東北で精力的に活動する両者が意気投合
MONKEY MAJIK×渡辺俊美 対談「震災後は『何のために歌うか』を考えるようになった」
仙台を拠点に活動するMONKEY MAJIKが来年のデビュー15周年に向けて、9月10日にシングル『You Are Not Alone』をリリースした。同作は岩手・宮城・福島で行われている『NHK・民放連共同ラジオキャンペーン』のキャンペーンソングに起用されており、メッセージ性のある楽曲としてすでに東北のファンには馴染みのある1曲だ。リアルサウンドでは同作の発売を記念して、福島県出身のミュージシャンで、地元でも積極的に活動を行っている渡辺俊美(TOKYO No.1 SOUL SET)との対談を実施。東日本大震災以降の音楽についての議論や、渡辺のベストセラー書『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』にまつわる話、さらにはバンドがキャリアを積んでいく上で起こることなどを大いに語り合ってもらった。
「僕らが一番恐れているのは、震災に対しての意識の低下です」(tax)
――渡辺俊美さんは福島県出身、MONKEY MAJIKは宮城県の仙台を拠点にしていて、2011年の東日本大震災以降、大きな経験を共有しています。それぞれ東北で精力的に活動されていますが、どんな思いで取り組んでいるのか、聞かせてください。
渡辺: 僕は毎月、福島に行っていますが、両親はまだ避難しています。そこで感じるのは、福島出身のアーティストより、県外のアーティストが「がんばろう」と訴えたほうが、ずっと盛り上がるということ。だから、県外のアーティストのライブをセッティングしたり、地元のアーティストと交流を持ってもらったりしています。
そして、僕らはもう文句を言う時期は過ぎたと思っているから、次の段階に進むことをしっかり考えようと思っています。今後に向けて、どうすれば役に立てるか――避難している人、被災地に残っている人の両方を傷つけないように活動していきたいですね。被災地の今後については多くの意見があり、それをひとつにまとめるのは本当に大変なことで、また時間がかかるものだと思うので、寄り添って見守っていけたらいいなと。
――MONKEY MAJIKも「MONKEY MAJIK MARKET」(以下、MMM)という、東北で作られたものを適正な価格で販売する、という試みを続けています。
tax: 震災直後は、友人たちがすごく大変な思いをしているのを見て、「音楽をやっている場合ではない」と思っていました。それで、各自がそれぞれの方向で動いて、MONKEY MAJIKとして何ができるかと考えたときに、親御さんを亡くされた小さな子たちなどに対して、お金を集めて具体的な支援をしなければという話になったんです。電力事情もあったので、できるだけ南のほうでライブをして、スタッフも含めて無償で動いて、集まったお金を全額、遺児支援をしているあしなが育英会や県庁に寄付するという、仙台プロジェクトを始めました。これは、いまも継続して行っています。
僕らが一番恐れているのは、震災に対しての意識の低下です。押しつけてもいけない問題だし、それでもまだ生活もままならない人たちがどうしたら復興に行き着くことができるかを考えたときに、出てきたアイデアがMMMでした。僕らができることは、もともとこの土地で素晴らしいものを作ってきた方々をサポートしていくことです。そうして、インディーズ時代からお世話になっているAZOTHさんとTシャツを作り、石巻のMOBBY DICKさんというウェットスーツのメーカーとスマホケースを作り、仙台の露香さんとお香を作りました。最近は、東北の伝統的な無添加・無香料の「坊っちゃん石鹸」に「塩竈の藻塩」を入れたオリジナルの藻塩入石鹸も作りましたね。こういう素晴らしい商品を知ってもらって、そのなかに少しメッセージを込めて、東北に目を向けてもらえるきっかけになったらと、微力ながらやらせてもらっています。
Blaise: 僕は初めて日本に来たとき、素晴らしすぎてユートピアだと思ったんです。それくらい、日本のスピリットに惹かれたし、フランシスコ・ザビエルが日本に来て、「我が国より素晴らしい文化をみつけた」と日本を紹介したのがよく分かりました。震災で大変なことが起こったけれど、そこからもう一度作り直しましょう、という考え方が本当にすごい。それを自分の目で見られたのは大きいですね。カナダ人でも、日本人でもなく、いち地球人として、美しい心と笑顔があれば、絶対におもしろいことができるはずだとずっと信じています。
