“宇田川町の最後の砦” B.D.『BALANCE』インタビュー
「ラッパーは言葉に責任を持たなくちゃいけない」 B.D.が語る、メジャーリリースへの覚悟
B.D.の3作目となるソロ・アルバム『BALANCE』がリリースされた昨年12月中旬。初作『THE GENESIS』(08年)、前作『ILLSON』(12年)はインディペンデントからのリリースであったが、今作はユニバーサル・ミュージックと契約を交わした上でのメジャー配給となる。発売からおよそ2カ月、先頃公開となった盟友MACKA-CHINをフィーチャーした「MOOCHA」のミュージック・ビデオ然り、日本語ラップ・シーンの中核を担うアーティストへと成長した彼の話題は、尽きることがない。
日本語ラップを形成する要素において外すことのできない“渋谷宇田川町”――そのマインドを継承する“最後の砦”が語ったラップへの深き思いとは。
――メジャーに籍を移したことで変化した点はありますか?
B.D.:まず、自分の描く世界観を形にしやすく、意見交換に関してもスタッフが理解を示してくれた部分はアルバムを制作する上ですごく良い環境でした。これまで妥協してきたわけじゃないけど、インディーの場合はどうしてもうまく事が運ばないときもあったりして、今回はミックスやマスタリングにおいても納得のいく出来になりました。唯一大変だったのは、限られた制作時間との戦いですね。メジャーからのリリースということもあって、よりヒップホップの裾野を広げる作業、触れられやすい環境をつくることが大事だったので。
――『BALANCE』というタイトルは、前作を作り終えた時点で構想として浮かんでいた言葉ですか?
B.D.:いや、作り始めてから辿り着いた言葉です。他のタイトル案もいくつか候補としてあったんですが、それぞれ先輩ラッパーの人たちが使っていた言葉だったりして、そんなときふと降りてきた言葉が「BALANCE」だったんです。太陽があり、月があり、地球が存在する――日本語ラップ・シーンにおいてバランス(調和)の取れたアーティスト、そんな立ち位置でありたいという気持ちもあって、個人的にすごく重要な言葉だな、って思えるようになって。
――その“バランス”を保つために意識した点というのは?
B.D.:自分のサウンドの軸になっているのは、間違いなく90年代、サンプリング時代のヒップホップなんですけど、そういったこれまでもこれからも大事にしていく部分を残しつつ、新たな挑戦をすることがバランスを保つための作業でしたね。それが海外のプロデューサー(B-MONEY)にトラックを依頼することであったり、これまでの“B.D.”というアーティストからは予測できないことに挑んでみたり。自分自身、そういうマインドが強かったけど、周囲にいるトラック・メイカーやラッパー、PVを撮ってくれた監督の後押しも影響したと思います。
――前作と比較すると、非常に洗練されたイメージを受けたんですが、「家庭を持つ父親として誇れる部分」と「他に劣らぬラッパーとして誇れる部分」を保つバランス、というのは、得てして非常に難しいことではありませんでしたか?
B.D.:子を持つ父親としての威厳とラッパーとしての威厳の両立、というのはすごく難しい。ラッパーとしての威厳を保とうとすると、扱うトピックひとつでリスクが生じるのは当然だけど、ただ、バランスを保つための“よりよいえぐり方”というのは確実に存在する。父親としてもラッパーとしても、そこに共通しているのは“責任”なんですよね。真正面からぶつかるというか、何を言われてもしっかりと説明できる覚悟ができた。堅苦しく思われてしまうかもしれないけど、そういった意味で今作は真剣モードでしたね。前作は直感、遊び感覚を優先していたけど、今回はよりソロとしての旨味、自分の世界観を明確にしたかった、という気持ちは無意識で強かったと思います。