柴那典×さやわか 『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』刊行記念対談(後編)

「初音ミクを介してローティーンにBUMPの歌が届いた」柴那典+さやわかが語るボカロシーンの現在

「1つの学年に2、3人興味を持った子がいると『ボカロ部』が成立しうる」(柴)

さやわか:そういう意味では、BUMPが初音ミクとコラボしようと思ったこと自体に、まさに彼らの中二病的な揺るぎなさが表れていると思いますね。

柴:20代前半の人は覚えていると思うけど、2000年代にFLASH動画が流行ったとき、BUMPの曲を題材にしたFLASH動画がすごいブームになった時期があったんです。実はニコニコ動画以前のネット文化とBUMPはその時点から親和性があったと思うんですよね。なぜ親和性があったかというと、たとえばミスチルやB’zのような人気ロックバンドと比べると、BUMPは綾波レイをイメージのモチーフにした曲もあるし、『ファイナルファンタジー零式』の主題歌もやっているし、圧倒的にアニメ的、ゲーム的なリアリティに通じるものを持っているんです。BUMPの出発点にはそういうところがあるし、今も昔も変わらず「宇宙」のことを歌っている。だから、このコラボに関しては、むしろ僕としては初音ミクを介して今のローティーンの女の子にBUMPの歌が届いたことが重要だと思っていて。ロックバンドはファンと一緒に歳を重ねるのが常だけれど、今回のコラボで今の13~14歳が「あの初音ミクとコラボした大物バンド」としてBUMPを認識したとしたら、その楽曲の魅力は間違いなく刺さると思う。ファン層がぐっと若返る可能性がある。

さやわか:いい話ですね。うーん、僕もそうやって10代の子と時を越えて繋がって、そして色紙にサインを求められるようになりたいです。あるいはBUMPになれば良かった(笑)。それは冗談としても、初音ミクがそこでハブ、つまり結束点として働いているということにはなるんでしょうね。しかし、メンタリティによってつながることができるという話になると、そこで僕が気になるのは、ではあの初音ミクという「キャラクター」については、中学生たちがどこまで愛しているかということなんですが。

柴:ヤマハの剣持さんに聞いた話ですけれど、今、中学生で1つの学年に2、3人くらいの割合で、ボカロで曲を作ったことがある子がいるそうです。ヤマハは音楽教育に力を入れてきた会社だし、これは願ったり叶ったりのことだと思うんです。つまり、1つの学年に2、3人曲を作ったことがある子がいると、学校全体で「ボカロ部」というものが成立しうるわけです。作曲活動だけではなく、小説を書くとかイラストを描くとかも含めて「ボカロ部」がありうる。

さやわか:おぉー、なんかラノベっぽくなってきましたね。俺も「ボカロ部」入りたい! 顧問の先生とかでもいい! そして校内で次々に起こる難事件を解決したい!

柴:ヤマハとしては音楽教育をやっていきたいし、音楽やクリエイティブな教育の一環にボカロを位置づけることについては、伊藤社長もいろいろと考えているようです。ボーカロイドのファン層が低年齢化したというのは、この先、文化としてより定着していくということにつながると思います。

さやわか:壮大な計画じゃないですか。ヤマハがかつてエレクトーンをばんばん売ったのと同じスキームですね。子どもにエレキギター持たせるのと同じ。

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