渡辺: 「被災地」とくくってしまうけれど、そこは日本だし、もっと言えば地球じゃないかと。そういうことを知らせるために音楽があると思う。震災後は、「何のために歌うか」を考えるようになりました。少なくとも「すきだから歌う」という感覚ではなくなりましたね。同じように、食事をするにも「何のために食べるのか」と考えるし、何をしても「何のために」ということを意識しながら生きているなと感じます。
――食という話が出ましたが、渡辺さんは『461個の弁当は、親父と息子の男の約束』という本も出していますね。息子さんとの「高校3年間、毎日お弁当をつくる」という約束を果たしながら、絆を深めていくというエッセイです。
渡辺: 子どもが小さなころから食育が大事だなと思っていて。何を食べてもいいとは思えないし、お金を渡して「好き勝手に食え」なんて言えない。放射能の問題もあるけれど、東北の野菜がダメというわけではないし、自分の目で見て、いい食材を選ばなければいけないと思うんです。息子には「食べることが生きることだ」ということを伝えていきたい。家族って、言葉でうまく伝えられないときがありますよね。同じことを言うにしても、親の言葉より、友人の言葉のほうが響いたりして(笑)。その分、家族だからこそ言葉ではない伝え方ができることもあって、そこで食事がいちばんいいのかなと。「うまいなぁ」というときに、伝わるものって大きいでしょう。
tax: 僕も読ませてもらって、すごくうらやましく思いました。僕にも息子2人と、娘1人がいるんですけど、こういう仕事をしているとなかなか会えなかったりして。ツアーに出たり、東京で仕事をしたりして、久しぶりに家に帰って寝ている姿を見ると、知らない間に大きくなっているんですよね。たまに言葉をかわして、「なんかちょっと生意気になったな」と感じたり。俊美さんの本を読ませていただいて、親子の距離とか、子どもの成長とともに心が離れていってしまう怖さも感じました。だから寄り添っていろんなことを聞いても、素っ気ない返事ばっかりになっていく。本を読んでいて、次のページに進みたいんだけれど、心が痛くて(笑)。自分は奥さんに任せっきりな部分があるので、本当に素晴らしい親子関係だなと思いました。あんなに素晴らしい息子さんで、本当にうらやましいなと思います。
渡辺: バカですけどね(笑)。でも、奥さんと仲良くしているということを子どもは見ているでしょう? 僕は離婚したばっかりだしずっと離れていたから、それは素晴らしいと思う。もちろん震災も大きなきっかけでしたが、自分の大切な人を大切にしない限り、福島だ、東北だ、国だと言っていられないから、僕は「こいつだけは絶対に見守っていこう」と思ったんです。
tax: それは本当に伝わってきました。
渡辺: だから、奥さんをきちんと守ればいいんですよ。奥さんとイチャイチャしていれば、子どもにもちゃんと伝わるものがある(笑)。
tax: でも同じアーティストとして、週末にライブに行って、ツアー先で息子さんのために食材を買って帰ってきて、お弁当に詰めたら喜ぶかな…なんて考えるのは、本当にすごいと思う。自分が同じ立場だったらそこまでできる自信がないです。俊美さんは地に足がついているな、自分はダメだな、って思います(笑)。長い年月をかけて愛すべき人を愛して、ともに暮らして、同じものを食べて「おいしい」と言う時間を大事することが、すごく必要なことなんだなと感じました。
渡辺: いや、僕も40過ぎてやっと地に足がついたというか。息子にも言うのですが、30くらいまではみんなはしゃぐから大丈夫だと。でも、40をすぎるとちょっとうつになるから、「ここまででよかったのかな」と思う。30代までは憧れる人みたいになりたいと思って、40過ぎたら「こうはなりたくない」というものをどんどんそぎ落としていく。それが見えてくるから、それまで自分で選択してやりな、と言っています。僕の生き方をプレゼンすることしかできないんです。最近、フリースタイルなんかをやりはじめていて、かわいいんですよ。最初にお題出して、例えば「坊っちゃん」とか言うんですけど、最後は全部「おっぱい」になっちゃうんです(笑)。全部オチがおっぱい。そういう興味が音楽になってきて、面白いですね。
Blaise: 僕も家族の大切さはずっと感じていますね。うちは6人兄弟だったんですけど、両親が夜も仕事に行っていたから、自分たちで料理もしていたんです。メイナードは次男で、僕は下から2番め。一番上のお兄さんは80年代の音楽、グラム・ロックなんかを聴いていて、メイナードは…という感じで、いろんなことを見て育ってきたから、多分家族のいいところが僕にサンプリングされている(笑)。一番下の妹なんで、下から全部見ているから、めちゃくちゃ頭がいいんですよ。みんなリスペクトしあっているから、すごく愛が強いし、喧嘩をしてもすぐに許しあえる。家族こそ本当の学校で、エデュケーションの場でした。自分の大きな家族を作りたいな、と思います。