「宗像明将の現場批評〜Particular Sight Seeing」第1回 武藤彩未「DEBUT LIVE『BIRTH』」
武藤彩未はアイドルシーンの見取り図を変える? 18歳バースデイライヴで見せた「大器」の片鱗
本編最後のMCで武藤彩未は「他のイベントに出ても、ここがあるから頑張れる、ここに戻って来たいから頑張れます、私、もっと大きくなって帰ってくるからね!」と語った。そう、彼女はまだまだ「大きく」なる気なのだ。きっと、そうなるに違いない。
本編ラストの楽曲は、アルバムのタイトル曲「永遠と瞬間」。自転車の運転を身体で表現する振り付けが意外と激しいこと、それでも歌は安定していることに軽く驚いた。
ファンの大きな「彩未」コールからアンコールへ。そのタイミングで、サプライズとしてバースデーケーキを馬のかぶりもののスーツ男が運んできた。「世界で一番幸せ者です!」と武藤彩未。そして歌われた「彩りの夏」は、彼女の楽曲の中でももっともキーボードの音色の80年代オマージュが顕著なサウンドだ。2014年のリリース作品なのに、もはやエヴァーグリーンな香りさえ漂わせている。最後に歌われた新曲「明日の風」は、今日のために作ったというバラード。未来へ向かう歌詞が、武藤彩未が短期的なプロジェクトではないことをナチュラルかつ鮮烈に印象づけた。
武藤彩未のライヴは奇をてらったところはないのに、現在のアイドルシーンの中で非常に特異だ。武藤彩未があっというまに着替えた衣装は3着。ライヴ中は、2階席の筆者の前でカメラのクレーンが動き続けていた。セットやVJも含めて、武藤彩未に対して大量の資本がアミューズから投入されているのは誰の目にも明らかだ。しかし感心すべきなのは、それがゴリ押しに見えない上品さを生み出している点なのだ。CDやステージのゴージャスさも、すべてが武藤彩未の魅力を浮き上がらることに集約されている。どんな演出が施されていても、私たちが最終的に意識することになるのは武藤彩未の歌声と存在なのだ。そのようにすべてが丁寧に運営されている。
そして、「武藤彩未的なるもの」が実はそうそう存在しないことも痛感したライヴであった。80年代の芸能界が生み出したエンターテインメントが持っていたファンタジー。それを受け止め、体現できる実力と個性を持つ大器が武藤彩未なのだ。武藤彩未がすでに熱狂的なファンを獲得し、注目を浴びているのはそのためだろう。
武藤彩未はライヴの最後にこう言った。「また4月29日にやりたいです、来年も絶対空けといてくださいね!」。彼女は今後も歌っていきたいと語っていたし、「武藤彩未」は短期的なプロジェクトではなく、今後も継続していくだろう。より大きな規模で。
そうした意味で「DEBUT LIVE『BIRTH』」は、オリジナル曲を歌うようになった武藤彩未という歌手のまさにオープニングのようなステージだった。「永遠」へとつながるかと思わせるような「瞬間」の連続だったのだ。それは盛大にして華やかで、なにより非常に力強いものだった。
■宗像明将
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1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。
■イベント情報
610の日 Special LIVE「A.Y.M Ballads」
(読み:ムトウノヒ スペシャルライブ エーワイエム バラッズ)
日時:2014年6月10日(火) OPEN19:00/START19:30
会場:Shibuya duo MUSIC EXCHANGE
チケット一般発売:5/24(土)12:00~
■リリース情報
『永遠と瞬間』
発売:4月23日
価格:永遠盤【CD】 ¥1,800(税別)
セブンティーン盤 【CD+DVD】 ※初回限定盤 ¥3,680(税別)
瞬間盤【CD+カード17枚】¥2,500(税別)
※タワーレコード/HMV限定商品(数量限定)
M1. 「宙」
M2. 「時間というWonderland」
M3. 「彩りの夏」
M4. 「桜 ロマンス」
M5. 「とうめいしょうじょ」
M6. 「A.Y.M.」
M7. 「女神のサジェスチョン」
M8. 「永遠と瞬間」