>  > 吉田尚記『没頭力』インタビュー:前編

『没頭力』刊行記念インタビュー

吉田尚記、“明るい未来”を語る(前編)「現実とフィクションの境界線、つまり仮説が好きなんです」

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 ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記氏が、2月に『没頭力 「なんかつまらない」を解決する技術』(太田出版)を上梓した。アニメやゲームに造詣が深く、テクノロジーの進化についても常にポジティブに捉える氏が、人生におけるラスボス=「なんとなくつまらない」や「うっすらとした不安」に立ち向かう方法をまとめた一冊だ。ニコニコ生放送でのトークを原稿化するという執筆スタイルから、エンターテイメントの未来、現在関心を寄せるテーマまで。聞き手に吉田氏と親交のある音楽ジャーナリスト・柴那典氏を迎えたインタビューを、前後編でお届けする。(編集部)
【最終ページに、吉田尚記氏サイン入り『没頭力 「なんかつまらない」を解決する技術』のプレゼント情報あり】

「未来は暗い」と言われるのはなぜなのか?

柴:今回は新刊『没頭力』の話から、次の時代のエンターテイメント、次の時代の幸せや充足感のようなものを得られるヒントのようなところまで話を広げられたらと思っています。まず、『没頭力』のあとがきを読んで驚いたんですが、かなり前から手掛けていたプロジェクトだったんですね。

没頭力 「なんかつまらない」を解決する技術

吉田: 4年ぐらい前ですからね。前からずっと「未来は暗い」と言われるのはなぜなんだろうって思っているんです。むしろ未来は明るいと思っていて。たとえば、今は成人男性が寿命を全うする確率が歴史上一番高い時代だと言われている。「そりゃあそうだろうな」と思ったわけですよ。テクノロジーが進んでいくことを危険視する人は多いけれど、そんなことはないだろうと言いたい。なので、僕にとって「未来は明るい」は、常にテーマなんです。

柴:そういったテクノロジーに対しての信頼や、未来に対しての楽観的なポジティビティが吉田さんにはあるわけですよね。そういう問題意識が、どうやってこの『没頭力』の発想につながっていったんでしょうか。

吉田:浜田省吾さんの「MONEY」という曲がありますよね。<純白のメルセデス プール付きのマンション 最高の女とベットで ドン・ペリニヨン>って歌詞があって。浜田省吾さんがどうこうということではないんですけど、上の世代の人は成功というのをそういうイメージで捉えている。僕はそれで本当にいいのかって思うんですよね。成功して、お金を沢山得て、せっかくそこまで行った先に豊かさが全然ないよね、みたいに思っちゃう。

柴:豊かさの定義が更新されてないんじゃないか、という問題意識ですね。

吉田:上の世代で、不動産や投資でひと儲けしました、みたいな人がいるじゃないですか。そういう人がペニンシュラホテルでガウンを着て「インドネシアのリートがさ……」みたいな電話をしているみたいな光景を見て、なんだか貧しいなと思ってしまうんです。もっとおもしろいことがあるだろうって思っちゃう。そこから「でも、おもしろさって何だろう?」って考えるようになって。自分にとってはおもしろいことは沢山あるんです。そして、自分はオタクであることを思春期の段階から自然に選び取ってる世代でもある。そういう自分にとっては、正直「ベッドでドンペリ」と「声優さんのライブの最前列」がどっちがいいだろう? って考えたら後者なんですね。そういうことを一本化して考えたいと思っていたんです。

柴:どれくらい前から考えていたんでしょうか。

吉田:大学生の頃からですね。今回、この本をうちのチーフディレクターが読んでくれて、「吉田さん、卒論と同じこと書いてますね」って言われたんです。考えてみたら、僕、卒論のタイトルが、『パックツアー人生有効活用マニュアル』っていうタイトルなんですよ。その時に、もう僕らの生活の快適さ、アメニティは飽和していてこれ以上は上がらないと考えていたんです。となると、次に問題になるのは楽しく生きる方法なのに、そのことについては本当に誰も何も言ってないぞって、当時からずっと思っていた。「楽しい」ってなんだろうって、ずっと考え続けた中で行き当たったのが「フロー」(没頭)という概念だったんです。「これだ!」と思ったという感じですね。

柴:つまり、本を書くという段階のはるか以前に問題意識があったんですね。おもしろいとは、楽しいというのは、そもそも何だろうという。どれだけお金を得ても豊かさを得られない、というのはどういうことだろう、と。

