成馬零一「テレビドラマが奏でる音楽」第3回

ピエール瀧、なぜ俳優としても愛される? 電気グルーヴにおける役割から考察

 それにしても俳優・ピエール瀧の存在感はどこから生まれたのだろうか。

 ヒントは電気グルーヴにおける瀧の役割にある。

 電気グルーヴの前身バンドである「人生」の頃から瀧は楽器を弾かない(あるいは、弾けない)ミュージシャンだった。その代わり、着ぐるみで登場するといった様々なパフォーマンスで客席を盛り上げることを得意とした。そのため、海外ツアーをした際に電気グル―ヴの写真が掲載される時はいつもケンタウロスやインベーダーの恰好をした瀧の姿であった。

 動きが少ないため、ビジュアルが地味になりがちな打ち込み系のグループでありながら電気グルーヴのライブは、華やかでエンタメ性が強い。

 それは毎回話題となるPVにしても同様だ。音楽だけではフォローできないビジュアル面から電気グルーヴの世界観を構築する際にピエール瀧が果たしてきた役割は実に大きい。

 また、「UFO」や「KARATEKA」といった初期のアルバムには、やる気のないサラリーマンや、夢ばかり見てるが努力を全くしないフリーターといった、凡庸な人間を突き放した視点で歌う歌詞が多かった。そういった歌は「がんばれば夢はかなう」と歌う90年代のJ・POPの中ではきわめて異例のシニカルな笑いに満ちていた。

 「誰だ!」が収録された「ORANGE」の殺伐とした世界観は完全に『凶悪』と地続きであり、電気グルーヴの歌詞に登場する凡庸な男たちの存在感は、瀧が演じている悲哀のある中年や、胡散臭い詐欺師然とした男たちに通じるものがある。

 どんな歌詞であれ、ミュージシャンは歌っている瞬間は歌詞の世界の人々の気持ちを追体験しているものだ。それは俳優が役を演じることに通じるものだと言える。

 だから、電気グルーヴの歌詞世界の住人たちは、間違えなく瀧の中に存在する。

 電気グルーヴという劇団の看板役者であり続けたからこそ、ピエール瀧は俳優として成功できたのだ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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