「宗像明将の現場批評〜Particular Sight Seeing」第17回 神聖かまってちゃん『対バンツアー『Athena最前線』』
神聖かまってちゃん、「バンドの音楽」のみで会場を熱狂させる N'夙川BOYSとの対バンレポート
そして神聖かまってちゃんは、満員のファンを前に音頭に乗せて登場。の子の手には配信用のパソコンがあり、それはステージ上の劔樹人に手渡された。メンバーのダイブに対応したり、の子を持ちあげてステージ袖に運んだり、配信を担当したりと、スタッフの人員が普通以上に必要なのも神聖かまってちゃんというバンドだ。
ヴァイオリン、マニピュレーターを加えた6人編成でライブはスタート。1曲目の「自分らしく」はラテン風のパーカッションの音色が新鮮だ。2010年に初めて神聖かまってちゃんのライブを見たときに比べると、monoのキーボードもすっかりうまくなったものだ。
「22才の夏休み」では、サポートメンバーなしの4人だけでラウドかつソリッドな演奏を聴かせた。特に、みさこのドラムの繊細さとダイナミックさをあわせもつプレイは、見応えたっぷりである。続く「躁鬱電池メンタル」でもみさこのドラムは輝いており、さらにヴァイオリンも、激しさの中でメランコリーを含みながら艶やかに響いていた。
「スピード」はの子の演劇的とも感じられるMCから続けて演奏されたが、の子のパフォーマンスに合わせられる力量を、現在の神聖かまってちゃんが持っていることを心強く感じられた。の子の無軌道さをバンドが吸収できるようになっているのだ。
「花ちゃんはリスかっ!」「ちりとり」とダイナミックな演奏が続き、の子は珍しくメガネをかけて演奏。MCでは「ステージに上がってこい!」とファンを煽った。神聖かまってちゃんのサマー・ソング「彼女は太陽のエンジェル」では、の子とmonoがヴォーカルを担当。ダイブしたの子の手足をスタッフがつかむ光景は、まるでマグロのひきあげのようだった。
「あるてぃめっとレイザー!」では、この日の神聖かまってちゃんの演奏がもっとも白熱した。の子がギターを掻き鳴らし、monoもマイクでシャウト。ちばぎんのベースも、ニュー・ウェーヴやアヴァンを連想させるものだった。
そして演奏が終わると、みさこが突然「ちばぎんさん、魔法の言葉をお願いします」と言い、ちばぎんが「今の曲が最後でした」と発言。の子はちばぎんに抱えあげられて運ばれていった。
アンコールは「おっさんの夢」からスタート。「夏の夜におばちゃん家に自転車ででかけた」という歌詞から始まる、ノスタルジーと叙情性のある楽曲だ。
そして、スペシャル・ゲストとしてN'夙川BOYSが呼びこまれたが、N'夙川BOYSはまったく聞かされていなかったとのこと。マーヤLOVEが「いちいち突然なんやー!」と叫んでいたのもおかしかった。そして、N'夙川BOYSを迎えての「ロックンロールは鳴り止まないっ」へ。熱唱していたの子とマーヤLOVEのほか、ちばぎんもフロアへダイブしていった。
「今日はけっこうキャッチボールできたぜ!」というの子のMCで大団円を迎えたと思いきや、の子のフリースタイルラップがはじまり、みさこに腹を叩かれながらmonoが応戦させられるハメに。ライブ本編はしっかりしていたのに、結局まともに終わらないのが神聖かまってちゃんらしい。の子は「インターネットでまた会おうぜ!」と叫びながらちばぎんに運ばれていった。
神聖かまってちゃんというバンドには、音楽面以外のパブリック・イメージがあまりにも多く付きすぎている。しかし、この日の神聖かまってちゃんは、多少の脱線はしつつも「バンドの音楽」で会場を熱狂させており、それが素直に嬉しく感じられた夜だった。
(写真=佐藤哲郎)
■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter
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