嵐『THE DIGITALIAN』を青井サンマが全曲レビュー「もう今日から私達はアラシアンです!」
09「TRAP」
櫻井くんの唸るような「I’ll get you in the TRAP」で始まり、サビは「I’ll take you down」を連呼。あとはひたすらお前はもう罠にはまってんだぜとたたみかけます。サウンドはテンポが早く音が多くて複雑。迫ってきます。怖いです。でも怖い嵐がかっこいい。そしてTRAPを何と解釈するかによって無限の楽しみ方がありそうです。この曲も嵐ファンではない方にもオススメしたいです!
10「STAY GOLD」
松本くんのソロ曲。松本くんは今回共作ですが作詞もしています。これは上述の雑な区分でいうところの「宇宙まで走るぜ」と「朝まで踊らない?」の合わせ技という感じで、ファンに「俺STAY GOLDするからついて来いよ」と呼びかける曲。ファンにとっては嬉しいばかりの宣言ですが、誠実で真面目な松本くんが作詞に参加しているからでしょうか、「終わりなき旅へ」「たった一度の人生ならば」「これからもずっと」などの歌詞で人生をかけた約束をさせられているような気がして筆者はちょっとひるんでしまいました。ひるまない方には極上のプロポーズソングだと思いますよ! 添い遂げましょう!
11「Bittersweet」
ショコラティエドラマの主題歌だったシングル曲。切なくもかわいらしく爽やかな印象のラブソングで、30歳をすぎたおじさん達なのにこの曲が表現できるのはさすが嵐というところ。ただ、歌詞をよく読むとこれもひとりよがりというかストーカーっぽいんですよね……。
12「メリークリスマス」
二宮くんのソロ曲。作詞と編曲は共作ではありますが、作詞作曲編曲に二宮くんの名前が堂々とクレジットされています。毎度話題作というか問題作を投下する二宮くん。前作はお母さんのお誕生日に贈る曲でした。今回は12月24日が相葉くんの誕生日ということでその方面で攻めてくるかと期待したのですが、そのような仕掛けはなく、かわいらしいラブソングでやや肩すかし。共作ゆえか詞にもいつものような句点乱れ打ちは見られず、身悶えるような恥ずかしさもなく、少しさびしいですね……。しかしながら、全体的に大人の空気を醸そうと作家陣が意気込んでいるのが見受けられるこのアルバムに、サンタ帽かぶったケーキ売りのバイトという世界観をブチ込んだのはさすがです。曲を作り歌う二宮くんはもう31歳です。
曲は「We Wish You a Merry Christmas」を思い起こさせるコード進行でものすごく凝っていますが、明るくキラキラしたサウンドに仕上がっています。
13「キミの夢を見ていた」
嵐らしい爽やかなラブソング……のように聞こえるのですが、これも歌詞を見ると相手が近くにいるんだかいないんだか……。なんでしょう、このアルバムでは作詞陣に「パートナーの存在を近くに感じさせてはいけない」という縛りを課したのでしょうか。そのいっぽうでワンナイトラブらしき曲がいくつかあるという極端さ。デジタリアンさんって寂しい大人なのかな……とアルバムジャケットに象徴的に描かれた野菜人間を見つめてしまいました。
14「One Step」
当たり前の毎日を大切に、という地に足のついた前向きソング。気づけばアルバムも終盤に差しかかり、いわゆるデジタルっぽさがどんどんなくなってきました。アルバム自体のテーマも「デジタルとヒューマンの融合」だそう(と、この原稿をかいている途中で知りました)なので、おそらくこのあたりはヒューマン部分なんだろうと思われます。この曲の聴きどころは櫻井くんの口笛。そんなに上手いわけでもないところがいい味になっています。
15「Hey Yeah!」
櫻井くんのソロ曲。こちらも前向きな人生賛歌。もちろんサクラップありです。そしてここでも使われる「宇宙」のフレーズ。櫻井くんの関心はもう地球ではなく宇宙規模なのですね……!そして、昨年あたりから歌が上手くなってきていると思います。進化し続ける櫻井くん、さすがです。
16「Hope in the darkness」
最近の嵐のアルバムにはなぜかサッカーワールドカップのテーマソングになりそうな曲が1つ入っているのですが、今回はこちらがその曲です。荒野に立って叫んでいるようなスケール感の曲ですが、各メンバーのソロパートも堪能できてアレンジも一筋縄ではいかない展開を見せ、聴き応えがありますね。これも嵐ファンではない方にもおすすめしたいです。特に二宮くんのソロパートは毅然としながら温かい声でグッときました。
17「Take Off!!!!!」
通常版のみに収録されたボーナストラック。嵐はかねてより自分たちの向かうべき場所や仲間について歌う自作曲を数年おきに発表していて、この曲もその流れをくんでいます。タイトルの5つのエクスクラメーションマークは嵐の5人を表していると思われます。
作詞は櫻井くん。かつては勝ち気な櫻井くんがその時々の敵に向かって牙を剥くような詞を書いていましたが、今や敵なし。そのため歌詞も以前のような攻撃性は身を潜め、止まらずに宇宙まで走るぜという宣言のようになっています。嵐全員がラップで歌いつないでいくスタイルが気持ちいいですね。
ヲタ目線での特記事項としては、曲中にある「My Fellow,ARASHIANS!」という呼びかけに注目です。今までファンの呼称について特に嵐側からの提案はなくファンが好きなように名乗っていたのですが、ここに来てビシッと呼びかけられてしまいました。もう今日から私達はアラシアンです! そしてこの記事の最初で触れたアルバムタイトル「デジタリアン」命名の解説に照らし合わせれば、アラシアンは「嵐人間、嵐主義者」ということになりそうです。響きのわりに意味が重いですね……。さらにケネディ大統領の就任演説「And so my fellow Americans…」をもじったのではないかという説もあり、その一節の「国と国民」を「嵐とファン」に置き換えて読むと……。櫻井くん、ここまで考えていたとしたらさすがとしか言いようがありません。
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以上、長々とレビューしてきましたが、デジタルサウンド(EDM)で大人っぽくアレンジしても嵐はやっぱり嵐らしく、前向きでかわいくてかっこよくてあったかくてちょっとダサい(だがそれがいい)んだということを確認できた1枚だったと思います。聴き惚れたり萌えたりツッコんだりと、とっかかりが多く色んな楽しみ方ができるのも嵐の懐の深さゆえ。今年も面白いアルバムをありがとうございました!
■青井サンマ
ヲタ歴7年のゆるくぬるい嵐ヲタ。独断解説「嵐の聴き方」はTwitterまとめサイト『Togetter』で100万viewを突破。ウェブメディア『cakes』で「嵐の聴きかた」を連載。著書に『嵐ヲタ絶好調超!!!!』(大和書房)。Twitter