大野雄二とゲーム音楽の邂逅 他の映像仕事とは異なる未知のモチベーション、コーエー×アルファレコードの関係性とともに辿る
管楽器主体の劇伴潮流の中で特殊な存在感を放った大野雄二の作風
大野は日本の映像音楽にジャズを持ち込んだ1人ではあるが、前例は幾つもあった。佐藤勝『狂った果実』(1956年)をはじめとした日活青春路線を中心に、黛敏郎『野獣死すべし』(1959年)、三保敬太郎『鐘』(1966年)、八木正生『非行少女ヨーコ』(1966年)、山本直純『みな殺しの拳銃』(1967年)、『殺しの烙印』(1967年)、佐藤允彦『豹は走った』(1970年)、前田憲男『3000キロの罠』(1971年)、菊地雅章『ヘアピン・サーカス』(1972年)、鈴木宏昌『サーキットの狼』(1977年)と名だたる作曲家がジャズスコアを残しているが、どれもモダンジャズの様式に則った野心的な劇場用作品が多かった。というのも、この頃のジャズには若者の反モラルな衝動、暴動を印象づける側面があり、その音楽的な補強に一役買っていた。一方TVドラマの世界では、山内正『ザ・ガードマン』(1968年)、菊池俊輔『キイハンター』(1968年)などが挙げられ、こちらは体制側だが、股旅ものを思わせるような時代劇感や昭和哀愁色が強く、クールなスタイルでテレビの前に現れたのは山下毅雄の『七人の刑事』(1961年)『プレイガール』(1969年)、そして『ルパン三世』(1971年、第1シリーズ)あたりが嚆矢になると思われる。だが山下は手法が実験的で異彩を放っており、ジャズに止まらない雑食性と編曲スタイルが山下独自のカラーを押し出していた。すなわち、ジャズと大衆性に折り合いをつけたコマーシャルな音をお茶の間に届けたのは、70年代に入った大野らの世代によって、という見立てが浮かび上がってくる。「わからない方が尊いみたいなことが僕は嫌いなタイプなんですよ。やっぱり”わかってなんぼでしょ”と」(『ルパン三世アニメ全史ぴあ』)。
テレビ界はその後、三保敬太郎が『ザ★ゴリラ7』(1975年)でファンクフュージョンを導入したあたりを転機に、深町栄『大都会II』(1977年)、荒川達彦『大都会III』(1978年)、宇都宮安重、石田勝範、羽田健太郎による『西部警察』シリーズ(1979〜) など、大野の『ルパン三世』(1977年)と前後してビッグバンド化していく。これらの規範となったのは海外作品で、カウント・ベイシー『シカゴ特捜隊M』(1958年)やヘンリー・マンシーニ『ピーター・ガン』(1958年)などが探偵・犯罪ものにジャズを当てがう手法を世に広め、ローリー・ジョンソン『アベンジャーズ』(1961年)、モンティ・ノーマン『007 ドクター・ノオ』(1962年)、ラロ・シフリン『スパイ大作戦』(1966年)、クインシー・ジョーンズ『鬼警部アイアンサイド』(1967年)といった作品がこの路線を決定的にフィックスさせて、日本も追った。
と同時に、60〜70年代はジャズ畑からクロスオーバーへ軸を移すプレイヤーが増えた時期でもあり、クインシー・ジョーンズがR&Bやファンクのグルーヴを取り入れたり、ピアノトリオ作を出していたボブ・ジェームスも作風を変え、フュージョンの源流となる都会的CTIサウンドを産みだしたことは、これらの作品に大きな影響を与えている。実際、大野はボブ・ジェームスの『ヘッズ』(1977年)にあたってLPの解説書に談話を寄せており、「ボブ・ジェイムスはデイブ・グルーシンと並んで今僕の最も好きなアレンジャーの一人だ」との書き出しで、デイブと対比させながら自論を展開している。「当時アメリカで流行っていたシティ派といわれるような大人っぽいサウンドが特に気に入っていてね。そういった音楽から取捨選択して、いち早く自分のサウンドというものを作っていった」(『ジャズ放浪記』) 。また『ルパン三世』のスコアを書く際にもデイブから学んだ部分も多いという。「映画『コンドル』には参考となる要素がたくさんあって、繰り返し聴いて研究した。ルパンの仕事をやりだしたのはちょうどこの時期で、ルパンの音楽にはデイブ・グルーシンのサウンドが色濃く反映されているんだよね」(『ジャズノート』より意訳)。『コンドル』の公開は1975年だが、翌1976年の大野作『犬神家の一族』でも、楽器選びなどで参照した部分が窺える。また『大追跡』(1978年/日本テレビ系)では、ラムゼイ・ルイス「スリック」(1976年)を下敷きに、フィラデルフィアソウルのストリングス術を組み入れた。鑑みるに、最先端ジャズとの同時代性、CM仕事で得たジャンルレスな音楽ボキャブラリー、情念を排した旋律、フレンチノワールを思わせる抑制された美学といった要素が、管楽器主体の劇伴潮流の中で大野を特殊な存在にした。
