小野島大が読み解く“歌姫の復活劇”

“昭和歌謡最後の女王”の覚悟ーー中森明菜の新曲「Rojo -Tierra-」を聴く

 もうひとつ気づいた点を挙げるなら、以前の中森のような濃厚なエロスというよりも、もっと根源的な生命のエネルギーを感じさせるということ。「私たちはひとりじゃない/あなたはもう ひとりじゃない/つらい過去から逃げずに...夜明けをつかまえて/優しい目をした人よ 光は降り注ぐから」という歌詞も、男女の性愛というよりも、未来に向けての光や希望を歌っている。これは『SONGSスペシャル 中森明菜 歌姫復活』で中森が語っていた「支えてくれるファンの人たちを喜ばせたい。自分の歌が、みなさんのしんどい日々の生活の支えや手助けや勇気になればいい」という発言でも裏付けられるだろう。自分が歌いたい、表舞台に立ちたい、脚光を浴びたいというスター意識やアーティスト・エゴよりも(もちろん、そういうものがないはずがないが)、ファンや客を明確に意識した発言は、昭和歌謡最後の女王であり、日本の大衆芸能の伝統の衣鉢を継ぐ者としての意地と覚悟が感じられるものだった。このコメントだけでも、期待は高まるというもの。

 「Rojo -Tierra-」のカプリングとなる「La Vida」は、この原稿を書いている時点では音を確認することができなかったが、歌とギターとパルマ(手拍子)だけのフラメンコ調の曲という情報から、彼女らしいしたたり落ちるようなエロスを表現した濃厚な楽曲ではないかと推測される。2002年のシングル「The Heat ~musica fiesta~」のカプリングだった「「Siesta ~恋のままで~」に近いイメージだろうか。

 カヴァー楽曲集『歌姫4 -My Eggs Benedict-』に関しても、『SONGSスペシャル 中森明菜 歌姫復活』で披露され、その後先行配信された「スタンダード・ナンバー(南佳孝)」と「長い間(Kiroro)」しか聴くことができなかったが、特に「長い間」は歌手・中森明菜の本領発揮といえる素晴らしい歌唱だっただけに期待できそうだ。

 だがかれこれ8作目(『歌姫』シリーズとしては4作目)となるカヴァー・アルバムは、正直もう食傷気味という思いもある。やはりアーティストとしての本格的な現役第一線への復帰は、『DIVA』(2009年)以来のオリジナル・アルバムの発表を待ちたい。『SONGSスペシャル 中森明菜 歌姫復活』ではオリジナル・アルバムを制作中という中森の発言もあったが、その新作を引っさげてのコンサート・ツアー、そしてヴィジュアルと歌が一体化した一部の隙もない明菜流世界観を披露して、初めて中森明菜は復活したと言えるのではないか。インタビューを見ても、彼女の創作意欲はまったく衰えていない。復活のその日を熱烈に待ちたい。

■小野島大
音楽評論家。 時々DJ。『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』などに執筆。著編書に『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社)、『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)、『フィッシュマンズ全書』(小学館)『音楽配信はどこに向かう?』(インプレス)など。facebookTwitter

■リリース情報
『Rojo -Tierra-』
発売:1月21日(水)
価格:初回限定盤(CD+DVD) ¥1,700+税
   通常盤(CDのみ) ¥1,200+税

<CD収録内容>
1. Rojo -Tierra-
2. La Vida
3. Rojo -Tierra- (Instrumental)
4. La Vida (Instrumental)

<DVD収録内容>※初回限定版のみ
1. Rojo -Tierra- (メイキング映像)

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