市川哲史の「すべての音楽はリスナーのもの」第4回
開館50周年を迎えたロックの殿堂 ライブハウス“武道館”の歴史を振り返る
実は私、武道館のステージに立ったことがある。
ウィキで調べると1992年7月30日(苦笑)、YOSHIKIのトークライヴで1万人を相手に喋りまくったのだ。そもそもは私と彼の共著本『ART OF LIFE』発売記念の無料イベントのはずが、任せてたら有料だは@武道館だはhideやTOSHIなど他のメンバーも出演するはフルオケ呼んでピアノ協奏曲ヴァージョンながら当時未発表の長編曲「Art Of Life」を初披露するは、とおそろしく大仰な出し物と化していた。
セットも通常ライヴ並みの豪華さで、私はXのライヴ定番OP曲「World Anthem」が鳴り響く中、特効とともに登場したのだから。わははは。
いざステージに立って驚いたのは、目の前に絶壁のようにそびえ立つスタンド席の近さだった。手を伸ばせば届きそうな距離だ。それだけにアリーナに座る2000人の観客の顔も、一人ひとりよぉーく見えるのだ。1対1のコミュニケーションすら持てるから、愉しくなって客イジりに勤しんだものだ。
70年代に小中高生だった田舎のロック者にとって、武道館の風景とはパープル『ライヴ・イン・ジャパン』のあのジャケ写だ。ステージ後方からバンド越しに俯瞰で撮られた立錐の余地がない観客席の喧騒が、まさにロックの殿堂そのものだった。自分で体験して、「実は広くない」独特の一体感がその正体なのかと納得した次第だ。
やっぱり私は武道館がいちばん好きだ。
ちなみに最多公演外タレは、86本のエリック・クラプトン。
そのうち67本が<小洒落た音楽を唄う英国のおっさん>として広く認知された『アンプラグド』以降に偏ってるのだから、さすがの銭ゲバだ。93年公演の開演前、私の席の前列で「この人、実はギターも上手いのよ♡」「マジぃ?」と賑やかだった派手なOL姉さんたちを想い出すなぁ。
また、日本人の最多武道館アーティストは矢沢永吉で、堂々の132本。
携帯電話の普及半ばの90年代まで、一時没収した来場者のカセットレコーダーやカメラがずらっと並ぶ長机は、入場口の見慣れた景色だった。しかし矢沢の公演日の長机の脇には、白いビニールテープがぐるぐる巻きのマイクスタンドが何本も何本も林立していたのであった。おいおい。
ついでに書くと、長渕剛公演の際はアコギのハードケースを幾つも目撃した。持ち主たちはケースをエアギターにして、長渕と共演するつもりだったのだろうか。
■市川哲史(音楽評論家)
1961年岡山生まれ。大学在学中より現在まで「ロッキング・オン」「ロッキング・オンJAPAN」「音楽と人」「オリコンスタイル」「日経エンタテインメント」などの雑誌を主戦場に文筆活動を展開。最新刊は『誰も教えてくれなかった本当のポップ・ミュージック論』(シンコーミュージック刊)
■イベント情報
『甲南女子大学 第5回メディア祭 特別企画トークショー』
須藤泰司(東映プロデューサー)×市川哲史(音楽評論家)
ドラマ『相棒』や映画『探偵はBARにいる』の生みの親を迎え、<大ヒット映画やドラマの作り方>や<映画と音楽の幸福な関係>、<ポップカルチャーと妄想のススメ>について語り合う。
日時:10月25日土曜日 14~15時30分 入場無料
場所:甲南女子大学 神戸市東灘区森北町6-2-23 @330教室
詳しくは下記HPを参照ください。
http://www.konan-wu.ac.jp/event/detail.php?id=2863