『Jazz The New Chapter 3』発刊記念イベントレポート

柳樂光隆×唐木元が語り合う、『Jazz The New Chapter』が提示した“新しいサウンド”の楽しみ方

「ミナス派に共通しているのは、コード進行の浮遊感、解決しない感じ」(唐木)

唐木:次は何行こう、ブラジルかな。

柳樂:とか言いながらタンテにもうエスペランサ載せてる。それ掛けたいだけでしょ?

唐木:エスペランサは天才ベーシストにして、ヴォーカルも上手ければ、作曲・編曲もすごい。グラスパーがインタビューで「エスペランサが出てきたことは、ジャズシーンにとってとても大きなことだった」と絶賛してるような人物です。いまから掛けるこの曲はブラジルの音楽を参照していると思うんだけど。

【Esperanza Spalding - Junjo 】

柳樂:ジャズがブラジルの音楽を参照するのは今に始まったことじゃなくて、ジャズ史の最初っからずっと影響関係にあるわけだけど、ただ唐木さんの言いたいことはわかりますよ。ミナスっぽさでしょ?

唐木:そう。ご存知の方には釈迦に説法でしょうけど、サンバみたいなラテンど真ん中とは違う、クラシックや現代音楽を感じさせる潮流があって、その産地がミナス・ジェライス州という地域なので、日本ではミナス派と呼ばれています。その感じあるよね。

柳樂:例えば、ぜんぜんニューチャプターじゃないけどパット・メセニーはミナスの大御所、ミルトン・ナシメントやその周囲のミュージシャンにすごく影響を受けていますね。あとカート・ローゼンウィンケルという、いま40代半ばで、ジャズギターの潮流に大きな影響を与えたギタリスト。彼もミナスのギタリスト、トニーニョ・オルタからの影響を公言しています。

唐木:ミルトン・ナシメントにしろ、アンドレ・メマーリやアントニオ・ロウレイロのような最近のミナス派の人たちも、共通してるのはコード進行の浮遊感、解決しない感じだよね。

柳樂:ケペル木村さんというブラジルの音楽評論家の方が言っていたんですが、ミナスは教会がかなり多いらしくて。それもゴスペルではなく、白人的な、グレゴリオ聖歌的な教会音楽が多いんだって。だからミナスからは特殊な音楽が生まれているんじゃないか、と指摘していましたね。

唐木:ブルースからの距離が遠いということかな。さっき言った浮遊感って、具体的にはフォークでも言及した「ブルース感覚の希薄さ」が原因だと思う。もうひとつには「ドミナントモーションの希薄さ」だろうけど。

柳樂:ドミナントモーションというのは、ビバップで多用される、いかにもジャズっぽいコード進行のことです。

唐木:解決に向かう進行だね。そのふたつの希薄さをもたらした参照元のひとつとして、ミナス派の音楽があるのは間違いないんじゃないかな。ということで6個目の拡張ジャンルには、いまさらだけど「ブラジル音楽」を入れておこう。最後はドラムンベースやダブステップの話をしておきたいんだけど、JTNCではクラブ系のことを何て呼んでたっけ?

柳樂:エレクトロニック・ミュージック、かな。その文脈なら、マリア・シュナイダー・オーケストラのサックス奏者、ダニー・マッキャスリンのソロアルバムを聞いてみよう。これはまさに、ジャズとエレクトロニック・ミュージックを融合しようというコンセプト。

【Donny McCaslin 「Underground city」】

唐木:初めて聞いたけど、これドラムすごいね、誰?

柳樂:マーク・ジュリアナ。

唐木:どうりで。

柳樂:マーク・ジュリアナは「機械になりたい」と口走るくらい、ひたすらパーフェクトでズレがなく、体温を感じない演奏をしています。

唐木:音色がマシンっぽいのは、ノータムなのも大きいのかもしれない。ドラムセットって、ひとつ叩くと他の部分にも響いちゃうじゃないですか。それが生っぽさをもたらすんだけど、マシンぽくするためにいちばん共鳴するタムを取っちゃうんですよ。

柳樂:基本スネアとハットとライドのコンビネーションでやってる感じ。あとは最近のエレクトロっぽい音を出すために、シンバルを2枚重ねてガシャンとつぶれた音を作ったり、割れたシンバルを使ったり。

唐木:クリス・デイヴのリンゴの皮をむいたみたいなシンバルとかね。

Chris Dave and The Drumhedz at Guitar Center's Drum-Off Finals

柳樂:そうやって楽器にいろんな工夫をして、電子音そっくりの、機械みたいなビートを刻んでる。それは別に大道芸的なことではなくて、現代のジャズミュージシャンはそうやってジャズって音楽を拡張し続けてるわけです。

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