kz(livetune)が『BEATLESS』劇伴で目指した表現「良い違和感をどう生み出すか」

kzが語る『BEATLESS』劇伴

 長谷敏司の人気SF小説を原作とした現在放送中のTVアニメTVアニメ『BEATLESS ビートレス』が、いよいよ物語の終盤へと向かっている。22世紀、人類知能を凌駕し、より遥かに高度な知性を持つ超高度AI・hIEが現れた世界を舞台にした同作において、未来感や緊迫したバトルを彩る劇伴は重要な存在で、今回はNARASAKIとkz(livetune)を中心に楽曲が制作されたという。

 そこでリアルサウンドでは、5月25日にリリースとなった『TVアニメ「BEATLESS」オリジナルサウンドトラック』について、kz(livetune)へインタビューを行った。イメージアルバム『BEATLESS “Tool for the Outsourcers”』から同作に関わるkzが、アニメ版の音楽を担当するにあたって、どのような表現を目指したのか、劇伴作家として関わる作品が増えてきたkzは、今後どういったキャリアへと向かうのか。じっくりと話を聞いた。(編集部)

「なんとなくポーター・ロビンソンの顔が浮かんできた」

ーーkzさんは、元々イメージアルバム『BEATLESS “Tool for the Outsourcers”』を手がけていたじゃないですか。その時はアニメーションではなく、長谷敏司さんの書いた原作とredjuice(しる)さんのイラストからインスピレーションを得て作ったわけですよね。

kz:そうですね。ただ、あのコンピレーション自体はそこまで各アーティストに細かく発注せず、自由に作ってもらったんです。

ーーだとすると、アニメ化にあたって、新たに様々なオーダーもあったと思うのですが。

kz:今回に関しては、水島(精二)監督の作品ということが大きくて。彼はひとりの友人でもあるので、安心して作ることができたというか、単純にやりやすかったです。

――kzさんが劇伴を手がけるのは今回が2作目です。昨年、初めて劇伴を担当したアニメ『バトルガール ハイスクール』では、ダンスミュージックを大胆に取り入れたり、19人ボーカルの楽曲に挑戦したりと、かなりトリッキーな作品でしたよね。

kz:ははは(笑)。ボーカル曲は録っても録っても終わらなくて、かなりカロリーの高い作品でした(笑)。でも、普段のサウンドとは違うオーケストラのような楽曲等、色々なことに挑戦させてもらえた作品でもあります。

――今回は単独名義ではなく、NARASAKIさんを含む様々なクリエイターさんと分担して制作という形を取っていますが、どういう経緯でそうなったんですか?

kz:順を追って話すと、そもそも一番最初にエンディング曲、ClariSの「PRIMALove」のオファーをいただいたんですよ。そこから水島さんと打ち合わせをすることになったんですけど、話し始めたら「折角だし劇伴もやる?」という展開になりまして(笑)。で、NARASAKIさんはこれまで水島さんの作品で劇伴を担当してきたので、彼がメインで担当しつつ、「ここにkzの曲が欲しい」というメニューだけ制作するという形でした。最初の打ち合わせの時にも、僕の方から「メインテーマを共有したり、二人の劇伴に共通項を持たせますか?」と質問したんですけど、水島さんからは「それはあえてやらないようにしたい。2人がいる意味を際立たせたい」とリクエストしてもらえたので、作業が終わるまでNARASAKIさんが作った部分の楽曲を一切聴かない、という作り方で進めていきました。

――イメージアルバムを経て、アニメ化の際に水島さんから与えられた新しい視点やオーダーはありましたか?

kz:いえ、僕はイメージアルバムの時とアニメでそこまで印象を変えないようにしていました。というのも『BEATLESS』自体、長谷さんの世界観がかなり強い作品だと思うんです。水島さんもそのあたりは、尊重しつつ作ってくるだろうなと思っていたし、実際に膨大な情報量の原作を上手く編集していくという形でアニメが作られていったので、その方向性で間違いなかったと改めて感じます。

ーーkzさんは「欲しいところだけピンポイントでオファーされた」ということですが、どの曲から取り掛かっていったんですか?