その他、大野雄二が遺したゲーム音楽のディスコグラフィ
大野がゲーム音楽を手がけた頃のパソコンゲームは、FM音源やPSG音源で音楽を鳴らすのが通常仕様であったが、CD-ROMドライブ付属モデルが出始めており、CD-DAが再生できる機種があった。ゲームプログラムが光学ドライブに指示を出し、進行上必要なタイミングでCD音源を再生しながらプレイできるのだ。家庭用でもPCエンジンCD-ROM²(1988年)、メガCD(1991年)が発売されており、同様の環境は整っていたが、自宅で遊べたのはスーパーファミコンとメガドライブのみ。前者に関しては『光栄オリジナルBGM集Vol.9 ヨーロッパ戦線/スーパー蒼き狼と白き牝鹿・元朝秘史』(KECH-1049)で音源を聴くことができる。内容はADPCM音源8チャンネルによる演奏となっており、氏のディスコグラフィの中でもかなり珍しい音資料となる。ただし、PCM音源に打ち込み直したのは光栄サウンドウェア室によるもの。こういったゲーム会社が外部作曲家に音楽を依頼する場合、デモテープと楽譜を納品して業務完了となる場合と、打ち込まれた演奏データを作曲家が聞いて試行錯誤を繰り返す場合とがあるが、大野はどちらの手順を踏んだのだろう。
以降はコーエーと縁がなく、『ルパン三世』のゲーム化にあたって散発的に参加している程度である。TV作品からの組み直しも多いが、ゲームシステムの性質上アクション曲の書き下ろしや、中国やヨーロッパなど舞台に応じた楽曲が用意されている。次項で列挙するCD化された作品はプレイステーション2時代のもので、盟友ドラマー市原康ら馴染みのメンバーを含めた、新旧ミュージシャンによる演奏を聴きながらゲームをプレイできる。また『ヨーロッパ戦線』でシンセサイザーを担当した吉田潔との縁が続いていることも添えておきたい。
リリースされているのは以下3タイトル。
・2002年『ルパン三世 魔術王の遺産 オリジナルサウンドトラック』(型番:VPCG-84752)(※1)
・2004年『ルパン三世 コロンブスの遺産は朱に染まる オリジナルサウンドトラック』(型番:FLCF-4045)(※2)
・2007年『Lupin The Third〜ルパンには死を、銭形には恋を〜 オリジナルサウンドトラック』(型番:VPCG-84855)(※3)
CD化されてないものに以下2タイトルがある。
・1997年『ルパン三世 カリオストロの城 -再会-』
・2010年『ルパン三世 史上最大の頭脳戦』
また、実制作には絡んでいないが、変わり種として株式会社平和のパチスロ機『パチスロ ルパン三世 ~不二子 100億$の女神~ Original Soundtrack』(2012年/型番:COCX-37203)(※4)がある。
平和サウンドチームがあの手この手で大野楽曲を再アレンジしたもので、一部テレビ版オリジナル音源を流用しつつ、遊戯機特有の高揚演出に向けて大胆な改変を施した。クールなクラブジャズや、デジタルロック、トランス、ロッカバラードなどの多彩な編曲、台詞のカットアップを用いた構成は、ルパン三世 30周年記念リミックスアルバム『PUNCH THE MONKEY!』シリーズ(1998年〜2001年)にも通じる企画性がある。
作曲家として頂点を迎え、人生観を再構築しつつあった大野雄二とゲームとの邂逅を、コーエー×アルファレコードの関係性に広げながらまとめてみた。氏の膨大なキャリアを“ある視点から”理解を深める手引きになれば幸いだ。
※1:https://www.vap.co.jp/ohno/discography/vpcg-84752.html
※2:http://www.forlife.co.jp/disco/flcf4045/
※3:https://www.vap.co.jp/ohno/discography/vpcg-84855.html
※4:https://columbia.jp/prod-info/COCX-37203/