新作アニメ放送中の『攻殻機動隊』 29年前に発売された“原作らしさ全開”のPSゲームとは
現在放送されているサイエンスSARU版『攻殻機動隊』の特徴は、原作コミックのテイストを色濃く反映した点にある。この特徴からの連想だろうか、ネット上で改めて話題となっているのをよく見かけるのが、PlayStationのゲームとして発売された『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』である。
このPS版『攻殻機動隊』が発売されたのは1997年の7月。押井守による劇場アニメの公開からおよそ1年半ほど経ったタイミングである。このゲームについてよく知られているのが、原作コミックに近いイメージで作られたという点だ。プレイヤーが操作するのは、押井版では存在が丸ごとカットされた思考戦車・フチコマ。ゲーム内に挟まれるアニメの絵柄も士郎正宗のものほぼそのままで、声優も押井版とは全く異なり、押井版以降草薙素子を演じ続けた田中敦子ではなく鶴ひろみが草薙素子を演じている。小川真司演じるバトーの飄々とした雰囲気も、原作のバトーに近いと言える。
北久保弘之×石野卓球——映像とテクノが生んだ唯一無二のオープニング
さらに本作について語られる際によく注目されるのが、オープニングのアニメとサントラについてだ。本作のオープニングは、士郎正宗原作のOVA『ブラックマジック M-66』を士郎正宗と共同監督した北久保弘之が監督(余談だが、バトー役の小川真司も『ブラックマジック M-66』に出演している)。当時としては珍しかったデジタルでの制作プロセスを活用し、アニメーターが作画した絵をスキャンした後、コンピューター上で彩色し、カメラワークや特殊効果を加える形でアニメが作られたという。2機のフチコマが縦横無尽に画面の中を走り回り、機関砲を乱射して周囲を激しく破壊しながら戦う映像は、今見ても充分かっこいい。
そしてこのオープニングにがっつりハマっているのが、石野卓球によるテーマ曲だ。このメインテーマをはじめ、本作のサントラには当時の名だたるテクノミュージシャンが参加。特にデトロイト・テクノの重鎮であるデリック・メイのひさびさの新曲が収録されたことでも、当時は大きな話題となった。なんとなくクラブやテクノと相性が良さそうに感じられる『攻殻機動隊』だが、実は劇伴が完全にテクノで固められた作品は本作くらいであり、そういった意味でも貴重な作品である。
士郎正宗が企画の最初期から関わったPS版
このような点については今でもよく振り返られるPS版『攻殻機動隊』だが、コミックに近いテイストの作品になったのは士郎正宗本人の意向もあったようだ。ゲーム発売当時に刊行された『攻殻機動隊 OFFICIAL ART BOOK』(講談社)によれば、そもそもPS版『攻殻機動隊』が作られた発端は、1995年にソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のゲームのキャラクターデザインを士郎正宗が手がけたことに遡る。そこで士郎正宗と接点のできたSCEの山元哲治(PS版『攻殻機動隊』トータルプロデューサー)が、『攻殻機動隊』をモチーフにしたゲームの企画書を士郎正宗本人から手渡されたのである。当時の士郎正宗は原稿が遅れるほどゲーム『ジャンピングフラッシュ!』にハマっており、その縁で『ジャンピングフラッシュ!』を手がけた新潟のソフトハウス・エグザクトがPS版『攻殻機動隊』を開発することになった。
士郎正宗による企画書の内容がそのままゲームになったわけではなかったが、制作がスタートしてからも士郎正宗はさまざまなアイデアやビデオ・写真での資料の提供をしていたそうで、またゲーム内で見られる草薙素子の服装なども多数デザインしている。そういった経緯を持つPS版『攻殻機動隊』は、ある意味では「士郎正宗が企画の最初期段階から関わった『攻殻機動隊』の映像作品」と言っていい。なんせ原作者が企画を持ち込んでいるのだから、原作コミックのテイストが色濃く受け継がれているのも当然なのだ。
フチコマで三次元空間を駆け回る、唯一無二の操作感