kz:全曲中11曲を僕が担当しているんですが、最初の劇伴打ち合わせの段階で、「この曲はNARASAKIさんが担当、この曲はkzさんが担当」と書いてありましたね。

――シートを見る限り、お互いに楽曲は聴いてなくても、オーダーの内容は全体像から予め共有はされていたんですね。

kz:そうですね。そのうえで自分の役割は「ダンスミュージックを制作すること」なのかな、と思いました。

ーーkzさんの楽曲が初めて出てくるのは、1話終盤のレイシアによる戦闘シーンですよね?

kz:いえ、1話冒頭のヘリコプターが登場するシーンも僕の音楽です。あれはメニュー以外に「心情系で2曲くらい作って欲しい」と言われて、不穏な楽曲を2つ作っていて。その片方が使われていて、「そう来たか!」と思った記憶があります。

ーー全話通して汎用曲のように使われているあの音ですね。そんな経緯で作られていたとは意外です。

kz:シリアスな部分の導入として使ってもらえていた印象です。

ーーたしかに、会話劇での使用も多いですね。それでもやはり印象に残ったのは、kzさんの作ったダンスミュージックの部分で。特に2話のファッションショーでは、先のイメージアルバムに収録されていたPa's Lam Systemの「Trust」から、kzさんが手がけ、halcaさんが歌っている「Resonator」に繋がっていて、テンションが上がりました。「Resonator」は「Trust」と繋がる前提で作ったんですか?

kz:いえ、以前作ったイメージアルバムについては楽曲を使う予定じゃなかったみたいです。ただ、アニメを作っていくなかで何曲か使いたいという方向になり、その後はbanvox「Monolith」や、livetune adding NIRGILIS名義の「Dreaming Shout」が流れましたね。そのなかでも最初に使うことになったのが「Trust」で、アニメのクレジットにPa’s Lam Systemと出てくるのは新鮮でした(笑)。

――攻めてるなあという気概が伝わってきて、面白かったです。「Resonator」はkzさんがlivetune+名義などで手がけている、フューチャーベース的な音楽性に近いような気がするのですが。

kz:この曲については「ファッションショーを盛り上げるEDM」というオーダーをいただいてたんですが、あまりファッションショー的な音楽やテンポ感に近づけると、チャラさが悪目立ちしてしまうなと思っていて。もう少しナチュラルなトーンの音を作ろうと考えていたら、なんとなくポーター・ロビンソンの顔が浮かんできたんです。彼の曲って、BPM100〜110くらいのスローテンポなEDMが多いじゃないですか。僕自身の曲でも「Anywhere」(『VOCALOID 夢眠ネム』収録)なんかが近いテイストで、このあたりの楽曲に近いものを、というイメージで作りました。

ーー他方でバトル曲はゴリゴリに尖った楽曲も作っていますね。3話のレイシア誘拐後に流れる「Rush」は、ダブステップ〜ブロステップ的な音の作り方に聴こえました。

kz:アニメの楽曲でダブステップを取り入れているものって、結構2010年あたりのワブルベースっぽい音色が多くてすごく歯がゆさを感じるので、その辺りは2017〜18年風にアップデートしようという明確な目的がありました。なのでベースも最近の16分で細かくビキビキ鳴ってるサウンドにしたり、Trapでよくあるブレイクに中東っぽいテイストを加えたりとか。イントロとかはそんな感じですね。後半4つ打ちになるのも好きなので取り入れてます。

――たしかに、ここまで現行の音に寄せているのは新鮮でした。あと、全体的な印象として、『BEATLESS』の劇伴ーーとくにkzさんの作った曲は、とにかく音圧がすごいんですよ。キックもBGMのレベルじゃないくらい厚めに鳴ってますし(笑)。

kz:ああ、うるさいですよね(笑)。それはもちろん、あえてそうしています。水島さんからのオーダーである「2人がいる意味を際立たせたい」というのを考えると、僕がいることによる良い意味での違和感をどうやって生み出すかがポイントだなと。そこで遠慮していわゆる劇伴っぽい劇伴を作るのは違うなと思ったので、自分が劇伴を作っているという状況を踏まえずにやってしまおうということで、こんな感じにしてみました。

――アニメをリアルタイムで見ていると、1話はわりと劇伴っぽい、状況説明の曲が後半まで続いていて。だんだん様子がおかしくなってきたと思ったら、kzさんの曲だったという。

kz:決定的におかしくなったのは、3話の誘拐シーンですね(笑)。

――あのあたりのシーンを見たときに、kzさんを起用した意図が伝わってきたような気がしました。

kz:そう思ってもらえていたならよかったです。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる