的な部分とか、いろんな側面があるけれど、こういう風にやっていこうという確固たるものはないですね。みんなで相談しながらやっていこうかなと。生活の中で音楽を作ることって、何歳になってもあまり変わらないことだと思うんですよ。だから、いまの感じでやり続けるしかないなぁって思ってて。

豊田:ぼちぼちやっていこうとは思うけれど、そんなに強い思いとかはないかな。いま、客が若い男の子たちばかりになって、だんだんなにをすればいいのかわかんなくなってきちゃった。一番前列に、かっこつけた男がいたりして、「おまえが俺のファンなのか?」って驚く。昔に来てたひとは、もう来ていない。

曽我部:豊田くんのライブに来る人は若い世代なんだ、すごいね! 僕のライブは同世代が多くて、それはそれで不安になるよ(笑)。だから、もっと若いバンドとかとツアーしたりした方がいいかなって思う。豊田くんの場合は、その時々の先鋭的な人たちが聴いているんだろうね。

豊田:大体がひとりで、たまに若いカップルがいて、よくわかんないよ。俺自身はパーティーミュージックだと思って作ってるんだけど。

曽我部:(笑)まぁ、その側面もある。

豊田:イメージとして、Television Personalitiesがいちばん好きなんですよ。あの人たちの音源ってほんといい加減で、でもミックスとかが意外とバッチリだったりする。自分なりに研究したんだけど、わからなくて。全部好きなんですよね。

曽我部:わかる、僕もいちばん好きかもしれないってくらい好きですね。でも、豊田くんがTelevision Personalitiesをそんなに好きだったとは意外かも。

豊田:好きすぎてあんまり人に言えないぐらい。

曽我部:ギターポップでもあるし、サイケでもあるし、パンクでもあるし。インストみたいなものもあるよね。プログレっぽいものもあるけど、なんかハートフルで、手触りがいいんですよね。

豊田:自分の中ではずっと、あんな音楽がいい。

ーー今年はまた何か、2人でやってくださいよ。

曽我部:今年はやりたいですねって、なんか毎年言ってる気がする(笑)。

豊田:今年はノーアイデアかな。

曽我部:僕はサニーデイのアルバム、作りたいですねぇ。できないモードになっちゃって、困ってるんですけど、なんとか2016年には出したいです。豊田くんともやりたいですね。

豊田:2016年はそんなパワーがあるかな? もう、2015年に力を出し切ったから(笑)。

(取材=神谷弘一/構成=松田広宣/写真=竹内洋平)

■リリース情報
豊田道倫
CDデビュー20周年記念アルバム
『SHINE ALL AROUND』
発売日:2015年12月30日(水)
定価:¥2,400 + 税
<収録曲>
1.雨の夜のバスから見える
2.SHINE ALL AROUND
3.ありふれたジャンパー
4.そこに座ろうか
5.愛したから
6.24時間営業のとんかつ屋
7.どうして男は
8.ともしび商店街
9.サイボーグの渋谷、冬
10.帰省
11.I Like You
12.小さな公園
13.Girl Like You
14.倒れかけた夜に
15.Tokyo-Osaka-San Francisco
16.また朝が来るなんて

サニーデイ・サービス『苺畑でつかまえて』
発売:2016年1月15日(金)
価格:アナログ7インチ+CD ¥1,500+税
紙ジャケット / 限定プレス
<アナログ7インチ盤>
side A 苺畑でつかまえて
side B コバルト
<CD収録曲>
1.苺畑でつかまえて
2.コバルト

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