意外にも歴史が長い? バーチャルな存在の“始祖”から続く「実写×VTuber」によるVlog文化を紐解く

バーチャルな空間から出られないキズナアイの、外への憧れ
ここで逆に「現実世界に溶け込みたくても、あえてしなかった」例として、キズナアイにも触れておきたい。2016年から活動を開始し「バーチャルYouTuber」という言葉を生み出したキズナアイ。初期の彼女は真っ白い背景の空間で撮影を続けていた。これはAIである彼女の立場を示したものであり、「白い虚無の空間から出られない」と自ら語っている。そんな彼女が現実社会に憧れて撮影したのが、GoogleMapsを用いた散歩動画だ。
Googleストリートビューの上に自身の姿を重ねて撮影を行うというこの動画は、2017年3月に投稿されている。実写映像そのものではないが「バーチャルYouTuberが実写にあたるものと重なったお散歩Vlog的な動画」という視点での動画では、最初期のひとつとして挙げられるだろう。
その後も彼女は、自身はあくまでもバーチャル空間の中にいて外に出ることはできないものの、現実社会に対してアプローチする動画を度々出すようになっている。
中でも彼女の思想や立ち位置がわかりやすいのが、「AIAIAI」のMVだ。実写の女性の中にキズナアイが混じって撮影されているダンス付きの映像なのだが、ここでの彼女はリアルな人間の中に溶け込むのではなく、あくまでもバーチャル空間の中から、映像を映した板を通じてコミュニケーションを取っていることがわかる。ここが初期キズナアイの、バーチャルな存在としてのこだわりポイントだ。実写との融合をいち早く取り入れつつも、バーチャルな世界から彼女は飛び出さない、という表現を守り続けていたのだ。
そういう意味では、休眠期間を経て活動を再開した2025年、「ハンドサイン」のMVの中で彼女が現実社会に飛び出したのは大きな変化のひとつだった。今後どのようなスタンスになるかはわからないが、キズナアイが現実社会を巡るVlogをアップする日が来てもおかしくはないところまで来ている。
VTuberのVlogは「こちらに来る」文化
今回は2018年前後に、バーチャルから現実の実写世界にアプローチした面々を紹介してきたが、このスタイルが当時の少数派であったことはおぼえておきたい。特に2020年前後のコロナ禍にあっては、外に出かけてロケをすること自体が難しくなり、実写Vlogスタイルの動画もそこまで増えなかった。
しかしコロナが落ち着いた2020年代中盤に入ってからは、実写世界に飛び出して撮影するVTuberたちが続々と登場するようになった。特に近年、実写融合を用いた撮影技術が大きく発展し続けているのを考えると、さらにこれからバーチャルとリアルの壁を破ろうと挑戦をするVTuberは増えていくだろう。
とはいえ、シーン全体を見ると、2D・3Dを問わずほとんどのVTuberは、普段の動画や配信を「自宅」であるバーチャル空間からアップしている。そこから「お出かけ先」として実写の、つまり現実社会も選択するようになった、というのが今のVTuberによる実写Vlogのメインストリームだ。バーチャルに軸足を置いているが故に生まれる「ハレとケ」のバランスは、今後もVTuber独特の文化として残り続けるだろう。
普段はバーチャル空間にいるVTuberたちが、旅行や外食、散歩の様子を実写で撮影することは、ちょっとした非日常として「こちら側」に来てくれるということだ。バーチャルな存在がより身近な存在として感じられるからこそ、実写を用いたVTuberのVlog的動画は魅力がある。





















