幸せな協力関係が“スーパーときめきヒロイン”を生み出した夜——ぶいすぽっ!橘ひなのワンマンライブ『Progress』レポート
王道の人気曲でスパートをかける “次”に向けた決意表明も
MCを挟んだ終盤戦。大好きな曲として「君の知らない物語」のカバーを橘ひなのは歌った。王道の人気曲が歌われたことで会場内の熱は一気にあがり、激しいコールが湧き上がった。さらに、その後は「Tell Your World」へと続く。ここまで19曲、しかも2DAYS歌い続けても、橘の歌声が発する魅力は全く衰えることがない。難易度の高い高音パートまでパワーたっぷりに歌い続けているのだから、そのバイタリティには驚かされる。この曲ではダイヤに包まれて私服からフェス衣装に着替えるバーチャルならではの演出も入り、ファンを大いに魅了した。
「また、いつかみんなの前に立って、このピンク色の景色を見れるように、また頑張るので!」
DAY1でも言っていた、また次もやりたいという旨の発言を、この日のMCでもする橘ひなの。今回のライブには「1stライブ」という記載がない。次があるのかどうかは、このライブの前には何も決まっていなかったからなのだろう。しかし彼女は、決意表明として「次のライブをやりたい」と何度もライブで言ってきた。もちろんここまで大規模なライブをやるのは簡単なことではないが、“Progresss(前進)”し続ける彼女の視線はもう次のライブへと向き始めている。
最後の曲として歌われたのがsasakure.UK×DECO*27 feat. 初音ミクの「39」。DAY1でもラスト曲として歌われた曲だ。今回のライブでは「ありがとう」という感謝の言葉を交えたMCや楽曲が多い。意図的なのだろう。彼女はステージに立って、歌を披露することで、ありとあらゆる人に感謝を伝えたかったのかもしれない。今年、6周年を迎え、チャンネル登録者数100万人を達成し、デジタルEPをリリースする、という怒涛の日々を送ってきた彼女。自身の喜びだけでなく、あらゆる人へ思いを伝えたい、というのがよく伝わってくるライブ構成になっていた。
「39」を歌い終わるやいなや、アンコールが会場中から湧き上がる。そのアンコールに応えて歌われた一曲目がYOASOBIの「怪物」のカバーだ。DAY1のアンコールではEGOISTの「名前のない怪物」が歌われており、怪物つながりで文脈を作っているのが粋だ。
「あのとき(デビュー当時)の私に教えてあげたい。本当に。こんな素敵な景色を今あんたは見てますよと教えてあげたいです」
ワンマンライブが終わる間際に、彼女はこう語った。デビュー当時には、本当にこんなライブができるとは思いもしなかったのだろう。「泣いちゃいそう」とちょっとふざけながら語る橘ひなの。昔から自信がなく、自分のことがあまり好きではなかったという彼女だが、6周年を迎え、ファンに褒められたことで自己肯定感があがり、自分のことが好きになれた、と語る。
「みんなが観てくれてるからこそ、私は配信ができるし、橘ひなのとして存在できているんですね。だからこれからも配信を続けていきたいと思っているので」「これからも長ーく長ーくみんなと一緒にいれたらいいなと思っています!」「みんながいてくれたから私は今ここにいるし、配信者の友達、そして運営さん、もう全て私に関わってくれている人、全員にいつも感謝していまーす!」
ところどころ照れ笑いを入れつつも、この日の橘ひなのは冗談で誤魔化すことなく、自身の感謝の思いを皆の前で幾度も言葉にし続けていた。
ここでサプライズが入る。なんとぶいすぽっ!「運営1」のほしから手紙が届いたのだ。観客からも歓声があがる。
内容は、ライブ開催とチャンネル登録者数100万人を達成したことに対しての、お祝いメッセージだった。手紙には「100万人という数字そのものよりも、そこに辿り着くまでの時間の方が、ずっと印象に残っています」という言葉が綴られていた。ゲームの腕前や声質に悩んでいたことがあるという橘ひなのは、「運営1」であるほし氏に相談していた時期もあったそうだ。
リスナーが喜んでくれているかどうか悩んでいたのを見て、「元気いっぱいに見えて、そんなに自分に自信がない性格」だと思っているとも手紙には書かれていた。それらを踏まえたうえで「それでも一つひとつ積み重ねてきた結果が、今日なんだと思ってます。その積み重ねで『本当にここまで来たんだな』という気持ちの方が大きいです」とほし氏は手紙の中で語った。
「今日の景色は、今までひなのちゃんが悩んでやってきたことが、ちゃんと誰かに届いていたことの証なんじゃないかなと思います」という文面を読み上げ、感極まって涙を流した橘ひなの。「ぶいすぽっ!」の運営チームとタレントが、素晴らしい関係を築けていることが非常によくわかるワンシーンだった。
橘ひなの自身も「私はほしさんにね、拾ってもらえなかったら、本当にこんな素敵な場所には立ててないので」「これからもね、少しでもほしさんがやりたいなと思っていることとか、そういうものに沢山協力していけたらいいなと思っていますし、これからもぶいすぽっ!として頑張らせてください、ほしさんよろしくお願いします!」と、感謝の言葉をまっすぐに語っている。これを聞いた観客からも、大きな拍手と歓声があがった。
橘ひなのは、真っ向から歌で勝負できるくらい歌唱力の高いVTuberだ。かわいさ満点なアイドル的要素をしっかり表現できるし、自身のあり方や思いを込めた楽曲を情感豊かに包み隠さず歌うこともできる。バラードで繊細な感情を表現することも、パワフルさ全開にポジティブな歌で聴く人を元気にさせる力もある、オールマイティなシンガーだ。
