ORESAMAの“ディスコ”はどこまで拡張する? 『ムヒョロジ』EDテーマ制作秘話に迫る

ORESAMAの“ディスコ”はどこまで拡張する?

 ORESAMAが8月22日、シングル『ホトハシル』をリリースした。同作の表題曲は、TVアニメ『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』のエンディングテーマに起用されており、彼らのベースであるディスコと、TRAPやロックがミックスされたような楽曲に仕上がっている。

 ここまでのキャリアを総括する内容だったメジャー1stアルバム『Hi-Fi POPS』を経て、第二章に突入したともいえるORESAMA。今回のインタビューでは、『Hi-Fi POPS』以降に起こった出来事を軸に、ぽんの作詞と歌、小島英也の作編曲における変化について話を聞いた。(編集部)

ORESAMA流“ロック”はシンセの使い方にあり

ーーまずは前回のワンマンライブから振り返らせてください。アルバムを踏まえてあのライブを見ると、最後に持ってきた「銀河」も含め、過去の曲たちも違ってみえたことが何より印象的でした。

小島:アニメのタイアップなどを経て、音楽的にも新しいことへのチャレンジがありましたし、昔からORESAMAを聴いてくれてた人も、今回のアルバムで知ってくれた人もいて、これまでにないくらい多様性のあるライブだったと思うんです。フィールドもどんどん大きくなって、自分たちもよりパワーアップしていかなければという気持ちだったので、1回1回のライブが本当に重要だという意識も次第に強くなってきて、かなり気合も入っていました。

ぽん:たしかに、ORESAMAだけを見に来てくださっている人のうねりみたいなのが今までとは違っていて、見える景色もどんどん広がってきたなと思いました。以前は後ろの方まで見渡せたし、「あの人、今お酒飲んでる」なんてわかっていたんですけど、だんだんとそういう広さを超えていて、「私たちより上の年代の方まで、これだけの人が今日この時間この場所に集まってくれて、一緒に楽しんでくれてる」という光景に、すごくジーンときました。

ーー再メジャーデビュー以降、ここまで順調にステップアップしていることに対して、2人は多少の不安を感じたりもするんですか。

小島:僕だけかもしれないですけど、大きいステージに行くということは、やっぱり怖いです。とはいえ『Animelo Summer Live (アニサマ)』のさいたまスーパーアリーナ規模くらいになると、もう全く想像がつかないんですけど。

ーー今のところは順調にいってる、という手応えを感じてもいるわけですよね?

ぽん:そうですね。このアルバムをリリースしたタイミングが、自分たち含めてチームの1つの区切りだったと思います。再スタートを切らせていただいてからの曲がぎゅっと詰まっていたり、Blu-rayには「オオカミハート」を含めてすべてのMVが収録されていて。「Hi-Fi TRAIN」のMVでもその要素を拾っていただいたりしたので。だからこそ、今回のシングルはその区切りを経て、自分たちをどう表現するのか、すごく考えました。新たなORESAMAを見せるにはどうしたらいいか、次のステップを踏むにはどうしたらいいか、って。そういうことをチームで考えてる時に、タイアップのお話をいただけたことが、すごく良いタイミングだったんです。

ーーそのタイアップの元はTVアニメ『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』(BSスカパー!、アニマックス)で、『魔法陣グルグル』に引き続き、大きい作品の主題歌を担当することになりました。制作側からはどのようなリクエストがあったのでしょうか?

小島:制作側からのリクエストも含めて、プロデューサーさんたちと「どういう曲にしようか」という打ち合わせをしたんですが、キーワードとしては「疾走感」「クール」「ロックテイスト」というものが挙がってきたんです。

ーーエンディングでここまで疾走感のある曲も珍しいですし、何よりORESAMAにロックテイスト、というのは面白いオーダーですね。

ぽん:そのオーダーをいただけたことによって、また新たな一歩を踏み出すことができたと思います。

ーーしかもロック的なアプローチにしたことによって、「オオカミハート」のような初期ORESAMA感が出たなと思っていて。アルバムの次に出す作品として、どこかORESAMAが“次のステップ”に入ったことを感じさせる楽曲だなと。

小島:確かに「ロック」というキーワードをORESAMAなりに解釈していった結果がこの曲なんですけど、完成してみたら僕の知ってるロックではなく、ORESAMA流のロックになったなと。細かいところだと、僕は曲に歪んだギターを入れないので、代わりにシンセでディストーションっぽい音を作るんです。それは「オオカミハート」と「ホトハシル」の両方に入っているので、そう感じたのかもしれません。

ーーそうか、小島さんなりのロックはそこにあるんですね。アルバムの曲では、クラブミュージックとして色んなサブジャンルに触れながらポップスにするというアプローチをやってきたと思うんですけど、今回はそこまで参照点を広げずに、展開も少なめで一本芯が通っている印象です。

