演劇に出演するアイドルが増えた理由は? シーンの動向から背景を読み解く

 AKB48の田野優花と、NMB48の梅田彩佳が、10月21日のニコニコ生放送『AKB主演ミュージカル「ウィズ~オズの魔法使い~」 最終オーディション』で、見事主役・ドロシーの座を勝ち取り、ファンの間で話題となっている。

 アイドルが舞台に挑戦するケースはほかにも多い。AKB48グループだけでも、田野が10月23日から、主演舞台『トロイメライにさよなら』に出演するほか、SNH48/SKE48の宮澤佐江は、9月11~16日に上演されたミュージカル『AKB49~恋愛禁止条例~』で主演を務めた。ライバルグループである乃木坂46は、ミュージカル公演『16人のプリンシパル』を毎年行い、生田絵梨花は10月2~5日に上演されたミュージカル『虹のプレリュード』で主演。若月佑美は前田司郎作・演出の舞台 『生きてるものはいないのか』に出演中で、衛藤美彩と桜井玲香は、三宅裕司が演出を務める劇団スーパー・エキセントリック・シアターの『Mr.カミナリ』に、客演として出演することが決定している。

 アイドルカルチャーに詳しいライターの香月孝史氏によると、アイドルが舞台に出演するケースには、大きく分けて3つのパターンがあるという。

「アイドルが出演する舞台は、ハロー!プロジェクトの演劇女子部のように、特定のアイドル(グループ)を出演させるために企画されたもの、夢見るアドレセンスや東京パフォーマンスドールなど、コンセプトに"演劇""演技”を入れたアイドルがライブの一環として演劇を行うもの、そして今回の『ウィズ~ オズの魔法使い~』や『生きてるものはいないのか』のように、外部の演劇作品に主演・客演として出演するもの、という3つのパターンがあります。AKB48グループの場合、卒業後に役立ちそうなコネクション作りのために、外部ディレクションの舞台に出演することも多いです。『ウィズ』の場合は特に、そうしたコネクションを強く意識した企画といえるでしょう」

 また、舞台に出演するアイドルが増えている理由としては、ライブアイドルが増加して、シーンが飽和状態になったことも関係していると香月氏は続ける。

「ライブアイドル全盛期と言われているアイドルシーンにおいて、“舞台もひとつの現場”という感覚が生まれてきているように感じます。シーンが飽和状態になる中、ほかのグループとの差別化のために演劇をコンセプトに折り込むケースも増えていますね。ただ、テレビメディアで活躍することの多いアイドルが舞台に力を注ぐことで、知名度が上がりにくくなるのでは、と危惧する声もあります。演劇作品、特に出演するアイドルの事務所主導ではない作品はDVDソフトなどにパッケージ化されることが少なく、ストリーミング配信なども行わないケースが多いので、多くの人に知ってもらうには、やはりテレビ出演の方が効果的でしょう。しかし、舞台には演劇関係者が多く訪れるため、今後の仕事に繋がるチャンスも多いです」

 専用劇場を持たずに舞台重視で活躍する乃木坂46の舞台出演については、『演技の上手いアイドルが女優になる』という流れを一気に加速させる可能性があるという。

「若月さんの出演する『生きてるものはいないのか』は特に注目したい試みです。小劇場界の実力者である前田司郎さんの作品においては、役者としての個性が作品に先行して目立つことは求められませんし、そういう意味ではアイドルを起用する必然性から最も遠い舞台ともいえます。先日、同作を観ましたが、若月さんはしっかりといち役者として溶け込んでいました。本格的な俳優の道を目指すのであれば、こういった舞台への出演が多くなればなるほど、演者としての頭角を現していきますし、グループ自体にこういった作品へのパイプが出来れば面白いですね」

 また、『AKB49~恋愛禁止条例~』や『生きてるものはいないのか』、『16人のプリンシパル』を手掛ける製作会社・ネルケプランニングもまた、アイドルと演劇の距離を縮める役割を果たしているという。

「ミュージカル『テニスの王子様』などのいわゆる“2.5次元舞台”で有名なネルケプランニングは、アイドル的な人気も兼ねた若手役者を成長させる舞台を作ることが多い会社です。“2.5次元舞台”を盛り上げたメソッドを持っている同社とアイドルグループが積極的に絡むという試みはまだ始まったばかりですが、相性が良いことは間違いなく、今後も同社主導でアイドルが出演する舞台は増えていくでしょう」

 前田敦子や大島優子は、AKB48卒業後に女優へ転身したが、アイドル界と演劇界の距離が近づくことによって、今後ますますそういったケースは増加していきそうだ。

(文=編集部)

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