こういった制作経緯で知られるPS版『攻殻機動隊』だが、高校生の時に指が折れそうな勢いでやり込んだ立場で書かせてもらうと、ゲームとしてもムチャクチャに面白かった。本作はプレイアブルな人間のキャラクターは登場せず、全編フチコマを操作して戦うアクションシューティングである。このフチコマの操作感が非常にシンプルかつ独特で、病みつきになる面白さがあった。基本的には十字キーで前進・後退・左右旋回ができるのだが、十字キーでの操作では歩く速度が非常に遅い。それとは別にL・Rのボタンにスライド移動の操作が割り当てられており、この高速でのスライドが本作のキモである。
Lボタンを押せば左に、Rボタンを押せば右に高速でスライドし、L・Rを同時に押して十字キーの上・下を押せば高速で前進・後退する。基本的にはこの操作でフィールド上を高速移動できるのだが、LボタンもしくはRボタンを押しつつ逆側の左右キーを押し込むと、内側を向きながら高速で円運動をすることもできる。つまりターゲットの方向を向いたまま高速でその周囲をグルグル回り、フチコマの腕に取り付けられた機関砲を撃ちまくって敵を掃射したり、ホーミング機能のあるミサイルを撃ち込んだりできるのである。
さらにフチコマは垂直面に貼り付いたり、そのまま垂直面の表面をスライドして高速移動したりもできる。この壁面への貼り付きがあるため、慣れていないとどちらが上でどちらが下かもわからず、自分がフィールドのどのあたりにいるのかも把握できなくなる。が、操作に慣れてフチコマを自在に操ることができるようになれば、壁面によじ登って敵に発見されることなく上から弾幕を張って制圧したり、垂直面を高速で円運動しながら空中のターゲットをボコボコにしたりできるのである。三次元の空間を飛び回りながら、フチコマのポテンシャルを最大に活かして大量の敵を叩き潰す。まさに原作でイメージしていた公安9課とフチコマそのものの戦い方ができるのが、本作の大きな魅力だ。
加えて、ステージやミッション内容にバラエティがあったのも楽しかった。ベイエリアへの強襲に始まり、狭い下水道への侵入や巨大工場での爆弾解体、海上を高速で移動しながらのランドメイトとの撃ち合いや、夜間の高層ビル街での敵思考戦車との戦いを経て、巨大ビルを下から上に登っていく終盤戦になだれ込む。ステージごとのボスもゲーム的な必要性と「『攻殻機動隊』に出てくるメカ」であることをうまく両立したデザインになっていた。各ステージごとに違う切り口で、フチコマを操る楽しさを感じさせてくれるゲームだったように思う。
物語まで原作コミックらしい、軽やかな「公安9課の一事件」
さらに書くなら、ストーリーがいい意味で「軽かった」のも本作のいいところだった。PS版『攻殻機動隊』は、義体製造メーカーのメガテクボディ社で爆破テロが発生したところから始まる。爆破直後「人類解放戦線」を名乗るグループから犯行声明が出され、公安9課は逆探知によって突き止めた発信地であるベイエリアを強襲。さらに「人類解放戦線」を追う中で、エネルギー省の沢村技官とメガテクボディ社、そして人類解放戦線のリーダーである傭兵「ゼブラ27」のつながりが判明。情報調査と実行制圧の両面から陰謀を追う9課は、最終的に建設途中で放棄された巨大なタワービル「エアロポリスⅡ」へと辿り着く。プレイヤーはフチコマの操作能力を強化された9課の新人メンバーとして、この事件の捜査に参加するのである。
ストーリーが進む中でエアロポリスⅡの巨大反応炉が暴走したりと、規模の大きい見せ場もある。一方で「企業と行政とテロリストの癒着を、2班に分かれた9課が追う」というストーリーの骨子は、連続警察ドラマだったコミックの1エピソードとしていかにも存在しそうな内容だ。さながら「連続テレビシリーズの劇場版」といったボリューム感の物語となっており、コミックの存在を下敷きにした大型単発エピソードとして非常に飲み込みやすい。絵柄やオープニングのアニメだけではなく、物語自体もコミックの存在を前提にしているのが、PS版『攻殻機動隊』なのだ。
いまこそ望みたいPS版『攻殻機動隊』の復刻
このように非常に見どころの多い本作なのだが、現在のところ現行ハードへの移植は行われておらず、遊ぼうと思うとPS・PS2といった昔のハードと当時のソフトが必要となる。ソフト自体も現在は希少価値からか、なかなか高額となっており、ポンと買うにはちょっと勇気が必要そうだ。今となってはレトロゲームに区分される作品ではあり、そのままプレイするのは少々厳しいかもしれないが、それに収まらない面白さがあったのも間違いないはず。原作コミックに近いアニメが放送されている今だからこそ、なんらかの方法で再び手軽にプレイできるようになることを願っている。