香月孝史がSKE48の“次のステップ”を読み解く
SKE48は“外向き”の象徴=松井玲奈の卒業をどう乗り越えるか 『TIF』好演で見せた新境地を読む
他方で、アイドルシーンのなかで外向きにグループを打ち出すことについては、ある面では課題を抱え続けていた。いくつかの印象的な場面がある。2010年8月、SKE48はスマイレージ(現・アンジュルム)、ももいろクローバー(現・ももいろクローバーZ)、bump.yとともに、渋谷C.C.レモンホール(現・渋谷公会堂)で催された『アイドルユニットサマーフェスティバル2010』に出演している。同月の上旬に第1回『TOKYO IDOL FESTIVAL(以下、TIF)』が開催され、“アイドル戦国時代”という言葉が鮮度を保っていた時期のこと、AKB48グループ、ハロー!プロジェクト、新興グループの対抗戦のようなこのイベントは大きな注目を集めた。もちろんここでSKE48は普段通りのアクトを見せていたが、その「普段通り」は必ずしも自身のファン以外にアピールするやり方として最適ではなかった。たとえば、劇場公演時のように自己紹介MCを全員分行なうことでSKE48は己のペースを保っていたが、自己紹介MCはその名称とは裏腹に、彼女たちをすでに十分に知っているファンでないと共有することが難しい内輪向きのものでもある。「普段通り」のシフトは、外向き前提のイベントでは十全に機能したとは言いにくかった。その二年後の『TIF2012』にSKE48は初登場し(松井玲奈は不参加)、ここでは一定のインパクトを残したように思われたが、翌年以降、松井玲奈とは違うアプローチでアイドルシーンを俯瞰する指原莉乃を中心としたHKT48が『TIF』で好評を博したことで、48グループの中で『TIF』との好相性を語られるのはどちらかといえばHKT48の方だった。そうしたグループの中で、対外的な志向をもってフロントメンバーに立つ松井玲奈が去ってしまうことは、ともすればウィークポイントにもなりかねない。
しかし、こうした外向きのアイドルイベントに対するSKE48のイメージはこの夏、一新された。8月1日の『TIF2015』初日、三年ぶりに『TIF』に出演したSKE48は、以前の出演時とは大きく違う鮮烈な印象を残した。自分たちのファン以外の人々が多くいる場という前提に立ったパフォーマンス、MCはかつてよりも格段に外部イベントにフィットしたものになっていた。もちろん、昨年の『TIF』には観客として来場していた松井玲奈が、三年前に参加できなかった『TIF』への参加を熱望していたことはポジティブに受け止められていたし、また『TIF』に48グループが関わること自体が珍しくなくなった現状も、SKE48を受け入れる空気としてプラスに働いただろう。ともあれ、松井玲奈の卒業目前の時期でありつつ、また江籠裕奈、後藤楽々ら「前のめり」の選抜メンバーにも名を連ね今後の鍵を握るメンバーが参加した『TIF』で、SKE48がアイドルシーンに向けて好印象を与えることができたことは、この先にとっても重要な出来事だ。グループの中心人物でありつつ48グループの外を見据えてきた松井玲奈が卒業する今夏以降に向け、SKE48は良いステップを踏んだのではないだろうか。
■香月孝史(Twitter)
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。