『中居正広という生き方』著者・太田省一氏インタビュー

SMAP・中居正広はなぜテレビ界で「前例のないアイドル」となったか? 話題の研究本著者が解説

「スキルをすごいと思ってもらうのは、ある種アイドルっぽくない」

――東日本大震災を受けて2011年3月21日の『SMAP×SMAP』の放送枠では、何の専門家でもない彼らが、みんなで「状況を受け止める」ことのみで生放送をつないだ姿があったのを思い出しました。

太田:本人たちは考えてないかもしれないけれど、どこかの時点で何か大きなものを引き受け始めたということもあると思います。今でも『SMAP×SMAP』では東日本大震災被害者への支援を呼びかけてますよね。1995年の阪神・淡路大震災のあとの『ミュージックステーション』で「がんばりましょう」を歌ったりということもありましたが、そういうポジションを引き受けるという、ある種の使命感のようなものでしょうか。本人たちが声高にそれを言うことはないけれど、自分たちのポジションとしてこの役割が必要なんだと肌で感じてやっているような感覚はあります。

――SMAPが社会にとって大きなポップアイコンを担うなかで、中居正広は率先して言葉を紡ぎ、MCとして立ち回っていく立場になるわけです。

太田:ただ、中居くんが一人でメッセージを発するということはあんまりないという気がします。中居くんは「プロフェッショナルとは?」と聞かれて、「一流の素人、一流の二流、最高の二番手」と答えていますが、この言葉がすべてに通じるところがあって。自分がどんどんリードしたり自分の技術で番組をまとめたりするのでなく、ある時はアシストに回りながらでも全体が面白くなればいいという感じがある。仕切りの技術とか、スキルをすごいと思ってもらうのは、ある種アイドルっぽくないんですよね。そうではなくて、存在そのものを認めてもらう、それがアイドルということなんだろうと思います。

――特定の専門技術よりも、人格そのものを好きになってもらうことが第一ということですね。

太田:もちろん、やっていくうちにスキルは上がっていくものだし、今の中居くんのMCは他に劣らないくらいだと思います。でも、デビューしてからどうやってここまで歩んできたか、乗り切ってきたかという生き方そのものを見せるのがアイドルなのかなと。去年の『FNS27時間テレビ』は、そういうものだったわけですよね。これまでのSMAPの歩みに区切りをつける「生前葬」から始まって、新しいステージに向かうかたちをとりながら、最後に27曲ノンストップライブをやるんだけれど、中居くんはへとへとに疲れてうまくいかない。本人にとっては悔しかったでしょうけど、ああいう姿を見せるのがアイドルなんじゃないかと。

――一方にスキルを見せる、もう一方に人格を好きになってもらうという二つの要素があったとして、後者が先行して進んでいくのがアイドルという感じでしょうか。

太田:その逆のあり方として、クレージーキャッツやドリフターズがあるかもしれないですね。彼らの場合はあくまでミュージシャンあるいはコメディアンとして人気を博したけれど、そのあとに人としてのいろんな一面を知って、人間そのものを好きになっていくというような。

――そうなると、スタートは違うかもしれませんが、SMAPも結局同じようなところに到達していくのかもしれません。

太田:結局、我々がエンターテインメントとして何を見ているのかといった時に、その人の人間的魅力、どう生きたかというところがやっぱり最終的に残るのかなと。今はメディア状況もそうなりつつあるのかもしれないですよね。TwitterにしてもInstagramにしても、インターネットというメディアはそういう側面があります。そこで何か演じているとしても、なにかしらの「人格」を出さなきゃ見てもらえないし。

――しかし、ジャニーズの場合はインターネットでオープンな発信をしないですよね。

太田:だからこそある程度、ジャニーズという独自の世界がぎりぎり守られているのかもしれないですね。テレビの中で、ジャニーズのメンバー同士でいじりあう程度に収めている。ただ、テレビでどこまで人格を見せるのか、それを試す最前線にいるのはやっぱり中居くんですよね。後輩のキャラクターをどんどんほじくり返している。『中居正広という生き方』の中で舞祭組を多く取り上げたのもそういうところからです。ジャニーズとしてどこまでやるべきなのか、そのリミットを広げようとしている点では、中居くんとジャニー(喜多川)さんは共通している感じがします。

――とはいえ、ジャニー喜多川氏と比べると、彼の表現したいフィールドや内容とは距離があります。

太田:生きてきた時代や環境の差は大きいでしょう。ジャニーさんは若い頃にアメリカにいて、戦後のアメリカ文化の影響をもろに受けた世代です。ブロードウェイやハリウッドに憧れを抱き、いかに「アメリカ」を自分たちのものとして消化するかということを考えてきた。一方、SMAPが登場したのは冷戦構造の終わりです。アメリカの影響は今でもあるけれど、アメリカがライフスタイルのお手本だった時代は終わっていた。ある意味ではアメリカの影がなくなったところに登場して、テレビをベースに生きる道を見つけた。ただ、ジャニーさんは舞台の分野で展開している独特の世界のリミットを広げようとしているし、中居くんの場合はテレビを中心にして世間との接点の最前線を探ろうとしている。そこには共通点があるように思います。

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