「千本桜」はなぜ国境を越えて愛されるのか? CTS feat.初音ミクの動画が英語圏で話題を集める背景
2011年9月にインターネット上に公開されてから約3年半。ボーカロイドのシーンから生まれた数々の楽曲の中でも、「千本桜」は今や世代や国境を超え、群を抜いた人気を誇っている。
黒うさPによって投稿されたオリジナル曲は、2014年3月23日現在で860万回以上の再生回数を記録。数々の「歌ってみた」動画も投稿され、JOYSOUNDのカラオケ年間ランキングでは2012年から2014年にかけて3年連続で第3位にランクインしている。まらしぃによるピアノカバーや和楽器バンドによる演奏など様々なジャンルのカバーも公開され、昨年には演歌歌手・小林幸子も日本武道館公演で“持ち歌”として熱唱した。
さらに、2015年3月には“覆面LEDユニット”CTSが、初音ミクとコラボした形でこの曲をダンスミュージックのスタイルでカバー。「CTS feat.初音ミク」名義で、3月18日にシングル、25日にEPという形で配信限定リリースした。
なぜ「千本桜」はシーンの垣根を超え、歌い継がれる名曲となったのだろうか。この記事では、改めてその理由を分析していきたい。
まず大きなポイントは、この曲が「ヨナ抜き音階」を駆使したメロディを持っていること。ところどころで外れるところはあるが、「千本桜」は基本的にはDmキーのヨナ抜き音階(ニロ抜き短音階)をベースにした旋律になっている。以前に音楽プロデューサーの亀田誠治がテレビ番組『亀田音楽専門学校』で説明したように、5音階からなる「ヨナ抜き音階」は明治時代に「唱歌」のメロディとして普及し、日本人にとって最も親しみやすいものだ。
また、「♪大胆不敵に ハイカラ革命」から始まる歌詞も、七五調にこそなっていないが、その変形をベースに日本語本来の語呂の良さを活かしたもの。つまり、日本人にフィットする、「和」を思い浮かべやすい要素を散りばめた曲調になっている。和楽器バンドや小林幸子がこの曲を歌い継ぐのは理に適ったことと言えるわけだ。
ポピュラー音楽研究を専門とする音楽学者の輪島祐介は、著作『創られた「日本の心」神話』にて、現在の意味で用いられるような「演歌」というジャンルが1960年代後半に生まれたものであることを指摘している。「七五調の変形」「ヨナ抜き五音音階による旋律」という、昭和初期の歌謡曲のスタイルを持った当時の楽曲が当時に「演歌」の枠組みの中に位置づけられたとしている。また、「それが『日本的』ないし『伝統的』なものとして一般に定着するのは1970年代です」と言及している。
つまり「演歌=日本の心」という認識も比較的新しいものであるわけだ。その延長線上で想起すれば、いわば「千本桜」も21世紀の新しい「日本の心」となった、と言えることになる。