今あえて「シンガー・ソングライター」と呼びたい音楽家とは? 村尾泰郎が邦洋の6作品を紹介

 半世紀前ならシンガー・ソングライターは特別な存在だったが、最近ではミュージシャンが自分で曲を書いて演奏するのは当たり前に思われているかもしれない。場合によっては、プロデュースやミックスまで自分でこなすミュージシャンもいるくらいだ。そうしたミュージシャンが増えるなか、今もあえて「シンガー・ソングライター」と呼びたくなるのは、その言葉に特別な何かを感じるからだろう。その“何か”を感じさせてくれる作品を、6~7月の新作のなかから選んでみた。

 まずはLA在住のジェシカ・プラットのセカンド・アルバム『オン・ユア・オウン・ラヴ・アゲイン』。ボニー“プリンス”ビリーやスモッグが所属するインディー・レーベル、ドラッグ・シティからリリースされた本作は、デビュー作『Jessica Pratt』同様、自宅のベッドルームでレコーディングされた。ギターの弾き語りなのも前作と同じだが、今回はオルガンやクラヴィネットが淡く彩りを加えている。そんななか、彼女が爪弾くギター、紡ぎ出すメロディーは不思議な心地良さがあって、その歌は煙草の煙みたいにゆらゆらと漂いながら夜の闇に吸い込まれていくようだ。鼻にかかった歌声も魅力的で、アシッド・フォーク的な気怠さのなかに可憐な表情を覗かせて、多重録音されたハーモニーもキュート。いま一番、ナマで聴いてみたいシンガーだ。

 さらにもう一人、USインディー・シーンで注目を集めるアーティストを。エズラ・ファーマン『パーペチュアル・モーション・ピープル』は、まずジャケットに写し出されたエズラの女装姿に惹きつけられる。これは本人いわく「性的に不安定な」自分をありのままに表現したもの。彼の歌には社会から疎外されたアウトサイダーの怒りや共感に満ちているが、ドゥーワップやロカビリーなどオールディーズを独自に消化したサウンドは、エズラがリスペクトするアリエル・ピンクに通じるネジが外れたようなポップさ満載。ホーンが豪快に鳴り響くなか、エズラが噛みつくようにシャウトする。そこにはアレックス・チルトンに通じるヤサグレたアメリカーナ臭も漂っていて、次作はぜひ獄中のフィル・スペクターにプロデュースをお願いしたい。

 新人が続いたので今度はベテランを。イギリス出身のマーティン・ニューウェルは、70年代からグラム~パンク~ニュー・ウェイヴをリアルタイムで体験しながら様々なバンドを渡り歩き、90年代以降はアンディ・パートリッジ(XTC)やルイ・フィリップのプロデュースのもとで良質なソロ・アルバムを発表した。ここ数年、彼が80年代に在籍した伝説のギター・ポップ・バンド、クリーナーズ・フロム・ヴィーナスの旧作が、マック・デマルコなどが所属するブルックリンのインディー・レーベル、キャプチュアード・トラックスから立て続けに再発されたが、遂にソロ名義では8年振りの新作『Teatime Assortment』を完成させた。本作は架空の映画のサウンドトラックというコンセプトで全曲宅録。何と言っても魅力的なのは熟成されたソングライティングだ。牧歌的で、メランコリックで、ヒネリが効いていてと、英国気質に満ちたいぶし銀のポップス職人ぶりを発揮。たっぷり24曲、1時間に渡って“マーティン・ニューウェル劇場”が楽しめるので、聴き始める前に紅茶のクッキーの用意をお忘れなく。

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