栗原裕一郎が花澤香菜ワンマンライヴ『HAPPY HANAZAWEEEEN』をレポート
花澤香菜、ハロウィンライヴでエンターテイナーぶり見せる ポテンシャルの高さ発揮した一夜をレポート
10月1日、渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて、花澤香菜のワンマンライヴ『HAPPY HANAZAWEEEEN』が開催された。ハロウィーンというイベントに絡めた一夜だけのスペシャルライヴである。演奏はもちろん、花澤のサウンドプロデューサー北川勝利の率いるディスティネーションズだ。
花澤の音楽活動を振り返ると、単発のワンマンライヴは非常に珍しい、というより初めての試みである。
6月に行われた『あたらしいうた』のリリースイベントで、北川と花澤のあいだでおおよそこんなやりとりがあった。シングル曲にもライヴであまり演奏できていない曲があるという話の流れで、
北川「曲がいっぱいあるからね〜。ライヴもいっぱいやればいいんじゃない?」
花澤「アルバムのリリースとは関係ないライヴもやりたいな!」
北川「来週空いてるよ?」
花澤「え、来週……すか?」
むろんジョークなのだけれど、抽選で招待されたお客さんで満員の会場に「来週やれ」という思念がにわかに立ち籠めたのを、僕は痛烈に感じ取った(笑)。あの日湧きあがっていた思念に代表されるファンの熱い要望と、花澤自身の希望が重なって、『HAPPY HANAZAWEEEEN』の開催が決まったのだろう。
フロアを埋め尽くすパンプキン色のペンライト
duoの公称キャパはスタンディング時で700人だが、チケットは発売後間もなくソールドアウトしており、フロアは文字通り立錐の余地もない。「仮装OK!」とアナウンスされていたため、一足早いハロウィーンコスプレで身を包んだファンも多かった。
開演時間が近づくと、北川がこの日のために作ったSE「HANAZAWEEEENのテーマ」に乗せて、老婆の声色を装った花澤の「イーッヒッヒッヒッ! いい子にしないとパンにしてやるー!」というナレーションが流れた。
ハロウィーン気分を盛り上げたところで、花澤とメンバーが登場。花澤は魔女のコスプレで、箒のかたちのマイクスタンドを携えている。えーっと、ごく控えめにいって、ものすごく可愛かったです。箒マイクはアニプレックス・スタッフによる手製だそうで、穂の部分にブルーのLEDがあしらわれていた。メンバーの面々は光るツノを頭に乗せている。
この日のディスティネーショズは、約1年半ぶりに、武道館公演から始まった『花澤香菜 live 2015 “Blue Avenue”』ツアーと同じメンバーが揃った。具体的には、北川勝利(ギター)、SATOKO(ドラム)、高井亮士(ベース)、末永華子(キーボード)、山之内俊夫(ギター)の5名だ。ディスティネーションズはベースとドラムが流動的だが、この並びがいわばスタメンとなるだろうか。ここにブラスのFIRE HORNSが加われば武道館の再現……と考えていたら、途中「Night And Day」でトランペットのAtsukiが飛び入り参加するというサプライズがあった。
ステージもファンものっけの「今朝のこと」からハイテンションで、本当にもうお祭り騒ぎである。2015年11月から行われたライヴサーキット『かなめぐり』はアコースティックライヴだったから客席は当然静かだったし、『透明な女の子』と『あたらしいうた』のリリースイベントも種々の条件でノリノリになるような状況はなかった。武道館以来に溜まった鬱積を吐き出すかのように声が上がり、パンプキン色のペンライトが一斉に振られるフロアはちょっと圧巻だった。
duoはフロアに太い柱が4本も立っているという謎の構造で(プロデュースはジャミロクワイである)、柱付近や裏からはステージに死角ができてしまう。それを気遣って花澤は「いっぱい動くからね!」と最初のMCで約束して、言葉通り動き回っていた。彼女のそんなサービス精神が熱気を盛り立てるのに大いに寄与していたことは間違いない。duoの邪魔な柱のおかげで、花澤のエンターティナー性がひときわ発揮されたわけだ。災いを転じて福となすというやつである。
ライヴのチケットにはオリジナルのカズーが付属しており、客席も演奏に参加する場面が用意されていた。ライヴ初披露となる「trick or treat!」がその曲で、演奏に入る前に花澤から簡単に吹き方の説明があったのだが(ぜんぜん説明になってなかったけど)、「じゃあ、練習ね!」と促されてお客さんが一斉に吹いたカズーの音が思い掛けずもノイジーな大音量でちょっと驚いた。「蜂の大群が押し寄せてくるみたいで怖い!」と花澤もひるんでいたけれど、実際に演奏と重なるといい塩梅で、ステージとフロアの一体感を醸し出すのに実に良い小道具だった。花澤もメンバーも気に入っていたようなので、今後のライヴでも使われるかもしれない。
ハロウィーンライヴということで、この日は北川から「ハナザー!」「ウィーン!」というコール&レスポンスが提案されて、その応酬が要所でなされたのだが、すごかったのはアンコールのときだ。演奏のない状態で北川がコールし、客席が「ウィーン!」と返す瞬間があったのだけれど、レスポンスのデシベルがことのほか大きかったのか、場内に残響が幾重にもこだましたのである。北川もちょっと唖然とした顔をして、もう一回と促したほどだった。