幸せな協力関係が“スーパーときめきヒロイン”を生み出した夜——ぶいすぽっ!橘ひなのワンマンライブ『Progress』レポート

橘ひなの“らしさ”を象徴する「携帯型ライト」が会場を照らす

 MCでは、橘ひなのが「お気に入りのグッズ」について観客に尋ねる一幕があった。もちろん今回人気だったのは、携帯型ライト。彼女が語りかける度にピンクの光の波が会場中に広がっていく。「この景色は本当に、私の宝物になります」と橘ひなのは深々と頭を下げた。彼女のこの言葉は心からの本音なのだろう。ここからの中盤戦以降も、橘ひなのは観客のピンクの光に包まれ続けることになる。

 「次から、盛り上がる、もっともっと声出せる曲用意してますよ!」と会場に火を付けた橘。フェス衣装に着替え、2025年9月にリリースされたオリジナル曲「大♡大♡大♡大好き」を歌い始めると、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。一途な恋心を歌うこの作品を、橘ひなのは自身のかわいさを最大限まで活かしたキュートなダンスと歌声で披露。会場のボルテージはまたたく間に最大に到達した。

 この曲の魅力は、彼女のかわいらしいボーカルだけではない。歌そのものの巧さも注目したいポイントだ。女の子が抱く恋愛のいじらしさを繊細に歌うと同時に、そのハッピーさを橘ひなのならではの明るくパワフルな歌声で表現している。後半の転調で音が上がる部分では、“大好き”の気持ちで大きく心の扉を開けていくかのような解放感が彼女の歌にはあった。恋する乙女がぐいぐい前進していくのを表現した、ポジティブなステージに仕上がっていた。

 ここからはBerryz工房の「本気ボンバー!!」、田村ゆかりの「fancy baby doll」、Buono!の「初恋サイダー」と、橘ひなののアイドル性がぐっと引き立つカバー曲が連続で歌われた。中でも「fancy baby doll」は歌い方を今まで以上に“かわいい”全振りにシフト、橘ひなのの新たな表現の一面を見せた。

 なお田村ゆかりのこの曲は「世界一かわいいよ!」とコールを入れるのが定番になっている。配信のコメント欄では、理解っているファンから「世界一かわいいよ!」コールが飛び交った。DAY1では田村ゆかりの「Fantastic future」のカバーを披露。橘ひなののイメージカラーのピンク色で本家と通じ合っているのはニヤリとできるポイントだ。

 その後のMCでは定番の「アリーナ!」「二階席!」「三階席!」というコール&レスポンスを行った橘ひなの。観客席からはもうひとつのコール対象として「配信!」という声があがったのだが、これを橘ひなのが「スパイシー」と聞き間違えたものだから、会場も配信コメント欄も大笑い。以降配信コメントでは自分たちのことを「スパイシー」と呼ぶようになる、楽しい一幕もあった。

 ここからはチルなバラードパート。汐れいらの「センチメンタル・キス」、Kiroroの「生きてこそ」が歌われ、場内はがらりと空気を変えた。

 パワー系の楽曲や明るい楽曲、ガーリーな楽曲を得意とする橘ひなのだが、バラード曲もしっとりと味わい深く歌いこなし、あらためてその実力に驚かされる。心に染み入るような楽曲を、優しく丁寧に歌い紡ぐ彼女の優しいボーカルを、観客はじっくりと聴き入っていた。

 ちなみに、Kiroro「生きてこそ」は2005年に放映されたアニメ『甲虫王者ムシキング〜森の民の伝説〜』の主題歌である。彼女が歌うのを聴いて懐かしさに胸を焼かれた人は多かったようで、配信では「やはり平成女子、分かってるな」「やばい、母さんの料理してくる音が聞こえる」と感激するコメントが飛び交った。録音した歌ハモパートとの調和も、とても美しい。橘ひなのというタレントの実力をまじまじと感じさせてくれるステージとなった。

 続けて歌われたのが、今回のライブタイトルでもあり、2026年8月7日発売のEPのタイトルにもなっている、橘ひなののオリジナル楽曲「Progress」だ。

 〈いつまでも消えない 二千日分のダイアリー〉という歌詞からもわかるように、この曲は2020年8月14日にデビューした橘ひなのが6周年を迎えたことを想起させる内容の曲だ。この6年間の歩みに対して「笑い合ってくれてありがとう」と感謝を込めた言葉が歌詞として刻まれている。

 直訳すると「前進」の意味を持つ「Progress」。これをライブのタイトルにしたのは、彼女自身が6年間の歩みを続けてみたことを振り返り、そこに感謝の気持ちを持ちながら、ここからさらに前に進んでいこうという決意があったからだろう。思いをたっぷりこめた歌のあと、会場からは自然に、拍手がわき起こった。

 曲後のMCで彼女は、観客やリスナーだけでなく、運営チーム、今回の楽曲に携わってくれた人たち、身の回りのマネジメントをするスタッフなどに対し、丁寧に感謝の言葉を述べた。特に、普段の活動においても協力体制を築いているスタッフに向けて語った言葉が印象的だ。スタッフの献身について、「おかげで好きなことをのびのびできている」と橘ひなのは語る。「頑張ってください、やめないでください」という彼女の言葉を聞けばわかるように、スタッフの仕事がいかに激務であるかは想像に難くない。それを隠さず舞台の上で語り、彼女は謝辞を述べる。大事なことをまっすぐに語ることができる、誠実な人柄がよく伝わってくる一幕だ。

 後半に向かうにつれてエモーショナルな空気が高まっていく中、「花瓶に触れた」「フロントメモリー」のカバーを歌う橘ひなの。激しくはないが、じわじわと心に入りこんでくるタイプの2曲を、抜群の安定感がある歌声で噛みしめるように歌い上げる。

 そのあとに歌われたのは、橘ひなののオリジナル曲「ウラガワ」だ。「こんなはずじゃなかった」「大嫌い」「わからない」と苦しみもがく気持ちと、その裏返しとして存在する「強くなりたい」「私が私であることを誇りたい」という思いを歌ったこの作品。歌詞だけ見れば「ネガティブな思い・気持ち」が率直に綴られているようにも思えるが、その裏には「ポジティブかつ熱い気持ちがある」というのを感じさせてくれる、情熱的な作品だ。そんな揺れ動く心を描いた楽曲を、橘ひなのは繊細に表現することを大事にしつつ、パワフルなボーカルを駆使して力強く歌う。この匙加減を調節できるのが、橘ひなのというボーカリストの力量だ。心の中に湧き上がる2面性を、そのまま歌声に落とし込んで、その両方を感じ取らせるだけの実力を持っている。

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