『ノゲノラゼロ』&『よりもい』劇伴手がけた藤澤慶昌に聞く 異世界と日常を音楽でどう描くか?

ノゲノラゼロ&よりもい劇伴秘話

 いよいよ最終回に向けてラストスパートに入り、先日放送の11話も反響を呼んだ、今季注目のTVアニメ『宇宙よりも遠い場所』。その劇伴を手がけるのは、『ラブライブ!』や『宝石の国』などでも活躍した藤澤慶昌だ。今回はある仕掛けを施したという『宇宙よりも遠い場所』の劇伴について迫るとともに、監督・いしづかあつこ、音響監督・明田川仁、制作・MADHOUSEと同じチームで作った『映画「ノーゲーム・ノーライフ ゼロ」』の劇伴との関連性、音楽で“異世界もの”と“日常もの”を表現する際の手法などについて話を聞いた。(編集部)

「『ラブライブ!』での長崎さんとの仕事がヒントに」

ーー藤澤さんの経歴を紐解いていくと、歌モノの作編曲家として活動をスタートさせ、劇伴作家になったというキャリアですよね。

藤澤慶昌(以下、藤澤):はい、でもずっと劇伴作家になりたいとは思っていました。ただ、そこにたどり着くルートがなかなかなくて。2010年に映画『ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国』のアレンジコンペで2ndアレンジャーとして採用されたことをきっかけに、劇伴作家として活動できるようになりました。

ーー元々劇伴作家を目指していたということは、ルーツも映画音楽だったりするのでしょうか。

藤澤:王道ですけど、『スター・ウォーズ』や『インディー・ジョーンズ』のような、子供の頃に観た映画が原体験として残っていますし、小さい頃からエレクトーンをやっていて、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のテーマをコピーするような子供でした。

ーーいま振り返ってみて、映画音楽のどんなポイントに魅力を感じたと思いますか?

藤澤:映画館で過ごす2時間って、音楽も含めてすごく深いところまで入っていけるーー没入感があるというか。そこにすごく興味を持ったし、面白いと思ったポイントかもしれません。

ーーそのなかで実際に自分が作り手に回りたいと考えるようになったきっかけは?

藤澤:作り手に回りたいとは、小さい頃から考えていましたよ。でも、オーケストラの勉強をしてこなかったので、音楽作家として活動し始めた時期は「自分にはできない」と思ったし、実際にスキルもなかった。ただ、音としては聴いてるし、頭の中では鳴っていたんですよ。自分にもできるかもと思ったのは、先ほどお話しした『ウルトラマンゼロ』のタイミングで。ポップスでもまだ少ししか弦を書いてない時期だったのに、安請け合いしちゃって(笑)。1stアレンジャーの方からも教わりながら、必死に勉強して作り込んでいったんです。そのなかで「あ、この頭の中で鳴っている音はこうすれば作れるんだ」というのが見えた瞬間があって。そこから僕の書いた曲に、僕の好きな映画音楽の音がちゃんと現れるようになりました。

ーーずっと頭の中で鳴っている音を作れるようになった瞬間だったんですね。藤澤さんといえば、2013年に手がけた『ラブライブ!』の劇伴が、個人的には強く印象に残っています。

藤澤:はじめて一から十まで自分の音が全部出たような作品ですね。特に1期は初期衝動が詰まったものになっていると思います。

ーーご自身のルーツや『ウルトラマン』は、いわゆるフィルムスコアで作った音楽だと思うのですが、メニューから作るアニメの劇伴というのは、制作手法や構成に戸惑ったりしませんでしたか?

藤澤:あんまり意識はしなかったんですけど、当時は歌モノをやっている影響でA→B→サビみたいにポップスっぽい展開を作ってしまっていたきらいがあって。それを少しずつ映画っぽくしたいなと思っていたところに、『ラブライブ!』劇伴のお話があって。音響監督の長崎行男さんは、メニューの書き方が映画っぽいんですよ。

ーーそうか、音響監督は長崎さんでしたね。前クールでタッグを組んだ『宝石の国』でも、フィルムスコアリング的な手法を取り入れていました。

藤澤:そうなんです。ポップスっぽくなってしまう自分の癖を直す際に、長崎さんとのお仕事がヒントになった部分はありますね。「こうしたら映画っぽいスコアが書けるんだ」と。

