AI時代に「エンタメは勝ち組」である理由 今井翔太が語る、人間固有の“差分”と創作の未来

人間が作る価値と若手を待つ“2022年問題”

――AGIができた瞬間に、すべての仕事がなくなるわけではないと。一方で、生成AIはすでにさまざまなエンタメの制作にも入り始めています。AIがさらに発展したとき、漫画やゲーム、映画、音楽といったエンタメはどう変わっていくと考えていますか。

今井:僕は、エンタメは勝ち組だと思っています。「AIに仕事を奪われるのか」という話をするとき、僕はよく「無人島に漂着したときに役に立たない仕事は大丈夫です、無人島で役に立つ仕事は危ないです」と言うんです。

――普通に考えると、むしろ逆のようにも聞こえます。

今井:無人島で生き延びるには、まず食料を確保して、家を建てて、服を用意する必要がありますよね。そこで「私は小説を書きます」「ゲームを作ります」と言っても、そんなことをしている場合じゃない(笑)。でも、人間が生きるために必要なものが十分に行き渡った社会では、状況が逆転します。

 生存に絶対必要な仕事ほど、「それを人間がやったかAIがやったか」は重要ではなくなる。家を建ててもらうとき、それがきちんと機能するのであれば、人間が作ったかAIが作ったかはそれほど気にされない。一方、エンタメは違います。漫画もゲームも、生きるために絶対必要なものではない。社会に余裕があるからこそ成立している。そのため逆説的に、「誰が作ったのか」「人間がやったのか」ということ自体を気にするようになるんです。

――たしかに生成AIをめぐる議論でも、「人間が作ったものだからこそ価値がある」という感覚はあります。それはスポーツで、記録だけではなく「人間がそれを成し遂げること」に価値を感じるのにも近いのでしょうか。

今井:そうです。スポーツも同じです。大谷翔平選手が速いボールを投げることには価値があります。でも「物体を速く投げる」という能力だけなら、機械を使えばもっと速くできる。ウサイン・ボルトが100メートルを9秒58で走るのもすごいけれど、単純な移動速度なら車のほうが速い。それでも人間がやるから価値がある。

 純粋な能力の出力や生産性とは切り離されたところに価値がある分野があって、その大半を占めるのがエンタメなんです。だからAIが発展しても、人間のスターは今後も必要とされ続けると思います。

――ただ、エンタメそのものがなくならないとしても、AIによって作られるコンテンツの量は一気に増えますよね。すでに活躍している人以上に、これから名を上げようとする若いクリエイターへの影響が大きいのではないかと感じています。

今井:そこはあります。特に若い人は苦労が増えるかもしれません。AIそのものと競争するというより、人間には1日24時間しかないので、結局は人の時間の奪い合いになるんです。創作コンテンツが増えれば増えるほど、その数に埋もれて、自分の作品を見つけてもらうこと自体が難しくなる。

 もうひとつ、僕が「2022年問題」と呼んでいるものがあります。2022年以前に作品を作ってインターネットにアップしていたり、出版物として残していたりする人は、生成AIがなかった時代にすごいものを作れたことがすでに証明されています。

 一方、2022年以降に出てくる人は、「これは本人の実力なのか、それとも生成AIを使ったものなのか」と疑われる可能性がある。2022年以前に、その人自身の才能を証明するものがない。それはこれから世に出ようとする人にとって、難しい問題になると思います。

――そう聞くと、これからクリエイターを目指す世代はかなり不利にも思えます。でも一方で、生成AIがあることが前提の世代だからこその可能性もあるのでしょうか。

今井:あります。むしろ大きなチャンスでもあると思います。2022年以前からやっている人は、AIがない世界の常識が染みついてしまっている。でも、インターネットや生成AIのような革新的な技術が出てきたときには、それを前提にして、昔なら考えられなかったようなことをする人が出てくるんです。

 Amazonのジェフ・ベゾスも、小売りや書籍販売の専門家だったからAmazonを作ったわけではありません。インターネットという新しい技術を使って書籍を売ったらどうなるのかを考えた。革新的な技術が出てきたときには、それまでの業界の常識を知らない後発の人が、一気にひっくり返すことがあります。

 生成AIも同じです。従来なら専門知識がなければできなかったことを、AIがあることを前提に実現してしまう人が出てくる。若い人にとっては、そういうことができるチャンスでもあります。

人間にしかない“差分”を生かした創作、AIが広げるエンタメの可能性

――クリエイターがAIをどう活用するかは、分野によってもかなり違いそうです。今のエンタメのなかで、特にAIを使う意味が大きいのはどんな領域でしょうか。

今井:たとえばゲーム制作は、AIを使う意味がかなり大きい分野でしょう。僕は『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』が好きなんですけど、昔は今のように何年もの間隔を空けずに新作が出ていました。でも、現在の大作ゲームはグラフィックもシステムも非常にリッチになっていて、作品自体が大規模になりすぎています。

 人間のゲームクリエイターを育成するには時間がかかるし、人間の脳の作りも、1日が24時間という制約も変わらない。それなのに、ゲームに求められるクオリティはどんどん上がっていく。そうすると、「アイデアとしては実現したいけれど、人間だけではリソースが足りなくて作れない」という領域が出てくる。

 そういうところでは、AIを使うことはかなり重要な選択肢になると思います。エンタメ全般でも、人間がアイデアを持っていても、リソースの都合で絶対に実現できなかったものをAIによって作れるようになる可能性があります。

――一方で、AIを使わず、人間自身が手を動かして作ることも残っていくのでしょうか。

今井:残ると思います。そして、エンタメで重要なのは「差分」です。モネの絵とピカソの絵は、どちらがいいですかと言われても、人によって違うし、時代によっても違う。ゲームでも「このゲームとこのゲームのどちらがいいか」は、人によって違いますよね。

 一方、科学や数学、プログラミングには明確な基準があります。研究なら後発の研究が発展していないといけないし、生産性を求める分野なら、より効率がいいほうがいい。ひとつの指標に従って最大化していける世界です。

 でも、エンタメはそもそもそういうものではありません。むしろ人と違うこと自体が価値になる。人工知能の性能がどれだけ上がったとしても、人間にはそれぞれ固有の経験があります。その「差分」が重要な世界であれば、人間がAIに負けることは別にないと思います。

――その「差分」を、オリジナリティと言い換えてもいいのでしょうか。

今井:そうですね。オンリーワンの経験をしよう、と言ってもいい。ただ、別にわざわざオンリーワンの経験をしようとしなくても、世の中の人は全員違う経験をしているはずなんですよ。

――私自身も含めて、これから何かを作って世に出していこうとする20〜30代、あるいはもっと若い世代にとって、AIとの付き合い方は避けて通れない問題になっています。自分にしかない経験やアイデアを軸にしながら、それをAIによって広げたり、形にしたりしていく。そうした向き合い方が、ひとつの可能性になるのでしょうか。

今井:そうだと思います。ただ、もちろん全員が救われるとは言っていません。それが商業的に成功するかどうかは全く別です。

 でも、生産性が完全に正義になる分野と比べると、エンタメにはまだ全然余地がある。人間固有の経験は全員違うわけですから、その差分を生かして作ればいいし、むしろAIを、自分の差分を社会に浸透させるために使えばいい。そういう意味では、エンタメはむしろ最後に残された領域のひとつではないかと思っています。

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