『週刊金曜日〜アイドルを守れ〜』対談レポート(前編)

アイドル論者が語る“握手会と現場”の最前線「人の心は金で買えないけど、ヲタの心は“握り”で買える」

左から、倉本さおり氏、中森明夫氏、姫乃たま氏、濱野智史氏、宗像明将氏。

アイドルとヲタの共依存関係について

宗像:濱野さんが今度結成するグループは何を目指すの?

濱野:武道館とかも目指しますけど、まずは人数でAKB48を越えることですね。地下のアイドルって、どんな子にもヲタが付くんですよ。だから100人とか越えれば、武道館を埋められると思うんです。

姫乃:たしかにどんな子にも付く! 私の場合は40代バツイチで固い職の人が多くて、イベントで100人くらい来たんですけど、そのうちの8割が40代サラリーマンで2割くらいがバツイチ。後ろから見ると企業のセミナーみたいな雰囲気なんですよ。その人たちには「愛人みたいで何でも許してくれそう」って言われます。恐らくみんな、第二の人生として私のところに来ているんですね。

濱野:どんなものでも欲望を投影できてしまうのが今のアイドルなんだと思うんです。で、面白いのが「誰でもアイドルになれる時代」といえば、すべての女の子に人権があるように感じられるけれど、アイドルという存在は独立主体ではありえないから、ヲタと同じように実は“人間”ではないんです。つまりアイドルとヲタは「共依存」の関係。それは否めない。共依存の関係なんだけど、そこからどう独立していくか。それがPIPの目指すプロジェクトですね。(参考:濱野智史プロデュース「PIP」が目指すものは? インディペンデント・アイドルの可能性を探る

中森:恐ろしい……。

濱野:だから僕は、アイドルになりたい人全員がアイドルになれるプラットフォームを作りたいとは思っているけれど、アイドルを勘違いしている子——かわいがってほしいだけの“承認欲求ゾンビ”みたいな子には厳しくしています。

中森:でもアイドルになりたい子って、多かれ少なかれ承認欲求ゾンビみたいなものだよ。指原莉乃だってさ、かつては有名なハロヲタだったわけですよ。それも洋服にメンバーの写真いっぱい貼ってるような、かなりヤバいほうのヲタだった。それで虐められた体験も告白してる。彼女、選挙で負けたりするとすごく凹んだコメントをモバメで出したり。あっちゃんや優子にはなかった姿勢だよね。指原があそこまで行ったのは、承認欲求ゾンビ的な感覚があったからじゃないかな。

濱野:才能がある承認欲求ゾンビは良いんですよ。指原には、アイドルを見る目がある。それは確かです。でも才能がない承認欲求ゾンビはだめです。それでは独立した主体になれない。

姫乃:わたし、高校のときに六本木でメイド喫茶の店長やっていたんですよ。場所柄か、時給も高くて1200円だったんですね。そうするとたくさんの女の子が面接に来る。で、ルックスが良い子は鼻息荒くて「わたし可愛いから、メイド服来たらもっと可愛いから雇ってください」とか、平気で言うんですよ。でも、そういう子は周りの子とうまくやっていけないから雇いませんでした。

濱野:承認欲求はたしかにエンジンになるし、承認を得られる場を作りたいんですけど、周りのことを考えられない子はダメですよ。僕のグループでは、歌唱審査の時にメンバー全員を残して、おたがいに評価をさせたんですが、その時に「こんなことやってらんねぇ」みたいな顔している子は全員落としました。ちょっと可愛くない子の歌を聞いていられないようでは、アイドルにもプロデューサーにもなれませんから。

厄介ヲタと説教厨

倉本:いい機会なので厄介ヲタや説教厨についても話しておきたいですね。

濱野:宗像さんは説教厨の代表ですよね。

宗像:BiSは『週刊金曜日』のインタビューで一部のヲタをディスっていますが、その中に僕も含まれていると思う。僕、メンバーに対してすごい説教してきたんで。インタビューの後半で「ヲタに好き勝手にやられたイベントがあった」って言ってるんですけど、あれは多分ロフトプラスワンで争乱みたいになった時のことかと。なんか、脱退したメンバーを呼ぶとかいう話になって。みんながいっせいに怒りだして「6人でやれ!」って。そしたらヲタが「おまえらは『nerve』ばかり歌いやがって!」って。それに対してサキちゃんが「うるせぇ、黙れ!」って叫んで、そのまま代表曲の「nerve」歌い始めて(笑)。

中森:昔のパンクみたいだね、町田町蔵の時みたいな。でも解散したらやっぱり寂しいんじゃないの?

宗像:こう言うと語弊があるかもしれないけど、嬉しいですよ。BiSはガチで不仲騒動とかやっちゃったから、心が何度も潰されそうになっているんですね。それがやっと解放されて自由になれるんだから、喜ばしいことかと。

中森:過激派左翼の末期みたいな(笑)。ぜひ宗像さんにBiSの歴史を書いてほしいね。とことん行けるところまで行ったアイドルがいるわけだからさ。

倉本:そういえば、たまちゃんのブログには6年間、たった一人しかファンがいなかった地下アイドルの話が書いてありましたね。

姫乃:ありましたね。新しくファンができそうな現場でも、そのファンが物販の品物とか全部買い占めちゃう。オフィシャルのミックスとかもあるんですけど、その人が新規のファンが入って来れないように、オリジナルのかけ声作っちゃって……。

濱野:めんどくせー!(笑)

倉本:アイドルとファンの関係性って、まさにこじれると厄介ですね……。では最後に、たまちゃんから厄介ヲタに一言。

姫乃:愛に溢れすぎた行動は、時にアイドルを困らせることもありますので、お互い適度な距離を保っていきましょう。

倉本:……みなさん、反省しましょうね!

後編【5人の論客が語る、アイドルの現状と未来「これはもう完全に単なるブームを越えている」】に続く

(取材・文=松田広宣)

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