欲張りこそ若さの特権! 『ミッドナイト・ランナー』は青春暴力アクションコメディの快作だ

加藤よしきの『ミッドナイト・ランナー』評

 『ミッドナイト・ランナー』(17年)は、青春暴力アクションコメディである。待て待て、そんな相反する要素が共存するのかと思うだろうが、これが不思議と成り立っているのだ。

 警察官を志す2人の青年、直情型のギジュン(パク・ソジュン)と理論派のヒヨル(カン・ハヌル)は、訓練学校でのとある事件をキッカケに深い友情で結ばれていた。ある日、2人は彼女ができないことを嘆いて、夜の街へナンパに繰り出す。しかし、坊主頭で洒落っ気ゼロの2人は、ナウなヤングが集うクラブでは全くモテず、むしろ警察志望というだけで「給料が安い」と敬遠される始末。ナンパはボロ負けに終わり、居酒屋反省会へ突撃。「ゲームセンターで遊んで帰ろう」と、涙で明日が見えない結論に達する。しかし、その道すがら若い女性の誘拐事件を目撃してしまう。2人の脳裏に警察学校の教えがよぎる。誘拐捜査の鍵は、拉致から7時間。それ以降は殺されてしまう可能性が高い――。

 本作がユニークなのは2人が警察志望の学生である点だ。2人は「警察」という進路に確固たる自信を持っておらず、能力/精神の両面において文字通りの半人前。それが事件の捜査を通じて、成長し、同時に警察という将来への決意を固めていく物語にもなっている。若者が自分の進む道を決めるまでを描くことで、まず第一に青春映画として成立させているのだ。

 本作は爽やかな青春映画である一方、暴力面で全く容赦がないバイオレンス映画でもある。最初こそ2人の捜査はトッポギ屋に聞き込みを行う程度だが、誘拐と極悪犯罪組織との関係が見えてくると、映画はシャレにならない方向へ急降下。執拗にローキックを撃ってくるラスボスまで登場し、犯罪組織が女性に行う鬼畜の所業はドン引きレベルだ。BGMも最初こそ爽やかポップ系なのだが、いつしか韓国暴力映画で聴き慣れたドンドコドンドコ系の不穏なものに。主人公たちが組織からリンチを受け、内臓を抜くために天井から吊るされたとき、「最初の青春キラキラ感はどこへ?」と度肝を抜かれざるをえない。『海猿』(04年)的な青春訓練モノから、ほんの一瞬で『チェイサー』(08年)、『哀しき獣』(10年)の世界へ。なんと鮮やかな転調だろう。

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