しかし、それでもなお大規模なリアルライブを実現することは、簡単な道のりではなかったはず。MCでも語られていたが、彼女の所属するグループ「ぶいすぽっ!」は「ゲームとeスポーツという共通言語を通じて、メンバーが新しい挑戦に向き合う姿からファンの心を動かし、誰かが一歩を踏み出すきっかけを届けること」を掲げた事務所だ。ゲーム好きな女の子たちが集まったこの事務所で、リアルライブを、しかもワンマンで開催するとまでは、運営側も思っていなかったかもしれない。
それでも、ひとりのタレントの「やりたい」という思いを叶えて、実現にこぎつけた事実に、「ぶいすぽっ!」運営の姿勢がよく伝わってくる。もちろん、これは橘ひなのが成し遂げた100万人登録者達成というたゆまぬ努力と結果あってこそではあるが、その努力の過程を見て、真摯に夢を叶えてくれたのが「ぶいすぽっ!」という事務所なのだ。
橘ひなのが「運営側に協力したい」という姿勢を強く表明したのも、その信頼関係が成り立っているからこそだろう。運営とタレントの仲がよい、というのは、リスナーにとっても理想的だ。それぞれがお互いのやりたいことをリスペクトして協力しあい、夢を叶えあえる関係であることは、見ていて安心もするし、箱全体を応援したいという気持ちが湧いてくる。「ぶいすぽっ!」の箱人気が高いのは、タレントたちの才能と努力はもちろんのこと、運営チームとの関係の良さも大きな要因であることが、今回のライブからひしひしと伝わってきた。
橘ひなのが「今日泣いた人いる?」と質問したとき、多くの人が声をあげた。「どこで泣いたわけ?」と聞かれて観客は一斉に「今!」と答えた。運営とタレントの歩んできた情熱的なドラマが、人の心を大きく動かしたのだ。
「また絶対に、ライブをやると約束します!」と宣言した後、本当にラストの曲として歌われたのは、橘ひなののオリジナル曲「スーパーときめきヒロイン」。力強さとかわいさをたっぷりと盛り込んだ、元気いっぱい・ポジティブさ満点の、橘ひなのを象徴する楽曲だ。曲にあわせて、会場にはハート型の紙吹雪がひらひらと舞い降りた。
橘ひなのの「スーパーヒロイン的なたくましさ」が感じられるこの楽曲だが、「運営1」であるほし氏の手紙やここまで歌われた楽曲の歌詞を思い返すと、見え方が変わってくる。かつては自分に自信がなく、悩みが多かった橘ひなの。彼女はリスナーや運営に支えられながら悩みを乗り越え、ステージに立ってこの曲を歌っている。そんな文脈が見えてきたとき、この曲は彼女がさらに前に進むべく、次の一歩を踏みしめるための決意表明のようにも感じられる。
「橘ひなの」のドラマを凝縮した最高のライブ
振り返ってみれば、DAY1・DAY2共にセットリストの組み方が秀逸だった。力強いボーカルを活かすパート、平成女子としての味わいを楽しめるパート、アイドルとしてのキュートさを表現したパート、バラードでじっくり味わうパートと畳み掛けることで、まず彼女の歌とダンスの力量をしっかり見せてくれた。その上でオリジナル曲「Progress」や「ウラガワ」で彼女自身の今までの歩みや思いを振り返り、感謝を述べながらスーパーヒロインへと高みに登っていく。シンガーとしての技術でしっかり楽しませてくれつつ、自身をさらけ出して表現する構成は、「橘ひなの」というVTuberが歩んできた軌跡、ドラマを凝縮して見せてくれたかのようだ。
大盛況で終えたワンマンライブだが、橘はさらに大きな舞台でのライブを望んでいると、DAY1、DAY2を通して高らかに宣言していた。彼女の今の実力と人気なら、その夢もきっと叶うに違いないそして、そのライブがさらに充実したものになるであろうことは、今回の橘ひなののパフォーマンスを見ても、「ぶいすぽっ!」運営の姿勢を見ても明らかだ。彼女の次なる飛躍に、大いに期待したい。
■公演情報
『Tachibana Hinano One-Man Live Progress』
DAY2|8月16日(日)セットリスト
M1. Unready World / 橘ひなの
M2. 放課後ストライド / Last Note. feat. GUMI
M3. メランコリック / Junky feat. 鏡音リン
M4. 拝啓、スタートライン / 橘ひなの
M5. 天使にふれたよ! / 放課後ティータイム
M6. 深愛 / 水樹奈々
M7. Love me? / 橘ひなの
M8. 大♡大♡大♡大好き / 橘ひなの
M9. 本気ボンバー!! / Berryz工房
M10. fancy baby doll / 田村ゆかり
M11. 初恋サイダー / Buono!
M12. センチメンタル・キス / 汐れいら
M13. 生きてこそ / Kiroro
M14. Progress / 橘ひなの
M15. 花瓶に触れた / バルーン feat. flower
M16. フロントメモリー / 神聖かまってちゃん feat. 川本真琴
M17. ウラガワ / 橘ひなの
M18. 君の知らない物語 / supercell
M19. Tell Your World / livetune feat. 初音ミク
M20. 39 / sasakure.UK×DECO*27 feat. 初音ミク
EN1. 怪物 / YOASOBI
EN2. スーパーときめきヒロイン / 橘ひなの
■配信情報
チケット:各日6,000円(税込)
【DAY1】ライブ配信終了後〜8月29日(土) 23:59まで
【DAY2】ライブ配信終了後〜8月30日(日) 23:59まで
https://event.vspo.jp/Tachibana-Hinano-Progress/