大森靖子&THEピンクトカレフ解散によせて ラスト・アルバムに混在する「青臭さ」と「成熟」

 『トカレフ』は、初めてCDになる楽曲と、すでにCD化されている楽曲の再演、そして加地等の楽曲のカヴァーで構成されている。いわば大森靖子の過去から現在までをバンドで再構築した内容だ。

 アルバムの幕を開ける「hayatochiri」は『絶対少女』にも収録されていた楽曲だ。『絶対少女』ではアコースティック・ギターの弾き語りをベースにしたサウンドだったが、ここでは激しいロックに変貌しており、それゆえに「ねぇ知ってた? サブカルにすらなれない歌があるんだよ / ねぇ知ってた? アンダーグラウンドは東京にしかないんだよ」という歌詞が耳に突き刺さってくる。

 「ワンダフルワールドエンド」は堂々たるロック・バラード。「少女3号」は、2013年作『黒歴史再録』や『絶対少女』にも収録されていた楽曲だ。『黒歴史再録』では、アコースティック・ギターの弾き語りで34秒しかない。『絶対少女』では、カントリー・ロックと繊細なヴォーカル・ワーク、そして電子音が交錯するサウンドだ。それにくらべると、大森靖子&THEピンクトカレフのヴァージョンは、川畑 usi 智史(川畑兄弟、ザ・ツイスターズ)によるドラムの音色が大きなアクセントになっており、ギターがハードなサウンドだ。そう、大森靖子&THEピンクトカレフは大森靖子、小森清貴(壊れかけのテープレコーダーズ)、高野京介(うみのて、ゲスバンド)とギタリストが3人もいるギター・バンドなのだ。そして、この青臭くはないけれど成熟と呼ぶにはまだ早く、加熱されていく過程のような温度感こそが大森靖子&THEピンクトカレフの魅力であるのだと気づく。

 「みかんのうた」は、大森靖子が「じいちゃん」という言葉をコブシを回すかのように歌うという衝撃的な始まり方をする。しかも続けて「満州」という単語が出てくる意外性と、サイケデリックな感触すらあるエレキ・ギター。3分足らずながら、本作の中でも突出した楽曲だ。

 「ミッドナイト清純異性交遊」は、大森靖子と来来来チームによる2013年作『ポイドル』、そして『絶対少女』に続いて3回目のレコーディングとなる。大森靖子と来来来チームによる『ポイドル』は、大森靖子が1970年代末のトーキング・ヘッズと出会ったかのようなサウンドだった。直枝政広のプロデュースによる『絶対少女』での「ミッドナイト清純異性交遊」は、一転してテクノポップ色を強めたサウンドになる。

 そして、『トカレフ』の再演曲の中でも「ミッドナイト清純異性交遊」はひときわ新鮮だ。なぜなら大森靖子で、これほどストレートにアメリカン・ロックなバンド・サウンドは初めて聴いたからだ。開放的なロック・ナンバーとしての「ミッドナイト清純異性交遊」は実に爽快だ。大森靖子&THEピンクトカレフというギター・バンドだからこそ生まれ得たサウンドである。

 続く「料理長の音楽は豚肉の焼ける音だった」は、各メンバーの個性が出たプレイと、大森靖子による幾重ものコーラスが、穏やかにして深みのあるサウンドを生み出している。大森靖子&THEピンクトカレフには「激しさ」をイメージしがちだが、こうした穏やかさの中にも“バンド”としての成果はしっかりと存在している。

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