吉田:大学生の時、普通に勉強して、そこそこ頑張ったら、4年の時に本当に何もやることがなくなって。そこで鬱になったわけです。この状況って、苦労していないことのコンプレックスだなと思ったんです。恵まれてるから文句言うな、みたいな空気があったし、自分でも文句を言う資格はないと思っていた。だから、たとえば『イントゥ・ザ・ワイルド』という映画みたいに、わざわざ苦労するタイプの物語にも非常に興味があって。これはジョン・クラカワーというドキュメンタリー作家の『荒野へ』っていう小説がベースになってるんですけど、大学を出たエリートが、家柄とか身分証とかを全部捨てて流浪の旅に出る話なんです。ただ、この映画は悲劇的な結末を迎えるんですが、そういう風に今の物質文明とか全部捨てるのも無理だし、この先をちゃんと考えなきゃいけない気がしていた。あと、見田宗介先生の『現代社会の理論』(岩波新書)も、人生で一番影響受けた本の1つですが、この本も、その先が行き詰ってる事に気がついていたと思います。その頃は「これからは心の時代」とイージーに言われていたけれど、なんだか嘘くさいとずっと思っていて。そういうのが問題意識のベースにあったんです。

『ニコ生』に集まった人たちみんなが共著者

柴:フローについては、石川善樹さんと共著で出された『どうすれば幸せになれるか科学的に考えてみた』(KADOKAWA)という本でも追求されていますよね。ああいう風に、とてもロジカルに幸せや健康について考えている人と出会ったのは、すごく大きな刺激になったんじゃないかと思うんです。そのあたりはどうでしょうか。

吉田:それは間違いないですね。石川さんは最初に宇野常寛さんに紹介されたんですよ。で、最初に会った時に話が終わらなくて。その時、『ダ・ヴィンチ』さんから「連載をやらないか」って言われて、科学者に話を聞く連載がやりたいですと話をしていたんです。それで、最初に石川さんに来てもらったら、おもしろすぎて。いきなり連載を飛び越えて、単行本になったんですね。その時に、石川さんに「健康ってなんですか?」って聞いたら、「朝、ワクワクして目が覚めて、夜、満ち足りて眠るっていうのが健康の定義だ」って仰っていて。「これはすごい!」と思ったんです。「心の時代」とかより、全然こっちの方が正しいと思って。そこから石川さんにフローについて「そもそもどういうことなんですか?」とか「何を読んだらいいんですか」っていうことを聞いて。そこから倉本美津留さんや斎藤環さん、原井宏明さん、桜井政博さんや、いろんな人に話を聞きにいって。それがこの本になっているんですね。

柴:吉田さんの本は基本的に、『ニコ生』で喋り、そのコメントに当意即妙に答えていったやり取りをもとに原稿化していますね。こういうスタイルで本を作っている人は他にいないと思うんですけれども、これはどういう場なんでしょうか。

吉田:これはもう、『ニコ生』に集まった人たちみんなが共著者って言っていいレベルだと思うんですよ。だいたい、「『なんかつまらない』を解決する技術」という看板を掲げてるので、それこそ「なんかつまらない」が気になる人が集まる場になっている。そうすると、それぞれにとって切実だし、自分が用意して考えていることを喋っていくけれど、わかりづらいこともその場でどんどん修正できるし、コメントから思いつくこともある。ビジョンがあって、そこに強度があれば、迷うことはないし、コメントをしてくれることでどんどん文章の精度も上がってくる。それに一人で書いてると、確実に、30~40分でくたびれちゃって「もう、だめだ」ってなるんですけれど、僕は喋るんだったら、2時間でも3時間でもやれる。一番いいやり方ですね。「この形、なんでみんなやらないんだろう」って思います。

柴:しかも、すごく面白いのは、本の内容と書き方がリンクしているところだと思うんです。そういう場で喋っていくというのは、まさに没頭=フロー状態にあると言える。テーマがフローであるのと、作り方がフロー状態であるのがリンクしているのがポイントである。

吉田:柴さんが原稿書いてる時も、そうじゃないですか? ちゃんと書けてる時って、フロー状態だと思うんです。ビジョンが見えていて、それを追い落とすように書いている時。その状態に近いです。ただ、テーマとの再帰性は偶然ですよ。どういうテーマであれ、こういう手法でやろうと僕は思うので。

柴:おそらく吉田さんのニコ生のコミュニティの視聴者が頭が良くてセンスのいい人が集まっているというのもあるのかもしれないですね。

吉田:それはすごく思います。ラジオを聴いている層って、本質的にめちゃくちゃ頭がいいと思っていて。イメージで言うと、会社の面接に来たら即採用みたいな人たちが集まっている感じがします。年齡は12歳くらいから40代くらいまでいるんですけど。社会性もあるし、頭も良いし、節度もある。的外れな人はほとんどいない。なぜだろう?って思うぐらい。もしかしたら、それも喋ることの力かなっていう気はします。感想を見ても、伝わる人には本当に伝わっている。そこは、すごく幸せなことです。ラッキーにして、そういう方法を見つけたっていう感じです。

      

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