音楽聴き放題サービスは作り手にとって有益か 世界のミュージシャンが議論続行中

 これまでリアルサウンドでも幾度となく取り上げてきた音楽聴き放題ストリーミングサービスのPandoraやSpotify。ミュージシャン間でも意見の別れるこれらの新型サービスについて、先日新たに興味深い記事が、海外カルチャーに強いブログ「KingInK」にて掲載された。原文は1980年代後期にアメリカで活躍したロックバンド「ギャラクシー500」のドラマーであり、現在はデーモン&ナオミで活躍するデーモン・クルコフスキーによるもの。そこでは、これまで明かされることのなかったミュージシャンの利益について、生々しい数字が具体的に明かされている。

 彼によると「2012年第1四半期分の印税の明細を見ると、ギャラクシー500の曲『タグボート』はこの時期にPandoraで7800回ほど再生され、これに対して3人のソングライターは合計で21セントの印税を受け取った。Spotifyでは5960回再生されて、3人のソングライター全員で1.05ドルという印税になった」という。一点補足しておくと、先日公開されたSpotify ARTISTでは「楽曲が100万回再生される毎にミュージシャンへは6000ドルから8000ドルのロイヤリティが還元される」と説明されている。双方の示す数字に乖離があるのはなぜか。詳細は不明だが、恐らく「より多く再生された楽曲ほどロイヤリティの還元率が高くなるよう設定されている」のではないかと筆者は推測する。10万回まではいくら、100万回以上はいくらといった形で還元率が設定されているため、再生回数の低い楽曲にはSpotifyが公開している額面よりも割合として小さい金額が支払われているのではないだろうか。

 デーモン・クルコフスキーは音楽聴き放題ストリーミングサービスのビジネスモデルに対しても問題提起している。「僕がレコードを作り始めたとき、ビジネスのモデルはものすごく単純だった。何かを製作し、製作費よりも高い値付けをして、その値段で売ろうとする。それに対して現在のモデルは、金銭的投機に近いものになっているようだ」と。彼はPandoraやSpotifyが音楽を商品として売るのではなく、客寄せの材料として音楽を用いユーザーのアクセスや行動を販売している。人を場に集めることでお金を儲け、音楽はその手段にすぎないと分析する。ユーザーを集めることができれば株価は上がり、資本家はその利益を手にすることができる。そこでは音楽が重要なものではなく、あくまでも情報の1形態。株式を購入させるボタンやリンクをクリックさせるための誘因でしかないのだと。テクノロジーが進化しビジネスモデルが複雑化するなか、音楽というものの価値が見失われつつあることを彼は嘆いているのだ。

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