「それって、for 誰?」 part.1 リリース特別対談(後編)
「ここから先は音楽を作る人が客を選ぶべき」 Base Ball Bear小出祐介×玉井健二が語る、シーンと作り手の変化
「本質的に変わらないのは『2、3秒でモテるかどうか』が大事ということ」(玉井)
――玉井さんはどういう風に思っていますか?
玉井:本質なところは変わらないと思いますね。それと同時に、めちゃめちゃ変わるなと思う部分もある。
――変わらない部分というのはどういうところなんでしょう?
玉井:本質的に変わらないと思うのは、「2、3秒でモテるかどうか」が大事だということ。結局、ここなんですよね。2、3秒で「この人素敵」って思わせられるかどうか。何事もそうなんです。料理もそうだし、建築物もそう。出会った時にパッといいものだと思わせられるものが大事だし、そしてそこに掘りたくなるものがあるかどうかもすごく重要ですよね。
――掘りたくなるもの?
玉井:例えば4億再生のPVがあっても、4億人が1回だけ再生している場合もあれば、何回も何回も観たくなるものもありますよね。やっぱり何回も観たくなるもののほうがいい。曲の中、音楽の中にもそういうものが詰まっているかどうかが大事なんですよね。詰まっていれば掘りたくなるし、掘っていくと「他の人はどう思っているんだろう」ってことが知りたくなる。そうすると、誰が何を言っているかっていうのが重要になってくる。音楽評論家の◯◯さんが褒めてたっていうところに価値も出てくるだろうし。そういう基本的な構造は変わらないと思いますね。
――なるほど。変わるところについてはどうでしょう?
玉井:音楽をどう届けるか、ということですね。音楽を作ってる方の感覚で言うと、これまではレコードメーカーがCDを作るというのが前提だった。そのレコードメーカーが営業して、音楽メディアに乗せることでいろんな人に知ってもらえて、CDがたくさん売れる。CDを買ってもらうことでアーティストがよりよい環境を得て、よりよい音楽を作って、またいろんな人に聴いてもらう。それがここ数十年の循環だったんですよね。もちろんその仕組みは今もあるし、これからも残るんですけど、そうじゃない仕組みもたくさん生まれている。そういうことを前提に考えると、ここから先は音楽を作る人が客を選ぶべきだと思うんですよ。
――客を選ぶべき、というと?
玉井:こういう人に聴いてほしい、こういう人に届けるっていうのを、作り手の側が決めてしまえばいいんですよね。誰と共有するのかを最初に決めてしまう。そしたら、共有された先の人は「こういうヤバい曲がある」って、自分が信頼する人に教えたくなりますよね。そういう風に信頼と信頼の連鎖で繋がっていって、最終的にその人の曲を聴きたい人がたくさんいる状況が生まれる。それに応えてアーティストがまた音楽を作っていくという循環の仕組みになる。
――なるほど。10人に深く刺されば、その10人の周りにいる100人に波紋が広がるわけですよね。
玉井:例えば、自分が1ユーザーだとして、本当に好きなアーティストがいたら、今はその人とつながることもできる時代になってますよね。こいちゃんが誰かの質問に何気なく答えたというのも、その人からしたら「こいちゃんから返事来たよ」ってなる。そういうことが日常に行われている。その感じに近いんですよね。今まではメジャーレーベルから音楽を発信しているアーティストは客を選ばなかったわけですけど、この先は、アーティストが客を選ぶというくらいのことを、心のどこかで決めたほうがいいと思うんです。そうしないと、相対性でしか物事が考えられなくなってくる。
――相対性でしか物事が考えられないというと?
玉井:たとえば、今の若い男の子のロックバンドって、みんな声のキーが高いですよね。それはいいとか悪いとかではなくて、必然的にそうなると思うんですよ。あの環境でみんながメジャーデビューして、大きなフェスに出て、そこで尖ろうとすればそうなっていく。そこで争って得たいものがあるからそうするんだろうし。
――一つの枠組みの中で評価を得るための競争が生まれるわけですね。
小出:今って、いろんな音楽が多岐に渡ってあるわけじゃないですか。そういう時にメディア側は何をするのかっていうと、悪い言い方をすればレッテルを貼るというか、枠で囲ってプールを作ることだと思うんですよ。それが、玉井さんが言ったような、アーティスト側との相互関係を生む。それの最たるものが夏フェスだと思うんです。