ーーだとすると、このタイミングで長崎さんと組んだのはかなり大きいですね。

藤澤:そうですね。長崎さんと組まなければ、今もポップスっぽい劇伴を書く作家になっていたかもしれません。こうして振り返ると、確かに色んなことが繋がってますね。

ーーここまでキャリアを振り返ってみて、藤澤さんの音楽家としての特徴を少しだけ垣間見れた気がします。今回はサウンドトラックがリリースされる『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』と『宇宙よりも遠い場所』の2作について聞きたいのですが、ざっくり分類すると「異世界もの」と「ある種の日常もの」という振り幅の大きな2作ですね。『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』に関しては、ヒットした原作もそうですし、他の作家さんが手がけたTVアニメ版の音楽があったわけなので、制約も多かったと思うのですが。

藤澤:TVシリーズも原作もヒットしているので、それなりにプレッシャーはありましたね。でも、スタッフミーティングで「時代設定が本編よりも6000年前だから、別のものとして捉えましょう」という話になったり、絵柄や色合いも結構変わったりと、これまでの作品を意識しなくていい環境があったので、かなりやりやすくなりました。とはいえ、プレッシャーは相変わらずありましたが(笑)。

ーーそのスタッフミーティングで、最初に伝えられたオーダーとは?

藤澤:最初にいただいたキーワードは「負け戦」で。作品自体がその通りになるわけではないのですが、リクとシュヴィの尊厳を貫く映画だし、2人の意志が繋がるように作るべきだなと思ったので、完全な絶望や負け感を出さないまま、しんどい雰囲気を音楽で演出しようとしました。メニューや監督の話を聞いたり、自分でも原作を読んだりしたときに、「生きるとは」というポイントにフォーカスしたいなと思ったんです。愛や命と言ってしまえば抽象的なんですけど、リクとシュヴィにフォーカスを当てて寄り添うと、つまりはそういうことになるので。

ーー異世界ものは非日常を演出するという性質上、派手な音色や壮大な音の使い方をすることが多いと思うのですが、全体的な音の印象としては、パーカッションを使ったリズム周りに生々しさや妖しさのようなものを感じました。

藤澤:まだゲームがゲームじゃなかった頃の話だし、魔法もそこまで出てこないので、監督のいしづかあつこさんと音響監督の明田川仁さんからは「土着感」、つまり土臭い感じが欲しいねと言われたんです。民族同士のバトルでもあったので、どこか民族感を出したいなと考えて、電気的な楽器をなるべく使わないようにしました。一方、機械種族であるエクスマキナのシーンでは電気的な楽器を盛大に使ったので、そのギャップもポイントです。

ーーなるほど。生楽器、民族的という制約を生み出したうえで、一番苦戦したのはどの辺りでしょうか。

藤澤:気をつけたのは、2人の関係が深まっていくところですね。展開的には端折るところも多かったので、そこを音楽で補完できればと思い、同じ楽曲を3回、それぞれ編成を次第に厚くすることで深さを演出したのは大変だった気がします。あと、苦戦したのは演説のシーンで使ったM23「さあ、ゲームを始めよう」ですね。全体的にセリフが多い作品ではあるんですが、会話劇のなかで5分半流すこの曲は特に、どこまで音楽を立たせるべきか手こずりました。あとはM39の「ステイル・メイト – 最終決戦 - 」。戦っているようで戦っていないので(笑)、どうやって状況を考えつつ戦争感を演出するかというのも難しかったです。

ーーリテイク時にいしづか監督から戻ってきたコメント資料もいただいたのですが、全体的に緊張感がありすぎるのを緩めたり、熱量を足すというリテイクが多い印象です。

藤澤:そうですね。シュヴィの天撃のシーンでは、最初はバリアが間に合わずに撃たれるところで音が止まって落ちていって、セリフきっかけでピアノが入るようにしていたんですけど、あまりにも絶望感が大きかったので、音は止めない方向に方針を変えたものの、その展開を繋げるのには苦戦しました。ピアノの一本のパートも、編成は変えずに幸福感を足すというリテイクがあったので、これも難しかったですね。いま振り返ると、全体的に感情を出しすぎたんですよね。全体のテンションよりもキャラクターの心の動きに合わせすぎたというか。自分は放っておくと内省的な音楽になっていく傾向があるので。

ーー裏を返せば、デリケートな、心の動きを表現するのが得意ということですよね。それは最初にお話しいただいた没入感の話ともリンクすると思います。

藤澤:そうかもしれません。あと、本を読んででも「この人はどういう気持ちなんだろう」と思ったりするので。文章にないところとかで、余計なことを考えたり。

ーー行間を読もうとするわけですね。でも、そもそも劇伴ってセリフの間にある行間を補完する役割があるわけですし、なるべくして劇伴作家になったんじゃないかと思うんですが。

藤澤:だといいんですけどね(笑)。

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