小島:確かに、この曲は急な転調とか展開というのはすごい少ないんです。それは、リズムに集中したからだと思っていて。ORESAMA流のロックでは、どういうリズムを刻むのかと悩んだんですけど、16分のビートで裏拍を強調して、それをさらに跳ねさせてリズムを刻むというアプローチを意識しました。ディスコミュージックで使われているBPMよりちょっと早めなので、せわしないかなという危惧もあったんですけど、全然大丈夫でした。むしろ、これをやったからこそ、疾走感というか、少し陽気で踊れる要素も入ったと思うので。もちろん、歪んだギターがここに加わっていればもっとロックっぽくなったのかもしれないんですけど、一切歪ませず、クリーンでカッティングを入れるいつものアプローチをしたので。

ーーその工夫が小島さんのらしさですよね。あと、曲の部分で印象に残ったのは、今話題に上がったリズムのところで。リズムマシンのハイハットが終始TRAPっぽくチキチキ鳴っているのが、『ムヒョロジ』の世界観やダークな感じを担保しているようにも感じました。

小島:そこはキーポイントですね。16分のあのスピードで1曲を通してずっと鳴らすというのは、自分の中でも一つの挑戦でした。あれの一番気持ちいいアプローチって、裏はハーフのビートで、ゆっくりドラムのキックとスネアが鳴ってることなんですよ。でも、今回はあえて後ろも細かく刻んで、その上で16分で鳴らしてみたんです。どの楽器も刻んでいるのでぶつかり合わないか不安だったんですけど、ちゃんと調和してくれました。

ーーそのリズムにおける挑戦は、歌にもフィードバックされている気がするんです。ぽんさんの歌って、伸びがあって透き通っていてキュートな声という印象だったんですけど、「ホトハシル」は歌に疾走感が出ているというか、声の切り方がすごく心地良いし、ライブ感も出ているように感じました。

ぽん:この曲に関しては、やっぱり強くてクールな感じを意識しようと思ったんです。今までは1曲ごとに合わせた歌い方をしようと思っていたんですけど、最近は「ORESAMAのぽんだったらどう表現するだろう」という風に、俯瞰して見ることのできる自分もいて。「ホトハシル」に関しては、歌詞の自分のイメージと曲が持つテイストに合わせてどう歌うかを、今まで以上に考えた曲かもしれません。

ーー最終的にその歌のイメージというのは、どういうアプローチに落ち着いたんですか。

ぽん:私の場合は声を張りすぎず、ファルセットを使ったアプローチの中で、「必死さ」や「疾走感」を出そうとしました。声の切り方に関しても、小島くんから「ここは絶対切ってほしい」というリクエストもあったりしましたね。

ーー今お話してもらった要素は、特にサビのリフレインに表れているような気がします。

ぽん:サビに関しては、私の中でストレートで、より伝わりやすい言葉を選びました。私は造語を作ってサビの頭に持ってくることも多いんですけど、今回はストレートなもので自分自身をどう奮い立たせることができるか、というイメージで書いたので、今までよりも暑苦しさが出ているフレーズだと思います。でも、そこを暑苦しくしないのがORESAMAのぽんだと思ったので、歌い方は「熱いけどクール」に聴こえるよう意識しました。

ーーたしかに、ここまでストレートな歌詞はORESAMAになかったですね。

ぽん:作品と自分とをちゃんと見て、リンクする部分を書くという手法だからこそ、今回はよりストレートにできたんだと思います。『ムヒョロジ』は、コミカルな面もありながら、霊を裁くストーリーということで、作品の中には必ず人の死があって。大切な人の死をどう乗り越えていくか、ということを含め、自分自身や色んなことを乗り越える物語でもあると思うんです。私自身も励まされて、少しずつ読もうと思ったのに一晩で全部読み切ってしまって。「私も前に進まなきゃ」と思った感覚をそのまま歌詞に落とし込んだので、まっすぐ歌詞にも反映されたんじゃないかと思います。

ーー〈僕らの選んだ正義の道を〉という歌詞は、ORESAMAでは使ってこなかった表現のような。

ぽん:作品の中では主人公たちが裁く側の立場ではあるんですけど、本当の正義って人それぞれ違ったりして、それでも自分の正義を信じていないとやっていけないことは多いじゃないですか。そういう部分にも胸を打たれましたし、だからこそこういう言葉が出てきたんだと思います。

ーーぽんさんは作詞家としてもどんどん覚醒しつつありますね。こうしてストレートな表現をあえて選ぶこともできるようになってきて、ORESAMAとして使える言葉や選べる表現の選択肢も広がってきました。

ぽん:今は本当に広げていく時期なんだと思っています。アルバム1枚を作ることで大きく広がったのに、さらに今回はその外側に行くことになって、すごく楽しいんですよ。

小島:ぽんちゃんが歌うと、こういう熱い言い回しも不思議と暑苦しくならないのが面白いですね。

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