はっぴいえんど、ユーミン、サザン……萩原健太に訊く、70年代に“偉大な才能”が多数登場した背景

「サザンを何かの始まりと捉えることもできる」

――本書の最後には、サザンオールスターズについての一章が置かれています。萩原さんも一時在籍していた、というエピソードもありますが、これまでお話いただいた文脈のなかで、彼らはどんな存在でしょうか。

萩原:桑田はこのあたりの動きにはあまり反応していなかったみたいですね。どこかで聴いていたかもしれないけれど、ティン・パン系に憧れているような感じではなかった。ただ、歌謡曲や洋楽ポップスが好きでしたし、実家がバーを経営していたということもあって水っぽいムード歌謡なんかも聴いていたようです。当時はある意味マニアックなことをやっていた人だったので、そこまで売れないだろうなと思ってたんですけど(笑)。でも、彼らが今いる立ち位置は、やってきたことを考えれば当然の結果だと思うし、彼もどんどん成長して、さらにすごいミュージシャンになっている。そういう意味で、サザンを何かの始まりと捉えることもできるでしょうから、この本を彼らで終わらせていいのか、という迷いはありましたが。

――1990年代以降は、はっぴいえんど周辺の音楽を研究した若い世代が台頭し始めましたが、これについてはどう捉えられているのでしょうか。

萩原:“フォーマットとしてのはっぴいえんどの空気感”に魅力的を感じる人が多いのかもしれないですね。例えばサニーデイ・サービスやceroは、はっぴいえんど的な空気感は持っていても、それぞれにオリジナリティがあって違う方向へ踏み出しています。「はっぴいえんど」的な存在感というのは、もしかしたら僕が知らないようなジャンルの狭間に今も潜んでいるのかもしれない。音響面の部分では、はっぴいえんど周辺の“何か足りないのに、その空気の中で十分に何かが充満している感じ”を出す人たちが減ってきました。いろいろな技術が発達してくると、音像は基本的に塗り込められてくるもので、コンプでぐっと圧縮されたものが増えてきますから。だからこそ、それを再現したいと思うようなバンドが隙間に登場して、時代の空気と相まってまた新しいものが生まれてくる。

――はっぴいえんどを参照しつつ、新しい音を模索する動きは今後も出てくると?

萩原:今はまた時代がいろいろと変わってきて、ライブ全盛期みたいな見方はありますが、何かを作り上げるという意味で最初の基礎を作ったのは、いろいろな意味でやはりはっぴいえんどだったと思います。迷ったとき、アメリカならエルビス・プレスリーやスティーブン・フォスターに立ち返ったりしますが、日本だとそれははっぴいえんどといっても過言ではないでしょう。そこをリアルタイムに体験できた人間としては、「間に合ってよかった」という感覚ですね。

――それを記録しておきたいというのも、今回この本を執筆された理由なのでしょうか。

萩原:いえ、そんな大層な理由じゃなくて、野田さんが「その話、面白いですよ」といってくれたから(笑)。書き終えてみて、それが多少なりとも他の世代の人でも「ああ、なるほど、こういう音楽との接し方もあるのかな」という気持ちになってくれるような本になればいいかな、とは思っているんですけどね。

(取材=神谷弘一/構成=橋川良寛)

■書籍情報
『70年代シティ・ポップ・クロニクル』(ele-king books)
発売中
価格:1700円+税

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