作詞家zopp「ヒット曲のテクニカル分析」 第3回(後編)
NEWSの新曲にも使われた英語詞テクニックとは? 作詞家・zoppが国内外のヒット曲を分析
「教科書英語みたいなものを並べても、向こうの人は『みんなのうた』を聴いている感じ」
――現在は作曲に単独クレジットで加わる海外の作家も増えたように感じます。
zopp:海外の作家さんも、「日本のマーケットは馬鹿にできない」とわかって、勉強しはじめたのだと思います。そして手を入れなくても向こうからBメロを作るようになってきたし、PPPHも取り入れたので「なんという成長なんだ! どれだけ音楽IQが高いんだと思うくらい、日本語の音楽業界にフィットしてきましたね(笑)。
――同様の例を作詞ではあまり見ないような気がするのですが…
zopp:作詞家は楽ですよね。海外の作家陣がどれだけ日本文化を知っていても、日本語まではマスターしきれないでしょうし。そういう意味では作詞家にとっては、まだ国境はあるのかなと。メロディには国境がないですけど、言葉には国境がある。言葉と文化で国境はできていますよね。それに、海外の感覚や 文化を日本語にして、歌詞を書いてもニーズはないと思うんです。日本の文化を日本語で表現してあげるというのが、日本人にとっては一番心地よいものでしょうし。
――逆に、日本人が英語をマスターできても、向こうの文化圏を理解していないと難しいということでもありますよね。
zopp:教科書英語みたいなものを並べても、向こうの人からすると、僕らでいうところの「みんなのうた」を聴いているような感じなんですよね。なかでも難しいのはスラングで。こちらでいう隠語や俗語などの、教科書に載っていなくて、俗語辞典にしか載っていない言葉だけど、若い子はみんなその言葉を使うというものが多い。こと恋愛に関しても、日本はよくも悪くも恋愛に関して繊細な表現が多いですが、海外はどちらかというと「してみないとわからない」みたいなスポーツの感覚に近いんです。体験してから良いか悪いかを決めないといけないという、ある意味ロジカルで理屈っぽいですよね。ファストフード的な思考なのかもしれませんが、恋愛も早くしてみて、ダメだったらすぐ次に行きたいという(笑)。
――確かに、どこかカラッとしているような歌詞が多い気がします。
zopp:海外の歌詞で付き合うまでのもどかしさを描いた歌詞は少ないんです。基本的には付き合っている上での問題とか、別れをテーマにしたもの…「別れたけど戻った」「別れた相手を罵りまくる」などが多いと思います。アヴリル・ラヴィーンやテイラー・スウィフトの歌詞にはそういった葛藤が描かれていることが多いですよね。一方で、日本人は別れよりも出会いや、付き合うまでの物語に重きを置いている。
――ちなみに、英語の若者言葉で具体的な例はありますか?
zopp:僕がアメリカに居た頃に一番ビックリしたのは、「I am 」という言葉を 使わずに「I are 」と言うこと。「なんでなの?」と聞くと「Areの方が響きがいいから」と言われました。文法的には間違えているけどあえて使っているんですよね。たとえば「私はそんなことをしていません」という時は「I don't do that 」という言葉が適切なのですが、これだと固くて長いからという理由で、言葉の数も少なくて、響きも柔らかい「I are'nt do that 」になる。メロディに合わせて言葉が変化するというのは、海外、特にアメリカの文化だなと思います。日本語でそれはなかなかないでしょうし、もちろん特有の体言止めや韻を踏むっていうのはありますけどね。「私はあなたが好きです」の「です」の部分を直接変えているみたいなもので、「私はあなたのことが好き“ふん”」みたいな感覚ですから(笑)。
(取材・文=中村拓海)
■リリース情報
zoppによる初の書き下ろし小説『1+1=Namida』
出版社: マガジンハウス
296P/価格:1365円