嵐はいかにしてバラエティ番組で活躍の場を拡げたか サブカル期から王道への移行期の足跡を辿る

 さらに、催眠術に異常にかかりやすい大野と、相葉が催眠術にかかった状態で突然放ったギャグ「イタリアの大砲」(布団の上で、むくっと起きて四つん這いになり、お尻から大砲が出るというもの)+傍らで見ていただけなのに催眠術にかかってしまい一緒に「イタリアの大砲」をやる大野という、おバカの連鎖も素晴らしかった。

 一方、二宮が大野と二人で挑戦した「逆回転」は、意外な才能が発揮された企画だった。

 日常の様々な動きを逆から行い、逆まわしにしてみてみるというものだが、最初の壁になったのは「言葉の逆読み」。言葉は、母音と子音のつながりでできており、例えば「コマネチ」の場合、ひらがなを単純に逆にすると「チネマコ」だが、これでは逆回転は成立しない。ローマ字にして(komaneti)逆さに読む「いてなもこ」にしないと、ダメだという「理屈」が解説される。驚いたのは、そんな「理屈」はわかっても、簡単にできるものではないのに、二宮は自然に上達し、フツウに頭の中で変換して「逆読み」をスイスイできるようになっていったこと。この人の頭はどうなっているんだろうと、本当に不思議だった。

 さらに、嵐を象徴する人気恒例企画となったのは、「うだうだスペシャル」。スタジオではなく楽屋で、全員がパジャマ姿で布団に入った状態のまま、うだうだのためにお蔵入りした未公開映像を紹介するという内容だ。シンプルにして最高にバカバカしく可愛い、嵐というグループの魅力がすべて詰まった完成形が、ブレイク前の04年時点で出来上がっていたのだ。

 そして、05年にはサブカル色がメジャー度を高める『Gの嵐!』がスタート。嵐扮する「嵐応援団」たちが自分の決めた人・モノを応援するという企画だが、ここから後々まで語り継がれる様々なキャラやキーワードが生まれる。

 一つは、「チェスト櫻井」。マイナースポーツを応援する企画で、ヌンチャクの応援に行った5人は、師範のもとで打ち込みを習う。お手本として師範が叫んだ「チェストー!」という気合を、他の4人がやめても、櫻井だけはなぜか「チェストー!」と叫び続け、爆笑を誘う。しかも、もともと「運動音痴」キャラだった櫻井が、なぜかヌンチャクは達者で、嵐のヌンチャク王決定戦で優勝するというオマケつき。しっかり者キャラなのに、ちょっとどんくさく、それでいてときどき奇跡を起こす櫻井のバラエティ力が開花したのは、まさに「チェスト」からだろう。また、大野がフレディ・マーキュリーに扮し、キレキレに踊る「エアギター」も、大評判となった。

 こうした深夜の(良い意味で)「うだうだ」「くだらない」「おバカな」ノリは、嵐やジャニーズに全く興味のないサブカル好きや深夜番組好きの感性にハマり、じわじわと受け入れられていく。

 それにしても、なぜアイドルが、サブカル色の濃い、おバカな深夜番組を作れたのだろうか。

 かつて嵐の深夜番組に長年携わったスタッフに話を聞いたことがあるのだが、その際、非常に印象に残ったのが「ジャニーズの番組は簡単に終わらないのが良い」という言葉だった。

 一見ネガティブにも思えるが、実は「簡単に終わらない」というのは、テレビのクリエーターにとって大きな意味があることだと思う。一つは、視聴率に一喜一憂せず、いろいろな挑戦ができること。さらに、深夜番組ならではの低予算の縛りと、深夜という時間だから許されるバカバカしさや遊び・冒険できること、さらに当時まだ嵐がブレイクしていなかったからこその「タレントとしての色のなさ・自由さ」とが絶妙に重なり合い、生み出された奇跡のバランスだったのではないだろうか。

 もちろん多数のおバカ実験やくだらない疑問を真剣に検証するといった企画は、長年ともに番組を作っていったスタッフ、若手の放送作家たちのアイディアによるものだろう。だが、それを会議室での打ち合わせ・机上のプランよりも面白くしたのが、嵐という素材だった。世間的に求められるキャラもなく、グループ内の役割分担も定まらない嵐が、日テレ深夜のバラエティ番組を通じて成長し、「嵐の色」を作っていくとともに、新たなバラエティのかたちを作っていった。

 「うだうだスペシャル」などが代表的だが、作り手が嵐の「素材」の魅力に引き寄せられ、そこから新たなイマジネーションが生まれた面も少なからずあるだろう。

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