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“ゼロ年代ホラーの帝王”は、SNSの恐怖をどう描いた? 『ノック・ノック』の巧みな演出手腕

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 イーライ・ロス監督は、コテージで若者たちが謎のウィルスに感染してズルムケになる『キャビン・フィーバー』や、東欧の秘密拷問クラブの恐怖を描いた『ホステル』シリーズなどで知られる人物。容赦ないエグさ満点の残酷演出から、いつの間にやら“ゼロ年代ホラーの帝王”と呼ばれるようになった。そんなロス監督だが、昨年公開の『グリーン・インフェルノ』では食人族をモチーフにしながらも、社会正義を盾に争いを巻き起こす“ソーシャル・ジャスティス・ウォリアー“の問題を提起するなど、強いメッセージ性を巧みに作品に盛り込むようになった。そして、6月11日公開となる監督最新作『ノック・ノック』では残酷描写すら排除し、またも我々に様々な疑問を投げかける。

 

同作は1977年製作の『メイクアップ 狂気の3P』をモチーフとしているが、ストーリーは元ネタをほぼそのまま踏襲した事実上のリメイクである。キアヌ・リーブス演じる理想的な父親が、妻と子どもの留守中に2人の美女の訪問を受け、誘惑に負けてエライ目に遭う明快な物語である。ただし、ここ数年で映画でも扱われることが増えてきたSNSが大きな役割を果たしているのが元ネタと大きく異なるポイントだ。

旧作ホラーをアップデート

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 Twitter、Facebook、Instagram、Skypeなどがギミックとして使われる映画では、たいていの登場人物がSNSに接することで不幸になっていく。『ディス/コネクト』では孤独な少年がFacebookでいわゆる“ネカマ”に騙され、恥ずかしい写真をネット上にばらまかれて自殺未遂に追い込まれてしまう。そのほかの登場人物も、チャットで個人情報を抜き取られたりと、SNSをきっかけに運命を狂わされていく者ばかりだった。また、低予算コメディ『Facebookで大逆転』はSNSで「いいね!」をもらうことにすべてをかけ、自らの葬儀を偽装してしまう男を描いた佳作。こちらはSNSで承認欲求を満たすことの虚しさを面白おかしく描いている。とにもかくにも、SNS映画では、安易な情報拡散の危険性や依存性などコミュニケーションツールとしての問題点がテーマになってきた。

 『ノック・ノック』でもFacebookをはじめとするSNSが重要な役割を果たすが、キアヌ演じる主人公・エヴァンは40代も後半にさしかかった比較的SNSに無頓着な人間である。一方で、彼を誘惑する2人の美女はSNSを知りつくし、その知識と経験(とおっぱいとお尻)を総動員してエヴァンを追い込んでいく。つまり、『ノック・ノック』では、SNSを武器として使う若者と、おっさん世代の戦いが描かれるのである。「おっさんに勝ち目はないだろう」と思う方も多いかもしれないが、実はそうでもないのが同作のみどころ。エヴァンの世代はSNSに無頓着でも、タブレットやiPhoneなどのガジェット類を使いこなすことができるのである。30年前のおっさんならば「雨で帰れないわ」「電話が通じないの」と甘える美女の誘惑に即落ちだったろうが、現在ならば「アプリでタクシーを呼ぶよ」と対抗できる。SNS(とおっぱいとお尻)を武器に戦う美女たちと、ガジェットを使いこなすおっさんのスリリングな駆け引きで旧作をアップデートしたロス監督の見事な手腕には驚かされた。

真のテーマはSNSの恐怖にあらず


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 同作で最も気になるのは、美女2人がなぜエヴァンを追い込むのか? という点である。映画の中盤まで、エヴァンは妻と子どもを溺愛し、美女たちの誘惑と戦う理想的な父親像を体現した愛すべきキャラクターとして、一方の美女たちは面白半分に男をいたぶるビッチとして描かれている。しかし、物語が進みにつれ、エヴァンが乳首に一本毛の生えただらしない裸体や阿鼻叫喚の醜態をさらにつれ、徐々に美女たちに感情移入しやすくなるはずだ。そして、終盤にはやはりSNSによって、すべての価値観をひっくり返す驚くべき展開がもたらされるのである。その瞬間、冒頭に登場したエヴァンと家族の微笑ましい肖像画や、『劇的ビフォアアフター』のように洒落た(機能的ではない)邸宅、妻の職業まで、すべてが皮肉に満ちた伏線だったことがわかるのである。

      

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