鈴木朋子のテックナビ・第4回
なぜ今、1時間に2秒だけ撮る「setlog」が人気なのか Instagram、BeRealから続く「疲れないSNS」への進化
1時間に1回、2秒だけ動画を撮る。そんなシンプルな仕組みのアプリ「setlog(セットログ)」が、いま日本のApp Store無料アプリランキングで首位を走っています。setlogは韓国で2025年12月にリリースされたVlogアプリで、当初は韓国語のみでしたが、Android版のリリースとほぼ同時期に日本語対応も進みました。それをきっかけに、2026年5月ごろから日本国内でも人気に火がつき、ランキング上位に食い込んでいます。
setlogでは、1時間ごとに通知が届き、その時間帯の好きなタイミングで約2秒の横長動画を撮影します。友人同士で作る「ログ」と呼ばれるグループの中で動画を共有し、1日の終わりにはメンバー全員分の動画が自動でつながり、1本のVlogとして完成します。編集や加工は必要なく、撮影した動画にキャプションを付けたり、友人の投稿にリアクションしたりする程度のシンプルな作りです。
なぜこれほどシンプルなアプリが、若者たちの心をつかんだのでしょうか。ここ10年ほどのSNSの変遷をたどってみると、setlogの人気は決して唐突なものではなく、ある必然の到達点だったことが見えてきます。
「インスタ映え」から「盛らないリアルさ」へ
Instagramが日本で存在感を強めた2017年前後は、「インスタ映え」という言葉が新語・流行語大賞に選ばれるほど、"盛る"ことが正義とされた時代でした。フィードに投稿した写真は消えずに残り、フォロワー数やいいねの数が可視化されます。誰に見られるかわからない不特定多数を意識しながら、少しでも見栄えのいい瞬間を選んで発信する。自己演出のプレッシャーが、SNS利用の前提にありました。
その空気を一変させたのがInstagramのストーリーズ機能です。2016年8月に登場したこの機能は、投稿から24時間で自動的に消えるのが最大の特徴でした。フィードほど作り込まなくていい、消えるからこそ気軽に投稿できる。Metaの発表によると、2018年11月時点で日本国内のデイリーアクティブアカウントの7割が利用するほど定着していました。
さらに同月には「親しい友達」機能が加わり、投稿を見せる相手をあらかじめ選んだリストに限定できるようになりました。誰にでも見せるのではなく、"見せる相手を選べる"ことで自分を飾らずに済むようになったのです。
次に変化をもたらしたのが、2023年ごろから人気を集めている「BeReal.」です。BeRealは「盛らないリアルさ」を掲げ、加工なしの日常をそのまま共有するアプリとして支持を広げました。投稿は不特定多数ではなく、承認した友人にしか公開されない仕組みで、ストーリーズの「親しい友達」機能が示した"見せる相手を選べる"という発想を、アプリ全体の前提としています。また、自分のBeRealを日記のように振り返ることができる「メモリーズ」も好評です。2026年6月時点で日本国内の月間アクティブユーザー数は650万人を超え、今も前年から3割ほど伸び続けているとのことで、勢いはいまも衰えていません。
ただしBeRealには、1日1回ランダムな時間に届く通知から2分以内に、インカメラとアウトカメラで同時に撮影しなければならないという、独自の緊張感があります。撮り直しの回数まで友人に表示される仕様もあり、"盛らない"はずが、いつしか一発勝負のゲームに近い緊張感を新たに抱え込むことになったのです。実際、当初からのユーザーの間には、「続けたい気持ちはあるのに、撮影のタイミングについていけなくなってきた」という声も出てきているようです。撮影しなければ友人の投稿が見られないため、無理やり撮影しなければならないこともプレッシャーになっています。
setlogは、BeRealが受け入れられた理由のひとつであるゲーム性を取り払い、クローズドな関係でリアルをシェアすることに絞ったアプリです。友人限定の「ログ」と呼ばれるグループの中で、1時間に1回、2秒ほどの動画を撮影し、投稿は義務ではなく、撮れなかった時間帯はただ黒い画面として記録されるだけ。1日の終わりには、メンバー全員分の動画が自動でつなぎ合わされ、1本のVlogとして仕上がります。編集や加工は加えられず、招待制のグループの外に投稿が漏れることもありません。ログは1人で複数作ることもでき、学校の友人向け、家族向け、恋人向けといった具合に、関係性ごとに見せる顔を使い分けているユーザーも少なくないようです。
なお、2026年7月のアップデートでは、1時間ごとの投稿制限が撤廃され、グループの上限人数も12人から20人に広がりました。この仕様変更はあまり歓迎されていない模様です。おそらく、若者は投稿に追われることなく日常を過ごし、気持ちが通い合う少数の友人と日常を共有することに価値を感じているのでしょう。
なぜ「疲れなさ」がここまで求められるのか
こうして振り返ると、SNSの進化は一本の線でつながっていることに気づきます。フィードからストーリーズへ、ストーリーズからBeRealへ、BeRealからsetlogへ。その道のりは、"見せる技術"を磨く歴史ではなく、"見せなくていい自由"を少しずつ獲得していく歴史に見えます。
setlogが持つクローズドな公開範囲、時間に追われない緩やかな設計、評価の入り込まない日記としての使い方。これらはどれも、この歴史の延長線上に生まれたものです。友人限定という発想はストーリーズの「親しい友達」機能が先に示し、加工なしの日常というテーマはBeRealが先に示していました。setlogは、この2つを掛け合わせた上で、BeRealの時間的な緊張感を取り除いた点にあります。SNS疲れという言葉が定着して久しい今の若者たちにとって、setlogのシンプルさは、偶然ではなく必然として選び取られたものと言えそうです。
この「疲れなさ」は、友人同士のグループ利用に限った話でもありません。setlogはグループを介さず1人で使うこともでき、その場合は1時間ごとの制限もかからないため、誰かに見せることを前提にしない日記やVlogとしても優秀です。撮りためた動画は自動でつながり、後から見返すだけで1日の記録になります。文章で書く日記よりもハードルが低いと感じる人も多いでしょう。
一方で、あえて人に見せる使い方も広がっています。アイドルグループ「CUTIE STREET」は、韓国の音楽番組出演という1日をsetlogで記録し、Xに投稿しました。クローズドな空間で撮られたはずの飾らない日常が、かえって「素顔が見える」コンテンツとして機能し、ファンの反応を集めています。個人の日記としても、誰かに見せるVlogとしても機能する柔軟さが、setlogの人気を後押ししているのかもしれません。
SNS疲れ時代に舞い降りたゆるさが魅力
setlog自体が一過性のブームで終わるのか、それとも定着していくのかは、まだわかりません。ただ、少なくとも言えることは、SNSが日常に溶け込んでいくにつれ、「もっと見せる」ことではなく「見せなくていい」安堵感にたどり着いたということです。毎日他人の目を気にして投稿したりコメントしたり、といった交流から解き放たれることにより、相手との友情がより深まったり、リアルの時間が充実したりといったこともあるでしょう。
ところで、筆者もsetlogを楽しんでいます。この疲れないゆるさは、大人世代でも無理なく続けられますし、1日の終わりに自動でVlogができあがるのも嬉しいポイントです。ぜひ家族や友人とグループを作って、ゆるく楽しんでみてください。